第32回:コロナ禍におけるトヨタ系企業の役割
●日時:2021年2月9日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB会議(ZOOM)
●参加団体:28団体(運営9団体含む)
●参加人数:37名(運営スタッフ15名含む)
1.「コロナ禍の企業とNPO」月間第2弾情報提供
:コロナ禍におけるトヨタ系企業の役割
■ゲスト紹介/NPOおたがいさま会議コーディネーター・関口
今回はトヨタ系企業の方にお話しいただくが、一般企業のため本業がある中での社会貢献活動。企業の社会貢献活動は、以前は本業と切り離して余裕がある会社がする位置づけだったと思うが、現在では本業と密接につながり一体化していく意識で取り組まれており、そういった視点の話が伺える。
■コロナ禍における社会貢献活動について
株式会社デンソー 総務部 ソーシャルリレーション室 社会貢献推進課:鈴木治男氏
〇社会貢献の体制
デンソーは1949年にトヨタ自動車から分離独立し、トヨタのグループ会社となった。社員は世界で17万人、国内で4万5千人。自動車会社に直接販売する製品製造が多いが、皆さんに身近なところだと、バーコードに代わる情報管理システムのQRコードはデンソーのグループ会社が開発したものである。
デンソーの社会貢献活動の基本方針は3つ。①社会の持続的な発展のため社会貢献活動を推進し、信頼され共感される企業をめざす。②社員が自主的に社会貢献活動に参加する風土づくりに努める。③積極的な情報発信と、地域との双方向のコミュニケーションを通じ、信頼関係を深める。そして、重点活動の3分野は、環境教育や生物多様性などの「環境との共生」、交通安全や被災地支援などの「安心・安全」、青少年育成や障がい者支援などの「人づくり」である。体制としては、総務人事本部総務部の中にある社会貢献推進課に10名の社員が所属しており、私は被災地支援や障がい者福祉支援、社員のボランティアへの後押し支援を担当している。
〇コロナ禍における社会貢献活動の考え方
社員が感染を広げる側にならないように、緊急事態宣言発令地域への往来禁止、社内外の面着でのイベント参加自粛、プライベートでの不要不急の外出自粛など、厳しい社内ルールを設けている。このことから、リアルイベントでの社会貢献活動や社員へのボランティアの後押しが難しい状況になっている。そのような中、つながりのある自治体や地域団体からは、コロナ禍による様々な問題があるため支援してもらえないかという声があった。一方、社員300人が登録している社内のボランティアチームからも、何か支援活動ができないかという声もあった。そのため、社会貢献活動を止めるのではなく、感染対策をしながら社員のボランティア活動を後押ししていくこととなり、自宅でできるボランティア、オンラインイベントの推進、少人数でできる活動など、工夫しながら進めている。
〇コロナ禍におけるイベント実施
会社主導の施策として、「デンソーサイエンススクール」と「デンソーグループWebハートフルまつり」がある。サイエンススクールは、経産省「社会人講師活用教育支援プロジェクト」を通じて2008年から始まっており、自動車部品モーターを作っていることから、社員やOBが小学5年生にモーターの出前授業を実施。三河地区12市町106校を対象に、累計5万人に受けてもらっている。今年度はコロナ禍で学校敷地内に入るのが困難となったが、学校側からのニーズも強く、ケーブルテレビキャッチに協力いただき動画教材を製作して各小学校に無償配布をした。動画教材は好評いただいているが、子どもたちと実際に会って授業をしたいという声もあり、状況に応じて対面授業に戻していきたいと考えている。ハートフルまつりは、2012年から開催している社会貢献に特化した企画で、地域団体と社員をつなぐ定着イベントである。今回はリアル開催が難しいため、デンソー初のオンラインイベントとしてYouTubeチャンネルを開設し、Webハートフルまつりとした。目玉コンテンツとして、多文化共生リソースセンター東海の土井氏、ボラみみより情報局の織田氏、愛知淑徳大CCCの秋田氏に協力いただき、県内にある課題を知ってもらうワークショップを実施。地域16団体の活動紹介の動画や、社員ボランティアチームの活動紹介などもある。皆さんにも時間のある時にぜひ視聴していただきたい。(※Webハートフルまつり: https://www.youtube.com/channel/UC8cdJcaH_X4bI-i2Z8gmzAQ)
Webハートフルまつりは、東海地方の大学生ベンチャー企業である株式会社好生館プロジェクトに動画コンテンツ製作を委託した。好生館プロジェクトは「FIND THE TOKAI(https://find-bm.com)」という東海地方の魅力や頑張っている団体を紹介サイトの立ち上げにも関わっている。サイト上でネットショッピングも可能で、NPO法人や社会福祉法人等の商品を掲載し販売することもできる。関心のある方はつなぐことができるため、連絡をいただきたい。
社員ボランティア活動支援としては、ちょボラ活動や児童養護施設への支援などがある。ちょボラ活動では、社員が休み時間や自宅でできるボランティアを展開。約700枚の布マスクを製作し、ボラみみより情報局を通じて300の地域団体へ寄贈。デンソーには聴覚障がい者の社員が400人いるが、マスクで相手の口が隠れると口話が困難となる。そのため、OHPフィルムでクリアマスクを製作し、聴覚障がい者がいる全職場の同僚に配布した。RSYから情報を得て、ゴミ袋で作る感染防止用ガウンを200着製作し寄贈も行った。おたがいさま会議で話題提供があったコロナ禍で帰国困難となった外国人支援をしている徳林寺に対しては、社員によるフードドライブ活動を行い、米60㎏、袋麺130食、缶詰30個なども寄贈。児童養護施設への支援としては、製造所敷地内にあるミカン畑と施設をオンラインでつなげてのミカン狩りを行った。子どもたちが選んだミカンを社員が収穫し、翌日に社員がメッセージを添えて直接お届け。皆さんの笑顔が見られる活動となった。その他にも、子どもに人気の映画DVDとプロジェクターを寄贈して上映会も実施。福祉施設から商品が売れないという相談もあり、魅力的な商品開発支援として、デザインが得意な社員が協力して一緒にテディベアづくりを行っている。好きなことを活かした社会貢献として、社員が趣味で作っている野菜を徳林寺や地域の子ども食堂に寄贈もしている。
コロナ禍の中でできることは限られているが、Withコロナを見据え、これまでとは違った形で工夫しながら地域貢献を進めていきたい。おたがいさま会議のような情報共有の場がとてもありがたく、情報をいただきながらできることを考えていきたい。
■コロナ禍における社会貢献活動について
トヨタ自動車株式会社 社会貢献推進部 共生社会推進室 共生グループ:窪田博樹氏
〇取組みの方向性
感染が拡大し始めた昨年4月頃、トヨタの社会貢献で世の中に役立てるように、3つの方向性を定めた。①ウイルス危機対応にリソーセス(資源)を集中。社会貢献をするためにトヨタ自動車が創設されたという原点に立ち戻り、コロナ禍で困っている人に対して、トヨタの強みと世界規模の課題解決に結びづける。②「拡大期」「収束期」「回復期」といったフェーズ別のニーズにタイムリーに応え、社会のパートナーとして頼られる存在になる。③アフターコロナでは、トヨタがけん引役となり、持続可能な未来社会へ貢献する。
〇取組みの方針
各フェーズでの具体的な取組み方針も4月に策定したが、その時点での構想であったため全てを実施してはいない。拡大期には不足するものをタイミング重視でお届けするなど、厳しい環境下でも社会に夢と明るさを、トヨタが心強い存在になるように。収束安定期には物流や移動手段の確保など、トヨタらしいモビリティ重視の支援を通じ、生活再建に向けて頑張っている人を後押しし、トヨタとなら頑張れるように。回復期では生活変化と残る課題を明確化し、リアルとバーチャルバランスを大切に、ワクドキと感動と笑顔を未来の真ん中に、トヨタと一緒に社会を変える仲間となるように。トヨタは世界に37万人の従業員を抱えており、これまでは各国での取り組みにバラつきがあったが、コロナ禍における対応についてはグローバルトヨタにも共有し、一致団結する機会であると各事業体が活動している。
〇拡大期、収束・安定期、回復期における活動
実際に行った活動として、拡大期には不足していた感染防止対策グッズの提供を行った。ボラみみより情報局の協力を得て、手作りマスク3万5千枚を100団体へ提供。おたがいさま会議を通じて名古屋市社協からニーズを伺い、医療用防護服を製作し提供もさせていただいた。障がい者支援団体のAJU自立の家にも同様に提供。また、従来活動の非接触対策としてオンライン活動も行っており、ドライブ講習会をWebで発信。他にも、中国にいる従業員に元気になってもらえるように、子どもが楽しめるペーパークラフトを送ったり、オンラインでプロから演奏レッスンが受けられる取組みなども実現した。
収束安定期では、新しいことよりも既存活動をコロナ禍対応に向けどのように変化させて取り組めるかという観点で活動。災害支援ではこれまでは義援金を渡していたが、コロナ禍により感染症対策車両を困っている地域に提供。アーティストに仕事の機会を提供できるように、アートマネジメント情報サイトを開設し、求人情報やアーティストのプロフィール情報を掲載できるようにもした。トヨタが所有する森や山林資産を活用して新しい生活様式の提案ができるのではと、障害がある人も楽しく自然散策できるように通路を整えたり(アクセスブルツーリズム)、働きながら休暇もとれるワーケーションの場としたり、車中泊に関する安全レクチャーをする(車バイバル)などの取組みも行っている。
今後の回復期へ向けた模索としては、危険の少ない車中泊を提案し、マニュアル化したりキット製作をして配布することを検討している。また、身体障がいを抱える方から「出先でのトイレが心配で自由に外に出かけられない」という声があり、移動式トイレがあれば解決するのではと、現在1号車が完成したところである。障がいなどで困っている人や災害現場で活用いただくことを見据えている。
〇成果と今後の課題
コロナ禍での取組みを通しての成果としては、社会貢献活動への意識の変化や、新しい活動領域へシフトすることへの手ごたえを感じた。今後の課題としては、感染のフェーズは明確に分かれておらず、長期に亘って拡大と収束を繰り返していくため、社会の声に応じたタイムリーな対応を心がける必要があること。また、グローバルで一つの課題解決に向かうことによる社会的インパクトの増大として、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)といった世界規模のムーブメントと協働し、トヨタ単独ではなく、連携しながら社会解決に取り組んでいきたいと考えている。
2. グループセッションでの意見・感想等
(ブレークアウトセッション:全6グループ)
・トヨタでは社員のボランティア参加の統計をとっており、2年前は60%だったが、昨年はコロナの影響もあり28%で工夫を考えているとのこと。積極的にボランティアに参加したい人が30%、関心のない人が20%、どうするかわからない人が50%であり、ここにどのようにコミットしていくかが重要。
・おたがいさま会議にはニーズとシーズがある。シーズ側にもっと参加いただきたく、他の企業にも参加いただけるようなアドバイスが欲しい。
→デンソー・鈴木氏:デンソーはRSYからの紹介で本会議に参加。企業側もコロナ禍でどのように社会貢献したらいか困っているところも多い。SNSで情報収集する企業も多く、告知を拡大することで参加したい企業もでてくるのでは。関係企業への展開することは可能なため、協力できればと思う。
→トヨタ・窪田氏:企業としてもSDGsをどう達成したらいいか関心が高まっている。おたがいさま会議の場は貴重であり、この情報を関連企業に紹介したい。従業員から「どんな困りごとが発生しているか」という問合せも多く、まずは全従業員への紹介から始めたい。
・デンソー製作のOHPクリアマスクの作り方のレシピや型紙は共有可能とのことで、おたがいさま会議ホームページで情報提供できるといい。クリアマスクを活用すると、表情が読み取りやすくなるため、子どもの育成に関わる団体やサロン活動等で広く活用いただけるのでは。
・企業のボランティア活動は社員から企画提案があるのか。社内でのフィードバックはどうしているか。
→デンソー・鈴木氏:ボランティアチーム登録の300人が企画もしており、全社員の6~7割が様々な社会活動に参加。ちょボラ活動や児童施設支援活動は、ボランティアチームの中からのボトムアップ提案を会社がサポートをして実現。社内イントラネットやSNSサービスを通して活動紹介や、社員が参加できるようにコーディネートをしている。社外にも発信して仲間づくりを支援している。
→トヨタ・窪田氏:社会貢献推進部所属の社員130人が中心となり、各分担に基づいて企画立案。世の中の社会貢献活動をリサーチしてマッチングする企画もある。活動実績を社内イントラネットにのせてフィードバック。製造現場社員はPCを持っていない場合もあるため、紙媒体での配布もしている。
・デンソーやトヨタの皆さんと一緒にプロジェクトに取り組みたい場合、どこに相談をすればいいか。
→デンソー・鈴木氏:デンソーホームページの問合せ窓口(https://www.denso.com/jp/ja/contact-us)から相談可能。おたがたさま会議のようなつながりの場で相談いただくことも可能。
→トヨタ・窪田氏:トヨタボランティアセンターという受け皿があり、電話(0565-23-3595)やメール(ac-V8686@mail.toyota.co.jp)で問合せが可能。話を伺いできことを探っていく。
・市民社会から企業側に対し何ができるかも考える必要がある。社員からのボランティア希望の声や、地域ニーズを知りたいという声に対し、市民社会からはどんな発信があるといいか教えて欲しい。
→デンソー・鈴木氏:社員一人ひとりの在住地域での社会貢献活動も後押しをしたいが、社員自らが情報を取りに行くことはハードルが高い。県内の様々な団体の情報や地域課題を、会社も間に入るなどして社員が情報に直接触れる機会を増やせるような連携を広げていきたい。
→トヨタ・窪田氏:支援活動ニーズは社協等に従業員が直接出向いて確認しており、皆さんのような現場で社会課題に取り組む団体の情報は殆ど入ってきていないのが実情。そのため、このおたがいさま会議での情報は大切で、まずは本会議の継続を希望。また、市民団体の活動や社会ニーズを地元社協や市民活動推進センター等からも得られるように連携していただけるとありがたい。
・一昔前は企業の社会貢献担当者へのアポイントすら難しかった。今は時代が変化して直接話せるが、ここに辿り着くまでの何年もの間に、企業とNPO、行政、社協等含めた歩み寄りや話し合いの場の重要性の認識が高まってきている。おたがいさま会議も32回目となるが、もっとできることがあるという可能性を感じた会であった。また、本日の発表に出てこなかったセーフティーゾーンより下側にいる方々にも本会議が浸透していくとよく、議論を深めていきたい。
3. 次回の予定
【コロナ禍の企業とNPO月間 第3弾】2021年2月16日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:マスコミから見たコロナ禍のNPO
■ゲスト:大森雅弥氏/株式会社 中日新聞社 編集局編集委員
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