第53回:ダブルケア支援の取り組みと課題
●日時:2021年8月10日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:23 団体(運営 10 団体含む)
●参加人数:32 名(運営スタッフ 17 名含む)
1. 情報提供
○坂本氏(名古屋市市民活動推進センター)
・6 月の会議で情報提供した、名古屋市の災害救助用備蓄物資の有効活用について、ホームレス支援をしているボランティアオアシスに多くの物資を引き取っていただくことができた。
〇野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・前回会議で困窮留学生などへの生理用品の寄付をお願いしたところ、約 2,700 個提供いただくことができた。区社協や「なごやか地域福祉・大学ラウンドテーブル」という 10 大学が入っているネットワークを通じて必要としている学生に配布していく予定。
〇星野氏(日本福祉協議機構)
・前々回の会議で話題提供いただいた愛知夜間中学を語る会の笹山氏のところへ、松本国際高等学校名古屋校と日本国際財団とで訪問させていただいた。支援希望のあった自転車を2台購入し、1 台は「は じめの一歩教室」に通っている中学生に、もう 1 台は同教室に通っているお子さんの母親に提供。今 後は、日本国際財団から数学や理科の指導者派遣と、ムスリムの方々向けの食材調達支援を継続予定。
〇鈴木氏(豊田青年会議所)
・8 月 27 日(金)19 時からオンラインで豊田青年会議所の例会を開催。おたがいさま会議のような集いを地域で立ち上げる重要性について、地元活動者や行政関係者なども招いて話をする予定。Zoom ウ ェビナー参加や YouTube 視聴も可能。何か発言されたい場合は、登壇者の一人として参加いただくこ とも可能。後日、おたがいさま会議のメールで告知をさせていただく。
〇おたがいさま会議事務局
・おたがいさま会議後にアンケート(https://forms.gle/6qrxJpYT7swn32U39)への協力をお願いしたい。
2. 話題提供
■テーマ『ダブルケア支援の取り組みと課題』
(澤田景子氏:一般社団法人ダブルケアパートナー 代表 理事)
・ダブルケアパートナーは、子育てと介護が同じ時期に重なっている「ダブルケアラー」を支援する団体。任意団体として 2018 年に設立し、2021 年 4 月に一般社団法人となった。スタッフは 14 名で、全員ボランティア。ダブルケア当事者や支援者、研究者などで構成している。
〇ダブルケアの現状と課題について
・ダブルケアとは、狭義では子育てと介護が同時期に重なっている状態のこと。広義では子育てや介護に関わらず様々なケアが重なっている状態のことで、3 重や 4 重のケアになっている状態も含まれる。 親と義理の親のケアや親と配偶者のケア、病気などでの自分自身のケアと子育てなど、様々なケース がある。平成 28 年の内閣府調査によると、ダブルケアラーは全国に約 25 万人。調査では未就学児ま でが対象とされているが、実際は小学生の子育てと介護の両立で大変な方も大勢いる。
・ダブルケア問題が話題になってきたのは最近であり、「ダブルケア」という言葉は、2012 年に研究者 が作った造語である。背景としては、晩婚・晩産化で子育て期が遅くなっていること、一方で高齢・ 長寿化により介護を必要としながら暮らす方が増えていることからダブルケアが増加している。昔か らそういった状態はあったが、近年は、兄弟姉妹で介護の分担ができないことや、共働き世帯の増加、 核家族世帯の増加などにより、家族そのもののケアの力が弱くなってきている。そうした中、メイン の親がやっている介護が家族の中で分担されていくと、ヤングケアラーやダブルケアラーという形で 現れてくる。家族のケア力の低下がダブルケアを問題化させている。
・ソニー生命によるダブルケア経験者の負担調査では、「精神的にしんどい」が一番多く 8 割、「体力的 にしんどい」が 7 割を占める。ダブルケア当事者から話を聞くと、常に子ども優先か親優先かの選択 をしないといけない状態で、どちらを選んでももう一方に申し訳ない気持ちを抱え、そのジレンマや 選択を迫られることに疲弊している。例えば、朝は親のデイサービスや子どもの保育所送り出し、自 分は出勤するため忙しくする中、親が失禁してしまったりした場合に何を優先するか。そんな場面に 日常的に直面して疲弊している。家族の中で特定の人にケアの責任が集中し、分担がきちんとできて いない結果、第 2 子や第 3 子をあきらめたり、中絶を選択したり、背負いきれずに虐待やネグレクト につながってしまうこともある。介護は親や兄弟との関係性も複雑に絡み合うため、家族関係で上手 くいかずストレスやトラブルになっている人も多い。例えば、若い世代はサービスを使って共働きを 続けたくても、親世代はサービスを使いたくなく、自分たちのスタイルで進められなかったり、兄弟 間でお金の問題で折り合いがつかなかったりする場合もある。妊娠や出産時に親の介護も必要である 場合、入院中に第一子を誰が看るか、介護をどうするかなどで、自身のセルフケアが対処できない場 合もある。子育て期はお金がかかる時期にも関わらず、ダブルケアによる離職や正規から非正規雇用 になることで、経済的負担がかかり、キャリアも諦めなければいけないという問題に直面している。
・一般的に老老介護や独居世帯は気にかけられるが、若いケアラーは大丈夫と思われてしまう傾向があ る。外部の人からみると、メインの介護者でない場合もあり、ケアマネと話す機会がなかったり、外 部の人には父親が「家族でなんとかできている」と言っていても、それを支えている子どもが実は自 分の子育てや仕事を犠牲にしている場合もあり、外から見えづらい複雑さがある。子育てについては 周囲に相談できても、介護に関しては誰にも分かってもらえず、場が暗くなってしまうだけと思って、 友人等には話していない人が多い。行政には子育てと介護のそれぞれの相談窓口はあるが、二つ重な っていることの大変さを受けとめてくれる場所がない。また、当事者本人にも介護をしている自覚が あまりないこともあり、特にヤングケアラーの場合は手伝っているという感覚で育ってきてしまって いることが多い。ダブルケアラーも、親のリハビリを手伝っているという認識や、同居していないか ら介護ではないと思っていたなど、介護という認識をしておらず、自分が子育てと介護で大変な状態 であると自覚していないため、外に声として発することができていないという状況がある。
〇ダブルケア支援について
・ダブルケア問題について、行政に「こうして欲しい」というだけではなく、そもそもダブルケアの子育て世代の中には能力や解決力が高い人もいるため、自分自身で解決する力をサポートしたり、支え 合える地域づくり、複合化している問題に対しては専門的な支援体制づくりをしていくことで、安心 してダブルケアができる社会をめざしている。
・事業内容としては、当事者中心の団体であるため、まずは自助力を高められるように、当事者が悩み や介護情報を共有できる「ダブルケアカフェ」という場を2ヶ月に1回開催している。しかし、重い 悩みがある人から「カフェの中では話しづらい」という声もあり、名古屋学院大学と試験的に個別相
談も期間限定で実施している。自分自身の状況を整理したり、情報を入手する力を高めていってもら いたいと考えている。ケアマネが何をしてくれるか知らない人や、介護サービスについて知らない人 もいるため、ケアについて備える講座も行っている。経験談を共有する講座は、動画をホームページ (https://wcarepartner.com/?page_id=1664)にアップしているのでご覧いただきたい。他にも、熱 田児童館や名古屋学院大学とシンポジウムを開催したり、介護サービス事業者研究会と専門職向け研 修を行なったり、熱田高校演劇部にダブルケア寸劇を演じてもらったり、9 月 11 日にはイオンモール 熱田店の健康イベントで大学生による啓発活動も予定している。ダブルケアは世間に知られておらず、 当事者自身も知らなかったりするため、言葉の認知を広げることも大切にしている。理解を広げるた めに講座等で使ってもらえるような冊子やゲーム作成、SNS 拡散に力を入れている。
・今後の方向性としては、全国的にもダブルケアカフェの集まりは少なく、コロナ禍前には岐阜や三重 から参加する人もいたため、もう少し身近にカフェや個別相談が開かれるように、収入確保もしなが ら広めていきたいと考えている。
・活動で大変だったことは、ダブルケアが知られていないため、参加対象を区民に限定すると人集めが 難しい一方で、区社協では区民対象でないと会場貸出し不可とのことで、当初は場所確保に苦労した。 世間に知られていないテーマの場合、最初は区単位での実施が難しいこともあるため、もう少し柔軟 に支援してもらえるといいかと思う。行政に話をしに行った際には、子育てや介護のどの分野で対応 するかで押し付け合いになっていたりもした。ダブルケアについて行政職員や地域包括職員の理解が 低いため、「ダブルケアサロンを作りたい」と相談しても、「子育て世代には需要がない」と言われ、 なかなか支援してもらえなかったりもした。また、当事者が子育てサロン等で介護の話をすると、「こ こでは子育ての話だけ」と言われ、介護あっての子育ての大変さを話せないこともある。ダブルケア の相談をしたくても、「同居ではないからダブルケアではない」と言われて切られてしまう場合もあ る。もっとダブルケアについて理解をしていただき、直接支援は難しくても、上手くつなぐいでくれ るようになってもらえるといいと思う。
・コロナ禍の当初の頃は、職場がテレワークになっても、子どもは一斉休校、保育所もテレワークの人 は利用不可に、介護施設は利用者本人や家族が少し咳をするだけも利用中止になり、コロナ感染リス クへの懸念から親や親戚に子どもを預けられず、まさに八方ふさがりの状態で疲弊している人が多か った。遠方にいる親が介護をしている状態の人は、メイン介護者の親を助けに行きたくても、県外か ら人が来ている家庭はデイサービス利用不可と言われていた時期もあり、行くに行けない状況があっ た。ダブルケアの場合、親か子どもが受診する時には、もう一方が一人で留守番が難しいため一緒に 連れていくことが多いが、病院のコロナ対策で同伴不可になってしまって困ったということもあった。 最近のダブルケアカフェでよく聞く話題としては、コロナ禍が長期化する中で、施設に預けないとい けないくらい ADL(日常生活動作)が悪くなっていても、施設に入所すると一切面会不可になったり するため、会えなくなる覚悟をするか、大変でも在宅介護を続けるかの板挟みで深刻に悩んでいる人 が結構多い。ハイリスクの親がいることから、普通の子育て世代よりもコロナ対策に神経をとがらせ ていて心身ともに疲れ切っている状況もあったが、ワクチン接種が進んできているため、少しは安心 してきている様子もある。
・「ダブルケア」という言葉をまずは広げていきたい。当事者の方々に自分の状況をどう表現したらいい か知っていただきたい。ダブルケアカフェなどの活動にも参加いただき、自分自身でどう対処すれば いいかという力を持つだけで、次のアクションに動ける人はたくさんいる。「ダブルケア」を知っても らえるように、言葉の普及にご協力いただきたい。
3. ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など
○梅田氏(中日新聞社):子育てと介護のダブルケア以上に困難を抱えている人もいるか教えて欲しい。もし機会があれば当事者にも取材もさせてもらいたい。
→澤田氏:ダブルケアの方の中には、家族の中でケア責任が集中してしまっていて、自分の親と義理の親、祖父母のケアなどが重なって、実際にはトリプルやクワトロになっている人も多い。
○浦野(RSY):団体メンバーの男女比や相談者の夫との関係性について教えて欲しい。
→澤田氏:団体メンバーで男性は支援者の一人のみ。ジェンダー問題もあることはわかっている一方で、当事者としては自分が責められている気がするのか、夫のことにはあまり触れられたくなかったりも する。当事者団体だからこそ相談が難しいこともある。夫と話し合いができていたり、手伝ってくれ ている家庭もあるが、大変なのは分担が上手くできていないケース。男性の相談者もいるが、男性の 場合はカフェの場はあまり好まず、個別相談が多い傾向。男性当事者の方が話す場がないと感じる。
○菊池氏(日本福祉大学):例えば団地のように、できた当初は若い世代がたくさんきて、そのまま時が 経ち年齢があがっていくことで将来的にダブルケアになりやすい地域があるのではと思う。どの地域 にどんな課題が発生しそうか予め予想し、行政や社協と福祉計画を考えていく必要があると思う。
→澤田氏:ダブルケアの研究はまだ少なく、実態がわかっていないことが多い。岩手県や東京都、横浜 市などで団体ができてきており、通い介護の課題が多い地域と同居介護の課題が多い地域は、都会と 田舎で大きく分かれてきている印象。今後いろいろと実態が明らかになっていくといいと思う。
○伊藤氏(清流の国ぎふ):ダブルケアの大変な状況を身近では話せないこともあるため、遠くても話せ て褒めてもらえると楽になると思う。個別で話を聞いてくれるボランティアが増えていくといい。 →澤田氏:「近くだと話せない」という声が多かったことが個別相談にもつながっている。「カフェでは楽しそうにダブルケアをしている人を妬ましく思って言えなかった」という声もある。ダブルケアカ フェは現在、オンラインで開催している。コロナが落ち着いた後も、オンラインと対面を並行して実 施していきたい。オンラインだと全国どこからでも参加いただけるが、身近で話したいという人もい るため、それぞれが相談しやすい方法を選択し、相談できる力や情報を手に入れる力を高めてもらい たいと考えている。
○鈴木氏(デンソー):「ヤングケアラー」や「8050 問題」は注目されているが、「ダブルケアラー」の 認知度はまだ低く、もっと有名になることで当事者が救われるのではと感じる。介護や育児問題とい う複合的な課題に対するワンストップの窓口が今後重要になってくると思われ、おたがいさま会議の ようなプラットフォームが広がっていくと解決しやすくなっていくのでは。
→澤田氏:大阪の堺市には基幹型包括支援センターの中にダブルケア相談窓口があり、4~5 年かけて広 く認知されるようになり、現在では年間 500 件ほどの相談が入るようになっている。日常のケアが大 変な中で自分の困りごとを整理し、それぞれの困りごとの相談窓口を自分で探すのは難しく、いろい ろな窓口を案内されても、例えば連れて行った子どもの世話に追われ結果として何も相談できずに帰 ってきたという人も多いため、当事者にとって窓口が明確にあることが大切。一方で、相談ごとを話 すということはテクニックも必要であるため、当事者の相談できる力も高めていきたい。
○萩原氏(MY パワー):年金はどんどん下がってきており、年代での変化と、職業によっても差がかな りある。福祉のライフラインがどんどん下がってきており、市民に押し付けられてきていると感じる。
→澤田氏:団体としても最初は行政に何とかして欲しいと訴えたが、難しかったため自分たちでカフェ の場を作って相談できる場を広げていった。一方で、当事者からは「ダブルケアの経験を価値あるものと思いたい」という声や、「活動することで自分の経験が無駄にならない」という声もある。そういった当事者の力を糧に頑張っていきたいと思う。
○小池氏:行政ではなかなか対応が難しかった中、草の根でダブルケアカフェ活動を始めたのはとても意味があると思う。ダブルケアカフェ活動にこだわるところを教えて欲しい。
→澤田氏:当初は当事者がこんなにカフェという場を求めているとはと意外だった。当事者は共感し合 って肯定されたいという気持ちが強く、それは専門家がアドバイスするのとは異なり、同じ経験をした仲間同士でないとできない。カフェの場を続けたいと、当事者自身が思っている。
→中村氏:ダブルケア経験者として、私も話を聞いてもらうところなかったため、カフェでいろんな話ができて共有できたのはいい時間だったと感じている。カフェの場は継続して続けていきたい。
■まとめ
・「ダブルケア問題」というと、当事者の方から嫌がられる。否定的なものではなく、自分の生活に当たり前に存在することであり、楽しい経験もある。ダブルケアをしないことがいいのではなく、ダブル ケアを安心してやっていける社会を作ってもらいたいという声が当事者から多く聞かれる。ダブルケ アをしている子育て世代は、働き盛りの世代であり、すごい能力を持っている人がたくさんいる。そ の人自身がサポートの対象ではなく、一緒に安心してダブルケアのできる社会を作っていく仲間とし て取り組んでいきたい。
4. 次回の予定
■日時:2021年8月17日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:昭和区"食支援"の現場から
■ゲスト:小塚氏(一般社団法人つなぐ子ども未来)
大津氏、渡邉氏(昭和区社会福祉協議会)
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