第59回:地域で暮らす医療ニーズの高い子どもの現状と課題
●日時:2021 年 9 月 28 日(火)16 時 00 分~17 時 00 分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:25 団体(運営 8 団体含む)
●参加人数:33 名(運営スタッフ 12 名含む)
1. 話題提供
■テーマ:『地域で暮らす医療ニーズの高い子どもの現状と課題』
(神田春美氏:柊訪問看護ステーション 所長)
〇柊訪問看護ステーションの概要
・設置主体:有限会社シーズン
・開設 :平成 16 年 9 月 15 日
・最初は 3 人の看護師からスタートし現在は 23 名のスタッフが働いている。
・モットー:家に帰りたい、家でケアをしたい等のご希望がある方を年齢関係なく受けること。 他所では小児の訪問看護のサービスが受けられない方も多く、どんどん利用者さんが増えて いった。また、重度の子どもたちの行き場がないとの要望から、重症児童発達支援と放課後 等デイサービスも 3 年前から開始した。
〇小児在宅の現状・背景
・国民皆保険・病院へ医療資源の集中「子どもは死んではならない・子どもの病気は治らければならない」小児医療の急速な発展により世界でも類をみない子どもの死なない国になった。 医療の発達とともに、経管栄養やたん吸引、人工呼吸器など、医療デバイスを日常の中で必 要とする子どもは、ますます増えてきている。
・また、「NICU 満床問題」により、人工呼吸器をつけたまま退院する児童も増えている。 もともと自宅地域で暮らす重症児の加齢に伴う重症化(医療が発達した 20~30 年前に生ま れた)
〇重症心身障害児の理解
・新大島分類表より、知的発達の縦軸と移動機能の横軸を掛け合わせ、重心障害者の判定が出る。この判定は、障害福祉のサービスの土台になっている。どこかで線引きをしないと、適切なサービスの提供ができないため、新大島分類表を使って判定を行っている。ただ、日々 医療技術は進歩しているが、福祉制度が追い付いていない。
・2016 年には、歩けたり話せたりはするが、日常的に医療的ケアが必要な子どもたちが出てき た。例えば、胃腸が使えなくなって高カロリー溶液をチューブから 24 時間つないでおくこと で生きていける子どもが出てきた。この子どもは、チューブで溶液を摂取出来れば、普通の 子どもと同じように学校に行ったり、遊んだりすることが出来る。ただ、チューブが抜けて しまったり、チューブが刺さっている部分をかきむしって感染症になったりと、寝たきりの 子どもより手がかかることがある。常に見ていないと命が危ない子どもたちのことを、医療的ケア児と呼ばれるようになった。
〇令和 3 年 9 月 18 日からは「医療ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行さ れた。
・立法の目的
医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加。 医療的ケア児の心身の状況等に応じた適切な支援を受けられるようにすることが重要な課題 となっている。 ⇒医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資する ⇒安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与する
・基本理念
1 医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援
2 個々の医療的ケア児の状況に応じ、切れ目なく行われる支援
医療的ケア児が医療的ケア児でない児童等と共に教育を受けられるように最大限に配慮しつつ適切に行われる教育に係る支援等
3 医療的ケア児でなくなった後にも配慮した支援
4 医療的ケア児と保護者の意思を最大限に尊重した施策
5 居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられる施策
ただ、法律は施行されたが上記ケアを行うスタッフ、事業所が育っていないのが現状。
〇急激に増加する在宅人工呼吸療法を受けている小児患者
・平成 17 年は 264 名だったが、平成 27 年は 3,069 名まで急増した。10 年で 10 倍以上になっているが、訪問診療を受けている小児患者は在宅人工呼吸器患者全体の半数しかいない。
〇柊訪問看護種テーションの利用人数
・平均年齢 48.5 歳、利用者 138 名、0 歳台の利用者様が一番多く、100 歳代の利用者さんもおり、年齢を問わずご利用されている。
・事例紹介
・A ちゃん:2 歳の女児、複数の医療的サポートを必要としている。だが、最初のほうは行政の福祉サービスの承認が下りにくかった。3 歳までは子どもは、親と一緒にいて親が面倒を見るものという風潮が強く給付が受けられなかった。
・保護者の観点から大変なことは移乗や入浴。入浴は子どもにとっての楽しみ。保護者にアン ケートを取ったら、毎日入浴をさせたい方が 6 割を占めた。
・B 君:外出時には医療器具を取り外し、外出の準備をしなくてはならない。呼吸器もあるので折れ曲がりなどがないか細心の注意が必要。
〇小児在宅の課題
・医療的ケア児が増加している。病状が重度、複雑であり、急変症状に対応することが多い。 成長に伴い、病態や病状、障害が変化するが、小児在宅の現状が周知されていない。
・小児在宅の現状に対して法整備が遅れており、地域の社会資源が少なく、児童福祉法・障害 者総合支援法に基づく資源も少ない。さらに事業所の観点からは、病状の変化が大きく、キャンセルも多いため事業所の経営が不安定になることもある。
・社会とのつながりが薄くなったり、兄弟姉妹とのかかわりが少なくなる。
〇瀬戸市の事業所紹介
・児童発達支援事業所は県内に 5 軒ある。5 軒のうち重度ケアを行っている事業所は 2 軒。放課後等デイサービスは 19 軒あり、そのうち重度ケアを行っているのは 2 軒。生活介護事業所は 7 軒あるが、重度ケアを行っている事業所は無い。
・もーやっこジュニア広場の紹介
目的:普段体験できないイベントへ家族みんなで参加する。小児在宅を周知し、支援の輪を 広げる。小児在宅ケアの拡充。
〇新型コロナウイルスによる子どもたちへの影響
・コロナ最初の頃は物資がなくて困った。特に消毒液が不足していた。国からの支給は市まで届いていたが、市からの支給がなかった。市はどの子どもにどんな物資が必要なのかについ て把握できていなかった。そのため、柊訪問看護ステーションが市からの支給品を仕分けて配布を行った。
・また、保護者からは電車通勤への不安、通勤時に感染してしまったらどうしよう、訪問サー ビスを受けても、感染させてしまったらどうしよう、等々の不安の声が上がっていた。
〇柊訪看護の対応
・コロナ対策の情報の収集(厚労省 HP 等から) ・ステーション内における感染症対策の徹底 ・必要物資の確保・配布:提供される衛生材料は病院、主治医によって異なり、消毒用アルコールや綿花も出されないことで、アルコール綿不足になったが、地域の医師に相談し、逆性石鹸で代用をした。
・コロナ対策の情報を訪問先に周知をした。コロナに関連する症状、関連医療機関の情報共有 ・訪問の調整:利用者・家族の発熱時は注意をして訪問看護を行った。
・万が一に備え、毎日訪問が必要な利用者さんについては、積極的に 2 か所のステーションの契約を進めていき、万が一片方のステーションが閉所になっても対応ができるようにしてい った。
〇コロナの生活による変化
・医療的ケアの必要な児童は、よりシビアにコロナウイルス感染症と向き合っていることが分かった。身内に会うのも不安になったり、普通の風邪でも病院に気軽に行けなくなる、兄弟も幼稚園、学校に通わせるのが怖い、などの懸念がある。
・ただ、良かったこととして、母親の保護者からは 3 か月子どもが家にいて、ご飯を作っていた。それに比べたら夏休みぐらい平気に思えるようになったという意見や、父親が自発的に 手伝ってくれるようになった事や、子どもたちが率先して手伝ってくれたり、兄弟が児のお世話をしてくれるようになったとの意見もある。
〇ナーシングデイ柊の建設予定
・全年齢を対象とした、医療型通所施設を建設している。2022 年 4 月開設予定。
2. ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など
○野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・愛知医大の佐々木先生から、医療的ケア児たちが訪問看護の体制が整ったからと退院をしているが、対応する社会資源が足りない状態になっている。小児が苦手な訪看も多く、社会の状況 だけが先行して、マンパワーが足りていない、という話があった。 質問として、医療的ケア児とご近所のかかわり、地域の方々との連携について、今後の展望を お聞かせください。
→○神田氏(柊訪問看護ステーション )
・近所の方が積極的に声を掛けてくれる地域もあったり、都会的な地域もある。声を掛けてくれる地域では、保護者の代わりに買い物に行ってあげるなどの声を掛けてくれる方もおられる。そういった声掛けはとても助かる。
○栗田氏(レスキューストックヤード)
・ディスカッションをしたメンバーに NICU に勤めてる方がいた。その方からも法の整備や社会資源が本当に不足しているという話があった。また、他のメンバーからは一般のボランティア にできることは少ないかもしれないが、こういった課題に真剣に向き合うことが必要、という話も。
アジア車いす交流センターWAFCA の近藤様からは、車いすを安価に修理することが出来るの で、何か協力できるのではないか、という話があった。
○近藤氏(WAFCA)
・刈谷の事務所の隣に車いす病院があり、そこで高齢の方の車いすを修理する事業を行っている。ボランティアで運営しているので、安価で修理を請け負っている。出張修理も行っているので、 必要であれば協力させていただくことが可能。
また、月 30 台ほど使えなくなった車椅子を引き取ったりし、整備して販売も行っている 3000 円/台ほどで販売が可能。また廃番になった製品の部品等も扱っている。
→○神田氏(柊訪問看護ステーション )
・資源不足でいるも悩んでいる。ボランティアの話も、お母さま方の支援という観点からありかなと思った。また、車いすの件についても一度問い合わせをさせていただく。
○浜田氏(レスキューストックヤード)
・コロナの関係で退院が増えて在宅での看護が増えているのか?
→○神田氏(柊訪問看護ステーション )
・そういった要因で増えてはいない。ただ、例えばガンの末期でいつもだったら病院で診ても らうのだが、コロナの関係で面会が出来ないので退院して自宅で看取ろうというケースはあったりする。
○岡田氏(名古屋みどり災害ボランティアネットワーク)
・災害対策を兼ねて、外出の訓練をされている事例をお聞きし、素晴らしい取り組みだと思った。また、こういったお話を皆さん供していただき、様々なアイデアが出てきたのは素晴らしいと思った。
3. まとめ
○神田氏(柊訪問看護ステーション )
様々な方に話を聞いてもらえてよかった。今までは医療従事者の方や、周りの方ばかりだった が、今回いろんな発想、アイデアを頂けたのでとても勉強になった。ありがとうございました。 最後に宣伝を。様々な方が気軽に交流できる場所を作る予定です。そのためにクラウドファン ディングも予定していますので、是非ご協力をお願いします。
〇佐々木氏(愛知医科大学)
日頃、柊の患者さんと活動を行っている。コロナ渦の中で様々な課題がある中で、医療的ケア児やそれを取り巻く家族とともに一緒に暮らしていく社会作りを目指していきたいと考えている。ご家庭ごとの状況が異なるので、声を発信していく仕組み、それを拾い上げて解決する仕組みが必要だと感じる。医療従事者だけでは解決できない課題も多いので、色々な人と今後も関わっていきたい。本日はありがとうございました。
4. 次回の予定
■日時:2021 年 10 月 5 日(火)16 時 00 分~17 時 00 分
■テーマ:『「おたがいさま会議とよた」から生まれたつながり』
■ゲスト: 鈴木聖人氏(一般社団法人豊田青年会議所)
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