第70回:楽笑が描く地域共生社会のカタチ

会議レポート

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●日時:2022年1月11日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:19 団体(運営 7 団体含む)
●参加人数:25 名(運営スタッフ 13 名含む)

1.情報提供

○小池氏(よだか総研)
・年末年始にかけて様々な助成金プログラムが開始しているため、何か活動を考えている団体は検索してみて欲しい。WAM(独立行政法人福祉医療機構)助成金の申請締め切りは 1 月末である。
https://www.wam.go.jp/hp/r4_wamjyosei/

○浜田(RSY)
・路上生活者が無事に新年を迎えられるように、おたがいさま会議で話題提供いただいたことのある生活困窮者支援団体等によって炊出し支援など(名古屋越冬活動)が毎年行われている。この年末年始も大津橋小園で実施され、RSY から使い捨て容器数 1,000 個、リゲイン 2,000 本などを支援した。現 在、毛布寄贈の話が入ってきており、進展があれば報告する。

2.話題提供

■テーマ『楽笑が描く地域共生社会のカタチ』
(小田泰久氏:社会福祉法人楽笑 理事長)

〇団体紹介

・楽笑は設立から 14 年間は NPO 法人であったが、昨年 1 月に障害福祉サービスを中心に社会福祉法人に移行。人口 8 万人弱の蒲郡市の中で、人口 1 万 2 千人の中学校区や公民館区程度の三谷町という地域をプラットフォームにして活動している。

・事業内容としては、障害のある方が地域で暮らし続けることが出来る社会の実現をめざし、放課後等デイサービスや就労継続支援 B 型、相談支援、短期入所などのサービスを展開している。障害のある 方が働く体験をすることができるパン屋とカフェを運営する拠点があり、そこを中心に福祉サービス を展開。カフェの隣には、障害のある子どもが通う放課後等デイサービスもある。同じ敷地内に畑も あり、農作物を障害のある方と一緒に作って販売もしている。詳しい事業内容は、ホームページ (https://rakusho.or.jp)で情報発信しているため、そちらを確認いただきたい。

〇地域×福祉の必要性~地方における地域支援の現状

・地域にこだわる理由として、楽笑の障害福祉サービスでは、9 時~16 時までの昼間は支援者が障害のある方に寄り添ってサービスを提供することができるが、それ以外の施設に通う時間や家に帰ってか らの時間には楽笑の支援が届けられない。そうした時間帯に必要となるのは、地域の方の理解と支援 である。障害のある方が行方不明や迷子の危険性がある場合、相応のサービスを使えばいいであろう という意見もあるが、楽笑としては本人の意思に極力寄り添いたいと考えている。一概に送迎サービ スを使ってしまうことにより、人権を侵害しているのではということを自問自答しながら日々サービ スを提供している。

・地域支援を考えるきっかけは、障害のある方が地域で暮らし続けるため、見守りなどの支援に協力いただきたいと、15 年前に自治会長などが集まる会議に話をしに行ったことにある。私自身、三谷町で 生まれ暮らしていたため、会議メンバーは知り合いばかりで、障害福祉サービスの拠点設置に皆が賛 成してくれると思っていた。しかし、「治安が悪くなる」「障害者は三谷町にはいない」と、仲間と思 っていた方々に全力で反対された。また、「大変なのは障害者だけではない」とも言われてハッとし た。会議メンバーは町全体のことを考え、障害者だけでなく、高齢者の居場所がないといった様々な 課題を議論している。そんな中で障害者だけの支援を求めるようでは、理解や共感を得られず、話が 全く通らないと気付き、考えを改めた。福祉や障害者を中心とした考え方を当たり前とせず、地域を 中心にとしてどんな人と繋がって協力いただけるか。地域の方々に三谷町に関すること、自分事であ ると関心をもってもらい、共通項である地域を中心にして仲間を増やしていく必要があると知った。

・2007 年の設立当初から 2013 年までは、地域ニーズと福祉ニーズを掛け合わせて事業を展開してきた。 「主婦の働く場所がない」「子ども達がおつかいに行ける場所がない」という地域ニーズと、「障害の ある方の活動場所」という福祉ニーズを掛け合わせてパン工房を作ったり、「漁港の振興」「地場産業 の活性化」といった地域ニーズと「障害者の働く場所」を掛け合わせて干物屋を作るなどした。

・当初は地域ニーズと福祉ニーズを掛け合わせる事業展開をしていたが、それだけでは理解者も一部に 留まった。そのため、2014 年に WAM(福祉医療機構)の助成金を受け、事業構築ワーキンググループ を立ち上げ、三谷町を中心に自治会や総代会長、PTA 会長、民生委員などに集まっていただいて地域 の困りごとを解決していく場を設けた。最初は子どもの貧困をテーマに取り上げたが、自治会長から 「三谷町に貧困家庭の子どもはいない」という発言があった。しかし、夏休みの昼間に喫茶店で、毎 日一人でサンドイッチを食べていた三谷町の子どもが、一人では寂しいと友だちを誘っておごったこ とから親同士がもめてしまった事例など、相対的貧困も子どもの貧困の一つだと説明すると理解いた だくことができた。そして、「三谷町として子ども食堂を作る必要があるし、皆で応援しないといけな い」と、急に話が進んでいった。

・高齢者の通いの場は、参加者が固定して居場所ではなくなってしまうという課題があったため、交流 人口が増えるようにマルシェの手法を取り入れた「○○(マルマル)マルシェ」を展開。単純に高齢 者の通いの場としてマルシェをするのではなく、そこに一つエッセンスとして楽笑に通う障害のある メンバーと設営から片付けまで一緒に行うことにした。そうすることで、これまで障害者への理解が 薄かったり、関わりがなくて協力の仕方が分からなかったという地域の高齢者も、一緒に汗を流すこ とにより「こんなにできるんだ、普通じゃないか」と関心をもってもらえる取り組みになっている。

・子ども食堂は、最初は地元の子ども達や保護者、高齢者を中心に構築してきたが、3年程度経過して から楽笑の放課後等デイサービスに通う子ども達も入れていくようにして、徐々に溶け込んでいった。 コロナ禍でも毎日 40 名程度が利用しており、障害があり発達が気がかりな子ども達と、地域の子ど も達が普通に一緒に遊んでいる。福祉サービスを使っている子ども達にとって、療育はもちろん必要 であるが、子ども同士の遊びや関わりから思い出を作り経験をすることで、成長につながる部分が大 きくあると感じている。子ども食堂は、カフェでコースターファンドを販売し、200 円でコースター を買っていただくことで、その寄付を子ども食堂の食材費とする取り組みも行っている。

・地域共生社会の取り組みとして、公園掃除交流事業も行っている。元々は各地区の子ども会が担当割 で公園掃除を実施していたが、三谷町は少子化が激しく、休日の過ごし方も 20 年前とは異なり、子ど も達も習い事があるため、親しか参加しなくなっていた。そして、親が疲れてしまって子ども会には 入りたくないという状態になっていた。そのような経緯があり、地区の総代から楽笑に公園掃除の依 頼が入り、仕事を請け負うだけにならないように、受ける条件として子ども会と障害のあるメンバーが交流イベントを一緒に企画し、福祉教育を兼ねる取り組みを年に数回させてもらうことになった。 クリスマス会などの交流事業を実施することで、保護者から「子どもと一緒に参加して、障害者への イメージが変わった」というメールが届くこともあり、この事業をしてよかったと感じている。

・蒲郡は食用菊の産地であり、農福連携として食用菊梱包事業も行っている。コロナ禍によって旅館も ダメージが大きく、宴会がなくなったため食用菊の消費も低迷した。食用菊の梱包作業等のノウハウ は残していかなければならない一方で、不安定な仕事に対して人を雇い続けることが難しいと楽笑に 相談が入り、障害のあるメンバーがやれるか不明であったが試みることとなった。やってみると、自 閉傾向がある人は、物事へのこだわりが強いため、菊を丸印のついた置き場所に綺麗に並べることが できた。また、ステッカー収集が好きな人はシール貼りができたりなど、それぞれの特性にあわせて 仕事をマッチングすることができた。他にも、キューピーマヨネーズとコラボし、地元の野菜を使っ た「あいちサラダめし」を作って販売もしている。障害のある方も蒲郡のシティセールスができるこ と、経済的価値を生み出していけることが、障害のある方が地域で暮らし続けて仕事をすることの価 値につながっていくと考える。

〇楽笑が地域向けの事業を行う理由

・地域の想いを知るには、様々な関係機関とつながることが大事である。上手く進めていくには、職員が関係機関に楽笑としての想いを伝える必要がある。そのため、私が率先して動くだけでなく、職員に対して楽笑の理念をしっかり伝え、地域にアタックしていけるようにすることも大切にしている。

・障害のある方が地域で暮らし続けることができる社会の実現のためには、地域の無関心を関心につなげ、共感を生む必要があるが、そのためには地域の方々に自分事として考えてもらわないといけない。 自分事に感じてもらうには、自分の町を身近に感じてもらうことが必要である。その共感を生む手法 として、子ども食堂やマルシェなど地域向けの事業を実施することで、結果的に障害のある方が地域 で暮らし続ける社会につながると考えている。

・重要なことは、福祉ではなく地域を中心に考えること。障害者ができる仕事を探すのではなく、地域 の困り事を担うという発想である。「この利用者はこういった特性があるから無理」と考えるのでな く、まずはやってみることが大切。また、地域共生社会という言葉を明確にすることも重要。「地域」 とはどこか、「共生」とは誰を指すのか、「社会」のめざすべきところは何か。楽笑の場合は、三谷町 で障害のある方もない方も、共に皆で生きる町をつくるということである。

・様々な場面で「地域共生社会」という言葉を聞くが、言葉だけが一人歩きしていると感じる。「地域共 生社会をつくるべきだ」というアドバイスではなく、「地域共生社会になった方が、心豊かな暮らしが できる」という事実を理解していただき、様々な取り組みをしてもらえるといいと思う。

〇コロナ禍における福祉事業所の困りごと

・コロナ禍で職員とのコミュニケーションが深くとれなくなり、久しぶりに離職者もでた。職員が抱え込んでしまうことにどう対応するか。職員のメンタルフォローが改めて重要と感じている。

・障害のある方の仕事が不安定。経営しているカフェでは、まん延防止措置や緊急事態宣言などでお客さんが来なくなり売り上げが減ることで、障害のある方へ支払う給与も減ってしまう。

・災害時は福祉避難所となるが、感染予防対策に自信がない。専門家の指導も受けているが、これでいいか常に自問自答している。障害のある方は自分でマスクができなかったり、皮膚過敏の方もいたり、 どのように感染予防をしていけばいいか、いつも迷いながらサービス提供しているところである。

3.ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など

〇鈴木氏(デンソー):
地域の困りごとに対して「やってみよう」精神で取り組まれた成功事例をお聞きしたが、苦労した事例もあれば教えて欲しい。三谷町から外に広げていく方法について考えがあれば お聞きしたい。ホームページやプレゼン資料が見やすく伝わりやすいが、オリジナルで作成している のか、外部発注しているのか教えて欲しい。

→小田氏:
失敗は沢山ある。地場産業活性化で干物屋を始めた時は、地元水産加工会社から民業圧迫に つながると反感をかったことがある。障害のある方の給与を下げれば売値も下げられることからハレ ーションが起き、大きな問題となった。各関係者としっかり対話をして落としどころを考える必要が ある。その時は楽笑の干物は観光客向けとして地元売値の 1.5 倍の価格設定とし、敵対しないように した。今後の計画としては、中学校区に一つ、子どものデイサービスや高齢者の通いの場を広げてい こうと話している。今年度はそのきっかけとして各地域の温度感を知るため、高齢者向けのスマホ教 室を市内の各公民館で実施した。地域の参加者が公民館でまとまっているところはやりやすく、公民 館区など皆が身近に感じる地域での事業展開が望ましいと感じた。ホームページ等のデザインは、業 者の若いデザイナーに頼んでこだわって作っている。拠点の名前や事業名は、私がこだわって考えて いるが、ロゴやフォントはその理念をもとに若いデザイナーに作ってもらい広報に活用している。

〇浦野(RSY):
福祉中心でなく地域中心に事業展開していることに目からうろこ。障害のある本人がエ ッセンシャルワーカーの一人として地域ニーズに応える側になっていることが素晴らしい。中日新聞 の大森氏も取材したいとのこと。楽笑の活動は全国で紹介されていたりするかお聞きしたい。

→小田氏:
子ども食堂などピンポイントでの取材はあるが、地域共生に関する取材は多くない。

〇菊池氏(日本福祉大学):
施設をもってしまうと、なかなか地域と関わりがもてないこともあるのでは思う。楽笑ではどのように地域と関わっているか教えて欲しい。

→小田氏:
私自身が地域の会合に全て出るのではなく、子ども食堂であれば子ども事業の職員、就労であれば就労部の職員に会議に出てもらっている。私の想いを次につなぐためにも、担当の若い職員に は、地域の課題や人との関わりの中で様々感じて欲しいと考えている。また、社会福祉協議会ともし っかり連携している。社協の生活支援コーディネーターが、広域的な視点から三谷町の地域の困りご とに関する座談会を実施しており、そこで出た課題の中から事業ベースにのったものを楽笑で企画立 案をして地域の人を呼んで会議をするといった 2 段構想で地域ニーズを拾い上げている。

〇濱野氏(日本福祉協議機構):
楽笑として、次の課題はどこにあると考えているか教えて欲しい。

→小田氏:
障害のある方の居住の場が直近の課題。地元商店街の一角にある空き家を活用できないかと いう話がある。また、人材確保はできているが人材育成が課題。なかなか上手くいっておらず、皆さんから知恵をいただきたい。人が育たないため事業ができないという壁に当たるのではと思っている。

→濱野氏:
昨年からケースフォーミュレーションを取り入れ、障害者や高齢当事者とその家族、医療や 教育、福祉、行政関係者などが全て同列になって話し合うようにした。最初は時間がかかるが、今後 の支援のかたちになっていくと思う。何よりスタッフの成長が著しい。壁にぶつかり疲れやすい真面目なスタッフへの負担が改善され、あまり真面目でないスタッフは真剣にやらざるを得なくなる。

〇小池氏(よだか総研):
地域の中にはまだ理解のない方もいると思う。そのギャップについてはどう考えられているか。

→小田氏:
楽笑が障害者支援をしているということは、三谷地域ではある程度根付いてきており、興味はなくてもまず知ってもらうことが大切であると思う。また、いろんなコンテンツをこちらが準備し ていく必要がある。子ども食堂やマルシェも、参加は一部の方々であるが、その一部をたくさん作っていくための手法を広げていくことが、今後求められていることだと思う。障害者支援はゴールが見 えにくいが、子ども食堂やマルシェを開催すると、参加者がいて楽しかったという職員の達成感にも つながる。そうした小さなイベントの数を増やしていくのが楽笑の手法だと考えている。

〇小池氏(よだか総研):
今後、南海トラフ地震が発生した時についての考えがあればお聞きしたい。

→小田氏:
楽笑のカフェ拠点は福祉避難所になっているが、災害時のマネジメントについてイメージができていない状況。実際の想定や準備しておくといいことを教えてもらうところから始めていきたい。

〇佐藤氏(弥富防災ゼロの会):
楽笑の中期ビジョンを職員全員で創ったことについて教えて欲しい。

→小田氏:
利用者一人ひとりをみて、その想いを形に変えていった取り組みである。スタッフキャリアとして、職員がどうなりたいかについても話し合った。女性が多い職場のため、2018 年には職員が育 休をとれる体制づくりをするといったことなど、皆で話し合った中期ビジョンをもとに実際に変えて いった。中期ビジョンでは、2021 年度にグループホーム開所としていたが、人が育っていないことも あり実現できてない。中期ビジョンの詳細は、資料を確認いただきたい。
https://www.int.wam.go.jp/wamhp/hp/Portals/0/docs/jyosei/pdf/h29sympo/04_rakusho.pdf

〇久島氏(愛知工業大学):
人が育たないのはコロナ禍と関係があるのか、福祉施設の難しさなのか。

→小田氏:
コロナ禍によって職員の悩みをすぐにキャッチアップして対応することができないというコミュニケーション部分で課題はあるが、人が育たないというわけではない。福祉業界で人が育たない 理由は、人の配置に余裕がなく、ゆっくり育てることができないからである。2~3 年目で既にベテランとして現場を回さないといけない状況であり、大切な部分を伝える前にマネージャーになってしま い、悩んでしまうということが繰り返されていると思う。

4.今後の予定

■日時:2022年1月18日(火)16時00分~17時00分
テーマ:『化学物質過敏症患者の生活における問題点』
ゲスト:
藤井淑枝氏(化学物質過敏症 あいちReの会 代表)

■日時:2022年1月25日(火)16時00分~17時00分
テーマ:『議員インターンシップ拡大の有効性 〜若年投票率の向上とインターン参加後の学生について〜』
ゲスト:
河内海人氏(NPO 法人ドットジェイピー愛知エリア代表・愛知県立大学外国語学部 2 年)
蒔田凌太氏(NPO 法人ドットジェイピー愛知エリア・中京大学現代社会学部 2 年)

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