第64回:困難を抱えた子どもたちの現状

会議レポート

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●日時:2021年11月2日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:25 団体(運営 7 団体含む)
●参加人数:31 名(運営スタッフ 12 名含む)

1.情報提供

○種村(RSY)
・RSY が事務局をしている「震災がつなぐ全国ネットワーク」では、2 年前の大雨で被災し、今年度 8 月の豪雨水害でも被災した佐賀県武雄市や大町町等を支援している。現在は被災住宅の床をはがして汚 れを取り除き乾燥させている状況で、季節が変わり寒さ対策が必須。そのため、暖房器具を届けるプ ロジェクトを地元団体である会員「一般社団法人おもやい」と連携し実施しており、クラウドファン ディングへの協力と情報拡散をお願いしたい。

※被災者の方々に暖房器具をお届けするプロジェクト
https://syncable.biz/campaign/2013/

2.話題提供

■テーマ『困難を抱えた子どもたちの現状』
(渋谷幸靖氏:特定非営利活動法人陽和 理事長)

・陽和では、非行や引きこもり、発達障害などの困難を抱えた子ども達に、24 時間 365 日寄り添っている。少年院に通って手紙のやり取りや面会を重ねたり、保護者向けの講演会も 2 ヶ月に一回行ってい る。全国では 1,300 人の子ども達が少年院で生活している。愛知県には少年院が 3 ヶ所あり、そこで 約 100 人の子ども達が社会に向けて教育のやり直しをしている。愛知県では県を挙げて再犯防止の活 動がされており、その取り組み団体の一つとして陽和も登録しており、県ホームページにも掲載されている。

〇非行少年とは

・非行少年と聞くと、大半の人は「怖い・悪い」というイメージを持っていると思う。私自身、昔は非行少年であったため、非行少年といっても「怖い・悪い」というイメージはなく、ただただ子どもであって、様々なことが重なった環境によって非行に走ってしまった子であると思っている。

・専門的に非行少年について辿ってみると、虐待という言葉につながる。非行少年の男子では 51%、女子では 71%が過去にネグレクトや暴力、言葉の虐待を受けているということが明らかになっている。 様々な背景があり、18 歳で両親がおらず、頼る大人がいない子どもや、親が覚せい剤で何回も服役し 父親と一緒に過ごしたのは 2 年間しかない子どもなど、複雑な家庭環境を経て少年院にいる子ども達 が非常に多い。普通の生活が送れなかった子ども達である。

・幼稚園や小学生の子どもに将来の夢を尋ねると、芸能人やパイロットなど、子ども達は様々な夢をニ コニコ笑いながら応えてくれると思う。夢として人を傷つけたり犯罪をしたいと語る子どもは一人も いない。子どもは、生まれた時から親から様々なことで認められ褒められる環境で育つが、そのボタ ンをどこかで掛け違えてしまうと、その夢や希望が違う方向へ走ってしまうのであろうと、多くの子 ども達をみて感じている。

・子ども達の背景を辿っていくと、我々大人が子ども達の環境を理解する必要があることがわかる。小 中学生の家庭内暴力の認知件数の推移を見てみると、少子化で子どもの数が減っているにも関わらず、家庭内暴力の件数は年々右肩上がりとなっている。子ども達の社会は息苦しい状態であることが、こ の豊かな日本の実情である。また日本では、青少年と言われる 34 歳以下の若者が、一日平均で 2 人、 自殺で亡くなっている現状で、先進 7 ヶ国をみてみても、死因の第1位が自殺という国は日本のみで ある。この 5 年間で警察が取り扱う虐待の認知件数は倍に膨れ上がっており、一般には見えにくいか もしれないが、現在の子ども達の社会は非常に困難で、実際の現場は過酷ものとなっている。

〇支援の現場について

・子どものためを思って支援するのが当たり前でないといけないが、実際の支援の現場では大人の都合で様々な出来事が動いてしまっている。子どもを守るための少年法では、大きな事件を起こしても実 名が公表されることはなく、少年のうちに犯罪をしても補導歴や非行歴となり前科にはならない。児 童福祉法など児童相談所が関わるケースでは、18 歳までの子どもは、施設に無料で生活できるなど、 様々な制度で守られている。一方でその年齢を過ぎた場合、それらの制度は適用されなくなる。例え ば、18 歳で罪を犯して 1 年間は少年院で職業訓練や社会生活の勉強をし、19 歳で少年院を出た場合、 保護司や保護観察官が関わるが、20 歳になるまでの 1 年間で自立しないといけないという課題がでて くる。引きこもりで字も書けない子どもであっても、18 歳で自ずと支援が終わってしまうなど、年齢 で区切られて支援が終わってしまう現状がある。

・困難を抱える子ども達には一般常識は通じず、上手くいかないことが圧倒的に多い。その結果、民間 支援団体が関わっても対応しきれなかったり、相談しても請け負ってくれなかったり、様々な大人の 都合で解決されてしまうこともある。支援の現場をこの 6 年間見てきて、なぜこんな状況で支援が終 わってしまうのかと歯痒く感じる現場が沢山あった。

・18歳で少年院に入って、19歳の1年間で社会に復帰するのは不可能に近い。皆さんが18~19歳の時、 学費や生活費など親の支援を受けずに自分一人で生活できたかというと、殆どの人はできなかったと 思う。困難を抱えた子ども達は、親からの支援を全く受けられずに一人で自立していくという過酷な 道を歩まないといけない。誰からの支援もなく再出発することは殆ど不可能だと思っている。少年院 にいる子ども達の中には、ADHD などの発達障害や軽度の知的障害をもっていたり、IQ が 70 程度のグ レーゾーンの子も沢山いる。現在、愛知少年院にいる半数が何かしらの発達障害を抱えている子ども 達と言われている。

〇子ども達の再出発で見えてくる課題

・子ども達だけの問題ではなく、そもそも家庭内に問題があるケースが殆どということが課題としてある。親御さんがいる場合は、親元で生活の再出発をするが、ネグレクトや過干渉、子どもを信用して いない親が疑いの目を向けるといったことから親子関係が崩壊してしまう。本来であれば家が自分の 居場所でないといけないが、家の居心地が悪く、再び外の世界に飛び出していき、同じような環境の 子と集まってしまい、悪いことを正してくれる大人もおらず、悪いことをすればするほど認めてもら える環境が子ども達を待っている。だからこそ、親が生活している環境を変えていかなければいけな いという課題がある。

・就労や就学、交友関係の整理をしていく必要がある。仕事をしないとお金がないため、悪さをしてお 金をかせいだり、学校に行けずにフラフラして夜遊びが止まらなくなったり、悪さをすれば認めても らえるような交友関係ができてしまうなど、負の環境が出来上がってしまう。その一つひとつを子ど も達は解決しなければいけないが、少年院から社会に出て仕事をしようとしても、少年院にいたとい う理由だけで不採用になってしまうことがある。また、規則正しい生活を送れなかった環境の子が多 いため、遅刻や無断欠席などの就労トラブルは日常茶飯事。一般企業の場合は解雇になってしまうが、それでも受け入れてくれる企業に対して子ども達をマッチングし、子ども達が 2 回目 3 回目と生き直 せるような環境を準備してサポートをしている。子ども達の交友関係の環境に大人が入り込んでいく ことは難しいが、悪いと言われている子ども達とも話し合って、一緒になって環境を変えていくサポ ートもしている。トラブルは大概夜に発生するため、24 時間 365 日の対応が必要。そして、親子共に サポートしいていかないと、子ども達の問題を克服していくことはできない。

〇子ども達へのこれからの寄り添い支援について

・少年院で出会った少年の一人は、母子家庭で家庭環境も複雑で、社会にでてからも様々な犯罪をし、上手くいかないことの連続であったが、私には何があっても絶対に変わることができるという信念が あるため、その子のことも信じて関わっていた。彼は現在、陽和のスタッフとして生き直しをしてく れている。このような子ども達を増やしていきたいと考えており、支援される側から支援するような 青年に変わっていくことが、社会や親に迷惑をかけた罪を償い、恩を返すことになると思っている。 そのためには、子ども達の心が豊かに成長していかないといけない。子ども達の心に寄り添い、本音 で話せる大人が地域社会に増えること、学校や企業がやり直したいという子どもを受け入れ、一緒に なって支えていける社会が必要であると思う。家庭では、親は子どもの悪いところを探してしまうが、 おじいちゃんやおばあちゃんは、子どもが生きているだけで認めて褒めて感謝をしてくれる。親や学 校の先生は上下関係になってしまうが、地域のおじちゃんやおばちゃんなど、横のつながりを増やし ていくことが今の時代に必要だと感じている。

・子ども達は、社会に出て仕事をしたり学校に行ったり、やったことのないことに沢山挑戦していくが、 やったことがないため殆どの子が失敗する。いきなりできる子はいない。失敗を許さない社会になっ ているが、どんな失敗でも大人が受け入れ、過去の失敗を経験値として活かしていけるような社会に していく必要がある。その結果、過去に失敗して少年院に入った子どもでも、その時期があって今の 自分があると思えるように考えが変わっていくと思う。今後、様々な団体と関わり合い、横のつなが りを大切にしながら、子ども達をより手厚く支援していける環境や社会を作っていきたい。

■陽和が抱えている4つの課題
(林百々子氏:特定非営利活動法人陽和 事務局長)

・陽和では現在、約 30 名の子どもと関わっており、4 つの課題を抱えている。

①相談に来る保護者から「非行問題をどこに相談したらいいか分からなかった」「区役所や児相、警察に相談しても解決に至らなかった」「陽和のように総合的にソーシャルワークをする団体を知りたかっ た」という声が多くある。陽和では、パントリー支援だけ、就労や就学だけということではなく、人 が生きていく中で必要なことに対して総合的にソーシャルワークをしているが、一団体で全てをまか なうことは難しく、行政や他の民間団体等との連携が必要と考えている。子ども達はいきなり犯罪を するのではなく、それまでに沢山の SOS を出している。できれば犯罪をする前に未然に防ぐことが望 ましい。犯罪までには至らない、いじめや万引き、バイクに乗り始めるなどの不良行為を保護者が認 識した時の相談先として、陽和が対応できると思っている。

②コロナ禍によって、困難を抱える子どもが増えている。陽和では、少年院からの依頼も受けており、 中には親のいない子どもも沢山いる。保護者のいる子どもの場合は、交通費の負担をしてもらうこと もあるが、保護者がいない場合は、会員からの会費や寄付によってスタッフの交通費等を賄っている 状況である。現在、企業からの資金面での協力の申し出が非常に心強く、協力企業会員という枠を設 けている。しかし、まだまだ厳しい状況ではあるため、ご協力いただけるとありがたい。

③行政でも対応できないケースがあると感じている。例えば児相から逃げ出してしまうなど、行政は子ども達との時間を沢山とることができず、信頼関係を深く築いていくことは難しいことから、連絡が とれなくなってしまうケースもある。また、問題は夜に発生することが多いが、行政は業務時間外で 対応できないということに関して、陽和が担えるのではないかと考えている。

④陽和では、様々な困難を抱える子ども達をサポートしているが、特に非行に関しては制度に当てはま らず、補助金等の財源が一切ない。今後、企業や個人、行政など、様々な団体の皆さまと手をつなぎ、 しっかり子ども達を守っていけたらと思っている。

3.ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など

〇鈴木氏(デンソー):非行少年に対しては共感が得られにくく、民間支援が受けづらい部分もあるのでは。子ども一人ひとりへのソーシャルワークは時間が必要であるが、資金調達はどうしているか。

→渋谷氏:共感については、同じ目線で同じ価値観でというのを一番大切にしているが、非行経験のな い人には分からないという意見もある。大人は若い頃の価値観を忘れてしまうため、少しずつ学んで いくことが必要。子どもの問題は子どもが変わればいいのではなく、大人が変わらないと子どもが変 われない。おたがいさま会議のような場を通して知っていただき、大人にできることを感じてもらうことが、子どもの更生につながっていくと考えている。

→林氏:陽和では会員からの年会費や寄付、企業会員からの資金を使って運営している。スタッフはボランティアの者もいるが、保護者のいる子どもからは交通費をいただいてスタッフに渡している。

〇杉本氏(地域国際活動研究センター):外国人の子どもの犯罪とそのサポートについて教えて欲しい。

→林氏:外国籍の子ども達は、文化の違いや言葉が通じないなど、様々な理由で生きにくさを感じている。困窮している外国籍の方も非常に多く、お腹が空いて犯罪につながってしまうこともあると思う。

〇栗田(RSY):窪田氏から問題の根っこは親ではないか、親がそうなる原因は何かという質問があった。 林氏からの回答として、問題の根っこが親であることはその通りであり、家庭に戻ると上手くいかな いこともあるため、家庭の中で親子が調和していくかどうか、それぞれのケースで判断して両方サポートしていく必要あるということを伺った。また、親の原因としては、虐待は連鎖しており、親も虐 待を経験していることが多いことや、少年院の子ども達の半数は発達障害ということで、そういった障害が原因で親も社会に適応できていないケースも多いということを伺った。

〇野川氏(名古屋市社協):寄り添い支援について、もう少し具体的に教えて欲しい。家庭内暴力の件数が、子どもの人数が減ってきているのに反して増えている現状をどのように考えられているか。

→林氏:少年院から依頼を受けた場合、院から出た時にどうしていくかを含めて在院中からスタッフが 月1回面会し、手紙をやりとりするなどのサポートが始まる。保護者がおらず身寄りが全くない子どもの場合は、退院して社会に出た時、面接に行くためのスーツがなく、履歴書を買うお金もなくて、 本当にその身一つだけというケースもある。そういった子ども達に対しては、様々な制度を使って、 物資等を提供してもらったり、働きながら住める企業を探したりもしている。仕事が合わないと住ま いもなくなるリスクもあるため、その子の性質を見極めつつ一番いい道を選びなから活動している。 メールや電話対応は 24 時間 365 日で、母親から 21 時頃に「子どもが夜出かけて心配している」と電 話が入ることもある。子どもは親からの電話にはでないが、渋谷の電話にはでて状況を教えてくれる ため、それを保護者に伝えて安心していただくこともある。子どもと保護者、両方との信頼関係を築 きながらサポートをしている。

→渋谷氏:家庭内暴力が増えているのは、社会や家庭で生きづらい環境が出来上がっているためである。 時代背景とともに子どもへの接し方は変わらないといけないが、親から子どもへの接し方は変わっていない。親も自分の育った環境しか知らず、自分が子どもの頃にされたことをそのままやってしまっ ている。一方で子ども達は様々な情報を知っていて、虐待であることも分かったりする中、親の枠に 子どもをはめようとするため、子ども達にとって生きづらい世の中になっていると感じる。親子関係 が調和していくことで、家での居場所や環境が整備されていくため、陽和では、保護者に対するケア も重点的に行っている。子どもに対しては、一緒に面接や挨拶に行ったり、履歴書を書いたりする中 で、一緒にできることを見つけていくなど、重層的な支援を行っている。

〇浜田(RSY):子どもの犯罪件数は増えているのか、再犯率が高いのか。

→渋谷氏:実は少年の犯罪件数は戦後で一番少なく、10 年前の半分以下となっている。一方で、再非行少年率は横ばい状態であり、初犯の子は減っても、再び犯罪をしてしまう子の比率は変わっていない。 国としても再犯を減らすことに苦戦しており、再び罪を犯す人がなかなか止められない時代や環境に なっている。本人は一生懸命やりなおそうと頑張るが、社会がマッチングしておらず、仕事が上手く 続かず元の悪い環境に戻ってしまう子が多い。誰か一人でも本気で向き合ってくれて、頼れる人がい れば、その子どもは正しく努力する道に戻ると思う。

〇浜田(RSY):非行少年の存在を身近に感じることができておらず、知ることが第一歩であると思うが、 私たちできることは何か。少年院からの依頼によるサポートに公的資金はつかないのか。

→渋谷氏:実際に少年院を出た子と会う機会は殆どないと思うし、今は昔と違って目に見えて不良と分 からない。陽和では、数ヶ月に1回、少年院から出た当事者にスピーチもしてもらう勉強会を開催し ている。そういった会に参加いただき、生の声を知って身近に感じてもらえるといい。公的資金は本 当になく、少年院から身寄りのない子どもがいると依頼があっても、面会交通費もでない。面会では 相手の子どもに飲み物を買ってあげることができるが、それも自腹で対応している。

〇小池氏(よだか総合研究所):現状に加えて自然災害があった場合に、陽和の活動や、当事者の子ども 達の状況はどうなるか。

→災害があった場合、子ども達が上手く力を使うことができれば、ボランティアなどで人を助ける側に なれると思う。一方で、誰とも関わりがない子どもの場合は、災害という出来事を逆手にとって犯罪 に走ってしまうこともある。コロナ禍において、自営業者は前年度より売り上げが悪ければ給付金を 受け取れるということを悪用し、詐欺グループとの悪いつながりから、実際にはない架空の会社で給 付金を騙し取るといった犯罪もあった。東日本大震災でも、泥棒がボランティアを装って被災地に入 り込んだりすることもあったり、災害をきっかけに悪い方向にも変わることも考えられる。子ども達 がどんな人と関わっているかの環境によって、災害の際、本人の持っている力を人のため世のために 使うか、犯罪に足を踏み入れてしまうか、大きく分かれると思う。我々大人がどのように子ども達と 関わり、いい方向に導いていけるかが大きな課題である。現在の社会は、子ども達を上手く受け入れ ることができていない状況であるが、子ども達をよい道へ導いていけるよう、おたがいさま会議等で の横のつながりも大切にしながら歩んでいければと思う。

4.次回の予定

■日時:2021年11月9日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:『コロナによって様変わりした学習支援・居場所事業の実態』
■ゲスト:筒井孝治氏(NPO法人瑞穂学習支援会 理事長)、松井裕輝氏(同、副理事長)

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