第62回:愛知県の新型コロナウイルス感染症対応の経緯と今後

会議レポート

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●日時:2021 年 10 月 19 日(火)16 時 00 分〜17 時 00 分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:20 団体(運営 7 団体含む)
●参加人数:28 名(運営スタッフ 14 名含む)

1.話題提供

■テーマ:『愛知県の新型コロナウイルス感染症対応の経緯と今後』
(北川喜己氏:愛知県新型コロナウ イルス感染症調整本部 医療体制緊急確保統括官・名古屋掖済会病院副院⻑)

・私がコロナに関わることになったきっかけは、令和 2 年 1 月 30 日、武漢からの帰国者受け入れに際して「災害時の DMAT(災害派遣医療チーム)の仕組みも活用し、そのために必要となる医師の派遣も迅速に行ってほしい。」と安倍前総理大臣から要請が来たのが始まり。

・DMAT(Disaster Medical Assistance Team)とは、大地震及び航空機・列車事故といった災害時に被災地に迅速に駆けつけ、災害急性期(概ね 48 時間以内)に救急治療を行うための専門的な訓練を受け た医療チーム。被災地の都道府県や厚生労働省から派遣要請を受け、本部活動・広域医療搬送・病院 支援・域内搬送・現場活動等を行う。

・本来は災害時の緊急治療のチームであるため、感染症に関して DMAT が派遣されることに当時は驚 いた記憶もある。

・武漢からの帰国者の受け入れの時は、私は愛知県にいて指示を出していたが、クルーズ船「ダイヤモ ンド・プリンセス号」の対応時に、厚労省から直接私に連絡が入り DMAT 派遣が決まった。

・ダイヤモンド・プリンセス号はとても大きな船舶で、客室は 1100 以上、乗員乗客を含めて 3700 人が 乗船しており、700 人以上の感染者が発生していて大変な状況になっていた。そこでの感染症対応を することになった。

・私は船の中に設置した、医療対策本部で活動を行い、どの人から下船をさせるか等の指示出し、トリアージを行っていた。

・クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」対応の教訓:その後の新型コロナ対応体制へ
  〇クラスター現場対応と搬送調整機構が必須
    ‒都道府県本部での搬送調整
    ‒DMAT の病院・高齢者施設等支援
  〇受入病院確保の困難さ
    ‒受入病床確保の必要性、重点医療機関の指定
  〇軽症大量患者受入施設の必要性
    ‒宿泊療養施設
  〇PCR 要員確保の必要性
    ‒PCR センターの設置と地元医師会の協力

上記の教訓を活かし、その後の国や都道府県の施策に反映をした。災害対応の原則に沿った対応がコロナの対応でも正解だと感じている。

藤田医科大学岡崎医療センターがクルーズ船陽性者受け入れを開始した(2020 年 2 月)。私は愛知県保健医療調整本部(県庁内)から指示を出していた。それと同時に、愛知県内でもコロナ感染者が増加してきたので、その方々をどの病院に入院させる等の調整も行っていた。

・その後、愛知県では「愛知県新型コロナウイルス感染症医療調整本部」を置いて、調整をする形が整 えられた。第 1 波、第 2 波の際にはこの体制で運用され、私は調整本部の本部員と、患者搬送コーディネーターとして、感染者の方の搬送先の調整助言を行った。

・こうした中、だんだん患者数も増え、病床も増加させる必要が出てきた。第 3 波の頃は、病院や高齢者施設でクラスターが発生し、搬送先の調整だけでは難しいと判断し、本部機能の強化、クラスターの対策チームを作ることを決定した。

・2021 年 1 月 21 日に、愛知県知事の特命で、調整本部の中に「医療体制緊急確保チーム」を設置した。私は医療体制緊急確保統括官としてチームの統括を行うことになった。

・新型コロナウイルス感染症対策を含めた医療提供体制の確保 3 本柱
  ①病床確保・入院調整
    〇コロナ対応病院・病床の更なる拡大(限界あり)
    〇入院状況のコントロール 〇クラスター発生病院・施設等での施設内療養
    〇入院・施設/自宅療養基準等の策定・見直し
    〇重症患者・特殊疾患患者等の入院調整等
  ②後方病院確保
    〇療養型病院等での、退院基準を満たした患者や発症後一定期間経過後の患者受入
    〇クラスター発生病院・施設等への戻り搬送 等
  ③クラスター対応
    〇クラスター拡大防止の指揮支援/技術支援
    〇重症患者等の搬送調整
    〇施設継続に必要な情報の整理
    〇スタッフのケア・離職防止(環境整備・風評被害防止・情報共有・心のケア等)
    〇医療資材等の支援調整 等

上記プラス救急医療体制の維持、医療体制緊急確保チームによる総合的(コロナだけでは無く一般の救急医療も含む)な体制強化と支援を医療体制緊急確保チームとして行った。

・上記の活動については、新聞等メディアでも紹介をされ、2021 年 1 月 26 日には愛知県知事から、統括官の任命が行われた。

・現在の医療体制緊急確保チームは 20 名程で運営をしている。最初は DMAT のメンバーを中心に、ドクターは 6 名、業務調整員 6 名の 12 名でスタートした。

【参考】病床確保数の推移 <愛知県>新型コロナウイルス感染症患者の入院病床の増床について
※2020 年 2 月は 72 の病床数だったが、現在は 1722 の病床数まで増えている。

・重症ベッドは足りるのかという議論がある(第5波)。
大阪府人口 880 万人、224 床(重症 450 人越え)→500 床準備 : 人口1万人あたり0.25
愛知県人口 750 万人、146 床→200 床弱 : 人口1万人あたり0.19
今後の重症者数にもよるが、厳しい数字であることには変わりはない。

・後方病院確保への動き
 〇名古屋市で約70施設、愛知県内で100施設を超える施設が手上げ
 〇後方病院のリストを受け入れ病院に配布
 〇転院希望対象者の Waiting List を後方病院に配布(名古屋市等)
 〇感染への不安の払拭と、それによる退院基準の徹底がポイント
 〇今後も説明会や研修会で繰り返しお話をする予定

・クラスター対応について
県の HP に実際の対応方法を動画で UP している。※下記リンク先を参照
愛知県新型コロナウイルス感染症対策サイト

・クラスター発生の有料老人ホームへ派遣も行った。第 5 波後半から再び高齢者施設、障害者施設、精神病院などでのクラスター発生が増加した。

・病院・施設クラスター対応の肝としては
 ①緊急医療が必要な患者、入所者のトリアージ
 ②病院・施設継続に必要な情報の整理
 ③必要な施設内療養・病院搬送支援の実施
 ④職員および入所者の心のケア窓口等の設置紹介

・また感染対策は、県看護協会の感染管理認定看護師とも連携をしている。
・早期に支援に入った方が、死亡率が低減されるデータもある。

【支援に入った日数による死亡率の比較】
<厚生労働省>新型コロナウイルス感染症と DMAT の活動状況及び今後のあり方について(5 ページ目)

・入院待機ステーション(酸素ステーション)2021.9.6 の設置。第 5 波で病床が足りなくて、入院が出 来ない方の為に設置を行った。

・愛知県の現状・課題・今後
 〇愛知県は第5波までは医療崩壊には至らず、何とか病床確保・拡張、搬送調整、早期後方病院搬出でコロナ医療、コロナ以外の救急医療、一般医療をぎりぎり平時とほぼ同様に継続提供している。
 〇現場感として、在宅療養、施設内療養の激増時は、災害と同様に要配慮者にしわ寄せが及んでいる。
  →高齢者・障がい者・外国人・病人(基礎疾患、精神疾患)・小児・妊婦かつ一人暮らしや家庭内感染など。
 〇コロナ陽性患者はもとよりその家族や対応する医療従事者、クラスター発生施設の職員や入所者などのこころのケアもコロナ後遺症等とともに継続的な支援が必要になっている。
 〇開業医の診療への参加、往診医の増加、ワクチン接種率向上、治療薬の開発など良い要素もあるが、 新規の強力な変異株への置き換わりなど変異株の状況によっては、愛知県で年内にも急激な感染拡 大による大きな第6波が来ることが危惧される。

2.ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など

○鈴木氏(デンソー)
・今回の話を聞き、改めてコロナについて考えさせられた。コロナと死が密接に関係しているので、我々にとっても死というものが身近になってきた。また、DMAT の名前は新聞等では知っていたが、実際 に統括官の北川さんから話を聞けたのは大変参考になった。その中で、DMAT としてはコロナの対 応だけではなく通常の緊急対応も確保していく事を目指している事、病院や施設に従事されている方 の心のケアが一番大事という言葉が一番印象に残った。
・具体的にどのような心のケアをされているか、教えてほしい。

→北川氏
・心のケアは非常に大事だと思っている。まずはそれぞれの施設の中で、心のケアをするためにお 話を聞く担当を決めてもらうのが一つ、それから、施設の方に話しにくいと言う方については、 行政の心のケアを行っている所の電話番号などを掲示してもらうようにしている。まずはとっか かりのところを整備するのが自分たちの使命だと考えている。

〇関口氏(フリージャーナリスト)
・DMAT は外に出ていくイメージをしていたので、愛知県内の地元で動かれる体制を作られたのは、今後の南海トラフ地震等をイメージして、自分たちが地元で動くという事を想定されているのか。また、 医療崩壊といわれた東京にあっても区によっては、在宅の死者数が 0 になったという話も聞いたが、 保健所との連携が上手くいった仕組みなどはあったのか。

→北川氏
・震災等の大災害の時には県庁等とやり取りを多く行ってきた。その経験が今回のコロナでも役に立っている。今までの関係性以上に連携が密になったと感じている。
・第 5 波では新規の感染者が圧倒的に増加し、在宅で治療する感染者も増えたが、在宅や施設の中で感染者を診てくれる先生が増えた事や往診をする先生も増えた事が、医療崩壊の⻭止めになっていると感じている。また単に往診だけでなく酸素吸入等の治療も行っていただいたことで、コロナ治療のすそ野が広がったことがよかったのではと思っている。

〇野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・24 時間体制で稼働をしている保険センターの職員は非常に心身共に疲弊していたのではないかという意見や、今後を見据えて福祉と医療の垣根を超えた連携が必要になってくる等の意見が出た。
・入院調整などは膨大な時間がかかったと思うが、どのような人員を割いていたのか。通常の体制で対応できたのか。

→北川氏
・搬送調整は、まず行政の方で行って頂き、そこで上手くいかないと私たちのチームのところへ相談が来る。行政は、保健所や保健センター含めて、コロナ対応に大幅な増員をして対応をしてもらっ ている。それでも、初めの連絡は保健所・保健センターが受け付けるので仕事は山ほどあるわけで、 疲労困憊どころではない状態が続いていたと思われる。私たちに労いの言葉をかけていただくこと があるが、私たちよりももっと大変なところがあると保健所・保健センターのことを紹介している。

〇小池氏(コーディネーター)
・このコロナの波は 1 年に4回くるイメージを持っている。今後この波を乗り越えていけそうなのか。
・おたがいさま会議は自然災害+コロナという状況になったときに、こういうネットワークがあったほうがいい、ネットワークを密にしていこうという目的で立ち上がった。今後コロナの波が予想される 中で、さらに自然災害が発生した場合、どういった困難が予測されるのか、またこれからの自然災害に対して感じていることを教えてほしい。

→北川氏
・難しい質問だが、ワクチン接種がキーポイントになってくると考えている。全人口の 85%の方の 2 回接種が一つの目安になると聞いているが、この数字は結構な数字だと思っている。一定の年齢以 下の方は打てないことも考慮すると、接種できる年齢の方の 95%は打たないと、全人口の 85%に は届かない。またブレイクスルー感染をする方も出てきたので、2回接種しても感染予防の効力が 落ちてくることも考えられる。人流を抑えることを継続させることも簡単ではない。そういった事 も考慮すると第6波も来るのではと予測される。ただ、今後は治療薬の開発も進んでいるので、も う波が来ないとは言えないとは思うが、なんとか対応は出来るのではないかと考えている。
・コロナ禍でも災害は必ず起こりうる。現在はコロナ対策室が県庁に対策本部が作られている。災害 が起こった時も同じように対策本部が作られるので、それらを1つにドッキングさせられれば、大 きく体制を変えることもなく、指揮系統に混乱を起こさずやって行けるのではないかと考えている。 現場の感覚としても、現在コロナの対応をしっかりできるようになってきたので、大きな地震が来 たとしても、震災対策に加えてコロナ対策をすることは十分可能だと考えている。

3.まとめ・今日の感想

○北川氏
・私は医療のことしかわからないが、医療以外の方が興味を持って話を聞いてくれ、本当にうれしかった。この繋がりを大事にしたいと思っているので、今後ともよろしくお願いします。

4.次回の予定

■日時:2021 年 10 月 26 日(火)16 時 00 分〜17 時 00 分
■テーマ:「社会課題×福祉→循環型共生社会を目指した現状と取り組み」
■ゲスト: 濵野剣氏(一般社団法人日本福祉協議機構 代表理事)

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