第52回:労働者協同組合法制化の意義と可能性
●日時:2021年8月3日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:27 団体(運営 10 団体含む)
●参加人数:32 名(運営スタッフ 15 名含む)
1. 情報提供
○野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・区の社会福祉協議会からの相談です。区内の留学生がコロナ禍でアルバイトができず、日用品、特に生理用品が購入できない。寄付していただける団体はないか。各区役所のトイレに、必要な分だけ使 用するために配置していることはスタートしたが、配布はしていない。社協として確保していないの で、もし情報があれば社協ボランティアセンターか、事務局まで情報をお願いしたい。
○種村氏(レスキュースックヤード)
・先週登壇いただいた笹山先生から、コロナ禍による物品寄贈の依頼。具体的には、手指消毒用アルコールボトル 5 本、テーブル用除菌シート 10 袋、ペーパータオル 20 袋。情報がある方は事務局まで。
2. 話題提供
テーマ『働くをかえる地域をかえる~労働者協同組合法制化の意義と可能性』(朝倉美江氏:金城学院大学)
○自己紹介と労働協同組合に関心を持ったきっかけ
・今日は「働くを変える地域を変える」をテーマに、昨年成立した労働者協同組合法についてお話をしたいと思っているが、私がなぜこの労働協同組合に関心を持ったのかについて、自己紹介を兼ねてお話したい。
・私は、神奈川県の社会福祉協議会で 10 年間ぐらい勤務経験がある。この会議でも以前話題となっていた生活福祉資金の貸付などを担当し、障がいのある方や外国籍の方、難民の方などの深刻な状況に対して、支援制度が適切でないのではないか、といつも考えていた。
・1980 年代くらいにアメリカの障がい者の自立生活運動が日本に入ってくると、神奈川県内の障がい者団体と一緒に、どうしたら施設から出られるか、津久井やまゆり園なども訪問し、何とか地域で自立 できるようにならないか、障がい者のリーダーの方々と一緒に勉強したり、サポートしたりしてきた。 そのほか、横浜の貧困地域に入ってその地域のインナーシティ問題、依存症の方の支援などいろんな 問題に関わってきた。
・大学時代にもともと社会福祉を勉強していたのだが、あるとき体を壊してしまい、もう一度一から勉 強してみようと大学院に入り、現場でやってきたことを理論化できたらという思いで、地域福祉、中 でも参加と自治についての研究をしてきた。
・社会福祉協議会は、戦後、福祉の民主化を図るということで GHQ の指導で作られた社会福祉法人であ るが、とはいえあまり民主的ではない組織というのが、私が 10 年の勤務経験を通じて思ったこと。
・何か問題を抱えている人に対して、専門職ばかりでなく、問題を抱えた人たちとその問題が出ている 地域とが一緒になって解決できるような、そういう自治の力をどうやったら組織的に作れるだろうか、 ということを問題意識として抱えていて、自立生活運動に取り組む当事者の方たちやボランティア団体などの調査などに取り組んできた。その中で 80 年代に出会った組織として私が一番民主的に近いかな、と思ったのが協同組合。
・NPO も含めいろんな組織が、その独立性や民主的な運営などを意図したものとなってはいるが、組織の仕組み自体に民主的なシステムを持っている協同組合という組織形態が、最も優れていると思った。
・協同組合が持っている一人一票制という原則、組織運営の民主的な仕組みをもっと社会福祉の現場の 中に広めていくことができないか。当事者の方々の問題を自分たちで解決していく、当事者と支援者 が、上下関係とか助ける・助けてもらうという関係ではなく、一緒に解決していくというようなことができないか、そう考えるに至った。
・協同組合は、すべてのメンバーの参加、すなわち議論をして、最終的な決定権は全てのメンバーが持っているっていうこと、それと財政民主主義、社協にいた時に財源が行政からの補助金が多くて自由度がなかった経験から、自分たちで仕事を作っていくことがとても難しかったので、そういう意味でも自主財源を持てるかどうかというのは組織の自立性を担保する上でとても大事だということが自 分の問題意識として大きかった。
○コロナ危機で顕在化した社会保障制度の脆弱化と労働問題
・コロナ危機がますます厳しくなっている状況、これから先どうなるんだろうと。ワクチンの効果がどのくらいかはわからないが、それがあったとしても、生活困窮・貧困の状況、それから孤立の問題といった社会的排除の問題がもっともっと酷くなるのではないか、と思っている。
・その背景には、グローバリゼーションの中での新自由主義の弊害、資本主義が暴走しているとか、そ れが引き起こす気候危機、さらには生活困窮や貧困を解決するはずの社会保障制度自体が、かなり脆弱化してしまっていることなどが大きな問題としてある。
・資本主義社会の中で、社会保障制度というのは雇用を前提としている。労働が商品として売買され、その売買で得たお金で私たちの生活が成り立つという働き方になった。だからこそ労働者を守る法律 があり、労働できない人、労働が困難な状況になったときに保障される、というのが今の資本主義社 会における社会保障制度の位置づけだった。
・しかし、残念ながら完全雇用が形骸化してしまった。特に労働者の立場を保障するという意味で労働 組合運動が果たしてきた役割は大きかったが、これも日本ではユニオンショップと言われるような企 業別の労働組合になり、企業との協調路線になってしまった。
・さらに、終身雇用、年功序列により労働組合が機能しなくなっていく中で、特に 1990 年代のグローバ リゼーションの進展により経団連が雇用の柔軟化政策を打ち出すなど、どんどん労働法が脆弱化し、 派遣社員が広がっていく。非正規雇用が増えていく。結果、労働者の立場がどんどん弱くなった。
・そんな中、非正規雇用だったり、中小企業だったり、労働組合がない、なかなか職場の労働組合では 自分の身分を保証できない人たちのための労働組合として、地域をベースにした「コミュニティユニ オン」が 80 年代くらいから各地で作られていく。
・全国に 69 ユニオン 2 万人弱くらいの組合員がいるが、2013 年に、10 人の研究者と一緒に、全国の北 海道から九州まで、コミュニティユニオンの方々の生活や労働環境の調査をした。
・実態として、低賃金で、長時間労働で、労災が多い、そしてそれが保障されない。本当にワーキング プアという人たちの生活実態を知った。特に印象的だったのは、医療、福祉、教育の分野の方が多か ったという現実。
・そして、個別の労働問題、介護だったり労災だったりの問題を、コミュニティユニオンが相談にのっ て支援をし、時には裁判を起こしたりもする。でも、裁判に勝って権利を勝ち取っても、結局は同じような雇用労働に戻ってしまう。そこにものすごく限界を感じた。
・インタビューをしている中で、結局同じ社内に戻り、また劣悪な雇用環境で働くことになっていると知り、働き方を変えていかない限り根本的な解決ができないのではないか、と考えるに至った。
○貧困の拡大と「外国人労働者」
・リーマンショックのとき、私は日系人の方々の支援をしていた。相談といっても多くの方々が中身のない財布を見せてくれて、結局生活保護を受けざるを得ず、申請書を書きにいくのに、ただそばにいて付き添うしかなかった。
・またリーマンショックのときには、その年の年末には日本人の派遣労働者もたくさん解雇されていたが、実は日系人の方々は秋ぐらいに、すぐ解雇されていた。今回のコロナ禍でも、やはり外国籍の方々が最初に解雇され、同じようなことが繰り返し起こっている。
・瀬戸にある NPO がやっている緊急支援の事例では、去年の 5 月くらいにペルーの方からミルクがないということで、緊急支援の声があがり食糧支援を始めたという取り組みもあった。 ○雇用労働のあり方を変える「労働者協同組合法」
・こうしたことを調査し、活動に参加していく中で、私たちの労働というもの自体が、そもそも搾取の対象だったのではないか。地球環境と同様に搾取の対象だった。例えばエッセンシャルワーカーと呼 ばれる人たちがコロナ禍でもとても厳しい労働環境になっていて、それが改善されるような話も今の ところない。やはり今の雇用労働自体のあり方を少しずつ変えていく必要があるのではないか。
・そういうときに、労働者が主体となって、自らが共同で地域に必要な労働をつくっていく。そして生 活の仕方も、一人で自助で頑張るのではなく、他者と協働しながら、助け合いながら生活をしていく。 そうしないと、私たちの生活は守られないのではないか。さらには自然環境も守れない。持続可能性 の危機が再三言われているが、この状況は今の延長線上では解決できない問題なのではないか、と考 えている。
・そんな中で、去年の 12 月に成立した「労働者協同組合法」、この法律の第 1 章の総則の目的が、法律 の特徴をとても表していると評価されている。それは、各人が生活との調和を保ちつつ、自分の能力 に応じて就労する機会が十分に確保されていない、ということを法律の中で明確に指摘しているとこ ろ。今の社会や労働の問題自体が、この法律を生み出す背景にあるということが明確にされている。
・そして、それに対してどう対処すべきかいうことで 3 つの特徴を挙げていて、一つ目が多様な就労の 機会を作ること。二つ目が地域における多様な需要に応じた事業を実施すること。地域には必要な事 業がたくさんあると言っている。そして三つ目が、それらの事業によって持続可能で活力のある地域 社会を実現すること。こういう働き方を目指すのが、この労働者協同組合という新しい働き方、新し い仕事の作り方なんだということを示している。では労働者協同組合ってそもそも何なのか。また、 その地域に必要で自分たちも生活ができるような仕事とは何か。
・まずは協同組合なので、組合員が出資する。そしてそれぞれの意見を反映して事業を展開する。そし てそのメンバーは、その事業に従事することを原則とする。具体的には、ワーカーズコープとか、ワ ーカーコレクティブという障がい者の就労団体などが、この労働者協同組合に位置づけられている。 国際的に一番近いのはワーカーズコープであるとこの分野の第一人者である富沢先生が言っていて、 職のないものが自分たちで仕事を作り出すために結成した組織だと定義をしている。
・労働者協同組合法が示す、地域に必要な仕事というのは本来地域にいろいろあるはず。つまり、私た ちみんな、少なくとも地域に暮らしている人たちが必要とする公共性の高い仕事が、この労働者協同 組合法でいう仕事ではないか。
・ワーカーズコープは、戦後の社会労働を起源にしている組織で、彼らが心がけてきたのは、良い仕事 をするということ。つまりは、地域や社会に必要な仕事。彼らが今まで長年担ってきた清掃ゴミの収 集も、このコロナ禍でエッセンシャルワーカーとして注目された。子育てや介護、ケアの仕事をなど がどんどん増えてきている。
・さらには、過疎地と言われるような地域で、若い技術者が林業や農業などに従事する。これもワーカ ーズコープが担っている。これらは本当に必要不可欠な大事な仕事。外に出ないで自粛生活を、と言 われても、そうした仕事を誰かがやってくれなかったら私たちは外出自粛生活もできない。にもかかわらず、これらは低賃金であり、次の世代がこの仕事で暮らしていけるかというと、希望を持てない 仕事になってしまった。このことも、大きな問題ではないかと思っている。
・この、地域に必要な仕事、私たちにとって本当に大切な仕事というのを実現していくために何が必要 なのか。この労働者協同組合で働くというのは、従来の雇用されて働くという働き方ではなく、自分たちで働き、何をするかについても自分たちで決める。そこで大事なのは、これを生活できる働き方 にする必要があると。そのためには、彼らが頑張るだけではなく、社会全体の中で労働者協同組合、 協同労働というものを位置づけていく必要がある。
○新しい生き方としての、雇われない働き方
・ヨーロッパでこれが広がっている背景には社会保障制度が充実していることがある。教育の無償化や住宅保証、そういうことがしっかりしていることが前提として成り立つ。そのためにも地域で本当に 必要な仕事とは何なのか、公共的な仕事とは何なのか、地方自治がしっかり確立していることが必要 だろうと。私たちの税金は何に使うのかということをしっかり市民が考え、その中で仕事に対してど のくらい税金を払っていくのかを考えていく必要がある。
・この雇われない働き方というのは新しい生き方だと思っている。先週、ある過疎地に行って有機農業 法で生活を成り立たせている若い人たちに会ってきたが、自分たちが納得できる仕事を、自分たちで 作り出す働き方、生き方をされていた。自分で稼いでその分だけで生きるのではなく、仲間地域の人 たちと一緒に必要な事業を起こして、その中でいろんな意味で助け合って生きていく、そんな働き方 をこの協同労働、労働者協同組合が目指している。
・今、愛知でも法律の制定を記念して、4 月に「協同ではたらくネットワークあいち」という組織が立 ち上がった。愛知の高齢者協同組合や愛知ワーカーズ・コレクティブ、ワーカーズコープ東海、障がい 者の団体であるわっぱの会などの方々が中心になり、労働者協同組合法の周知や、協同労働という働 き方を多くの人に知ってもらう活動を展開している。
・外国籍の方が多い豊田の保見地区では、リーマンショック後、とても厳しい環境にあったので、その とき私も保見地区に出向いて、セカンドハーベストの人たちに食料支援をお願いしたり、生活保護の 申請を手伝ったりしたが、結局トヨタ関連の工場に働きに行っても、いつ派遣切りにあうかというよ うな働き方ではない働き方を何とか作れないかということで、ここでは保見ケアセンターを立ち上げようという動きがある。
・愛知ワーカーズ・コレクティブも、介護事業や編集事業、学習活動などいろんな活動されていますし、 ワーカーズコープ東海では放課後デイや学習支援、いろんな仕事を地域の中で地域の人たちと一緒に 作り実践している。
・わっぱの会は 1970 年代から、障がいのある方と一緒に暮らして一緒に仕事を作るということで、み んなで事業を運営しそこで得た収益はみんなで分配をしていくというような仕組みを作り上げてき た。このネットワークはもっと広げていきたいので、皆さんも関心があればぜひ入ってほしい。
・先日、こうした方々と一緒に、そもそも働くとはどういうことか、という座談会を開催した。障がいのある方もない方も対等に生きていく方法を考えたい、とか、生活と仕事は切り分けられないのではないか、とか。こうしたことをどう考えていったらいいのか議論した。
・それぞれの職場で悩みながら、仲間と一緒に課題を解決していこうとしている。共通しているのは、 話し合いながらその中で仕事と暮らしが成り立つよういろいろな工夫をされている。そうしたことを共有させていただいた。
・このような話の中から、働くということは、企業に雇用されるという働き方もちろんあるが、本当は 自分たちが生きていく地域で、そこで必要な仕事を作っていく。そしてそれが働くことに繋がってい く。そういう働き方をなんとか目指せないだろうかと。
○働くことは地域づくり
・協同労働、共に働くという働き方、いろんな人たちが地域に入る。地域の面白さは多様性にあると思っている。いろんな人がいて、いろんな力をそれぞれの人が出し合えるような、そんな働き方をすると、それはまさに地域づくりであると言える。
・そもそも協同組合とは何なのか。産業革命下のヨーロッパ、新世界への移住、救貧法、いろんな選択肢があった中で、協同の力で生きていきたいということで作られたのが協同組合の原点。現在、協同組合は世界で最も大きな NPO とも非営利組織とも言われ、世界中で多くの組合員を擁している。
・今、SDGs が大きなテーマになっているが、その前に、2012 年に国際協同組合年を国連が制定した。な ぜ 2012 年が国際協同組合年と定められたかというと、リーマンショックのようなマネーゲームの反 省がある中で、協同組合の一人一票原則や、協同組合が仕事を作ったり貧困を解決したり、そういうことを目的にして活動してきたのが協同組合だから。
・だからこそ国連のミレニアム開発目標に向けた取り組みの中で、協同組合がそれを担っていってほしい、市場原理でなく、非営利組織としてこの協同組合を発展させてほしいということで、国際的に協同組合年が選定された。
・その後 2015 年に、持続可能な開発のための 2030 アジェンダ、SDGs が採択されるが、協同組合はこれを推進する大きな重要な柱になっている。
・国際協同組合同盟の虹の旗というのがあるが、そもそもは多様性を大切にしていることを意味している。今は LGBT の方が有名かもしれないが。このコロナ禍の中で大切なのは、種の多様性だと言われている。
・人類の歴史を見ると多様性を尊重し助け合ってきた種が生き残っている。これはクロポトキンが相互扶助論の中で言っているようなことにも繋がると思うが、そういうことが今は大切だと思っている。
・協同組合は、国際的には「One for All, All for One」一人はみんなのために、みんなは一人のため に、を共通理念にしている。競争ではなく、協同し支え合えるような働き方をすることが、持続可能 な地域づくりを可能にすると思っている。ぜひ関心を持っていただき「協同ではたらくネットワーク あいち」にご参加いただければ嬉しい。
3. ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など
○萩原氏(MY パワー)
・日本でも終戦後、お互い助けあっていくということで協同組合ができたが、どうして今それが成長しないのか。どこかで利益優先で、非常に企業化してしまったという話題があった。そこには国の規制 緩和という流れもあるんだろうと。と同時に NPO という領域にも、公共サービスの民営化という流れの中で、企業と小さな NPO が競争せざるを得ない状況があって、NPO の企業化も怖いなという話題も あった。
○戸田氏(SIIF)
・共通の話題として挙がったのが、ワーカーズコープとか労働者協同組合関わる人たちの経済的なところ、実際に得られる収入とか賃金とかについて。今日のテーマは、個人的に関心を持っていって、読まれた方いるかもしれないが工藤律子さん、繋がりの経済とか社会的連帯経済とかを研究されている方だが、この方の本の登場人物の賃金が、一般的な賃金水準よりも 3 割ぐらい低い印象がある。
・今日のお話の中でも出ていたが、社会保障で支えてそうした働き方を進めていくのか、もしくはある 程度公的セクターが収益性を担保して、持続可能な形にして協同組合に事業として担わせていく方向 なのか。そこについて議論できないと、協同組合とかワーカーズコープに関わってる方たちの問題というよりは、この資本主義や貨幣経済の中で、組織として存在し機能していく以上、結局そこでどれだけ賃金とか手取り収入を得られるかで生活の質も決まってくるので、理念としては素晴らしいが、 清く貧しく、が強制されるような働き方になってはよくないのではと思っている。
→○朝倉氏
・清く貧しく、という側面もあるかもしれないが、私が出会った有機農業をやっている方々はとても豊かな感じで幸せそう。自分たちの自由や信頼関係があるということの豊かさをもっと私たちは大切にしてもいいのではないか。
・ただ社会保障などのシステムが、市場原理がベースになっていて資本主義に巻き込まれてしまっている中で、それを構造的に変えていく必要があると思っている。とはいえすぐに変わるわけではないので、そこから離れた仕組みを少しずつ作って積み重ねていくということが必要ではないかと。
・ドラスティックに世の中は変わらないとは思うが、少なくとも自分の地域、自分の周りで、本当に必要な仕事って何なんだろう。必要なサービスって何なんだろう。そして、私たちはそれをどうやってつくり、支えていったらいいのか。
・だから社会保障、特に介護保険制度などはわかりやすいと思うが、介護保険サービスは、大規模に多様なサービスを担わないとやっていけない。規模が小さいと難しい。そのこと自体を変えていか ないと。介護の問題、保育なんかもそうだと思うが、市場原理で効率的に、という今の仕組みでやり続けたら、私たちの暮らしは破壊されてしまうと思う。
・そうではないやり方を自分たちのところでつくって続けていくしかないだろうと。そんなことは意 味がないと評価される方もいるとは思う。でも確実に全国いろんな地域で、多様な協同組合的な働 き方が生まれてきている。
・NPO も市場システムの中に巻き込まれ、結構規模が大きくないと維持できない、それこそ生活でき るような賃金を得られない。維持するためには、助成金をずっと取り続けなければいけないとか、 本当にクラウドファンディングをやり続けるみたいなことになってしまう。
・ある程度公的なお金を、非営利のところ、私たちの暮らしのところに使えるようなシステムづくり を、小さくても地域の中でやっていく。先日白川町を訪問したが、岐阜県で一番消滅すると言われていた地域だったのが、ここ 10 年で移住者がとても増えている。地域でもいろんなサービスを作 り出し、町独自に若い人に対する支援をするようになってきて、地域の人たちもそういう動きが見 えるようになってきている。
・そういう地域は全国でもたくさん出てきていて、特にコロナ禍の中で新しい生き方や働き方をしたいという動きが確実に増えている。その流れをより大きくしていくということを積み重ねていくし かないのではと思っている。
○菊池氏(日本福祉大学)
・地域の中で循環させていくというお話だったと思うが、地域のスケールというか、今日のお話を聞いていると、場所として地方をイメージさせるように思えたのだが。地方でこの取り組みを進めていきたいということなのか、場所のスケール感についてお教えいただきたい。
・都市部では、どうしても市場原理に巻き込まれてしまうところが懸念されるのではないか。
→○朝倉氏
・規模の要素は大きいと思っていて、ヨーロッパのように自治体の規模が数万人単位というのは理想的。日本のように何十万、100 万、200 万単位というのはとんでもないと思う。医療圏とか福祉圏というようなところで少しずつ変えていければ。
・とはいえ、ワーカーズは名古屋市内でもとても頑張っていて、拠点をつくり地域とのつながりをつくって学習支援やったり子ども食堂をやったり、就労支援をしたりということをやっている。地域 の人たちに関りつつ展開しているのを見ていると、そういう日常生活圏域などを意識しながらやる ことによって、少しずつ広がっていけばいいのではないかと思っている。
■まとめ
〇朝倉氏
・NPO 法ができた後に NPO の全国調査を実施した。そのときに一番ショックだったのは、無給で 365 日働いている人が多かったこと。今でも報酬なしで 24 時間の相談ダイヤルを持っているという方にお目にかかるが、つくづく日本の社会はこういう善意に寄りかかって成り立っていると思う。こうした 活動が社会的にも位置づけられて、報酬も真っ当なものになることが大事だと思う。
・NPO も自分の事業で収益を得ることもあると思うが、事業だとどうしても市場競争に巻き込まれてし まう。協同組合は出資をすることができる。出資者を集め、共感してもらう人を集めることによって 継続的に事業を展開していくことができる。そして組織が民主的な仕組みになっていて、共同経営者 になるというところが他の組織と違うところ。運営に責任を持つという人たちがメンバーになる。
・確かに、話し合いに時間がかかったりとか、いつもうまくいくわけではないというのもその通りだと 思う。でもそういうプロセスを共有できる組織に、資金調達の仕方とか議論をしっかり保障するとか、 そうした仕組みが日本に育っていって、もっと民主的な社会をつくる、もっと市民がしっかり声を上 げられるような組織づくりが必要だと思っている。
・協同組合運動と言われるようにソーシャルアクションだと思うので、こうした動きが広まり、多くの 人に知ってもらって、ヨーロッパのように協同組合が広がっていくと、生活を大切に、一人ひとりを 大切にするような社会になっていくと思う。
4. 次回の予定
■日時:2021年8月10日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:ダブルケア支援の取り組みと課題
■ゲスト:澤田景子氏(一般社団法人ダブルケアパートナー)
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