第51回: 愛知夜間中学を語る会主催・支援「はじめの一歩教室」ご紹介

会議レポート

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●日時:2021年7月27日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:30 団体(運営 10 団体含む)
●参加人数:38 名(運営スタッフ 17 名含む)

1. 愛知夜間中学を語る会主催・支援「はじめの一歩教室」ご紹介

■スピーカー紹介(土井氏:多文化共生リソースセンター東海)
名古屋市の北区、大曽根の近くで活動をされている、「愛知夜間中学を語る会」の教室を運営されている 笹山さんにお話をいただく。今日のテーマである夜間中学とは何かとか、そこにどういう子どもたち、 あるいは大人の方が通っているのかなど、ぜひこの機会に皆さんに知っていただきたい。

■テーマ『愛知夜間中学を語る会主催・支援「はじめの一歩教室」ご紹介』(笹山悦子氏:愛知夜間中学 を語る会 代表)

・現役の教員だが、定年退職をしている。再任用も終わる年齢。私が再任用を終えると夜間定時制の子 どもたちの学びが継続できないのであと 2 年は継続をする予定。

・10 年ほど前からの定時制高校には外国人が多かった。国語科の教員としてのアプローチでは彼らの学 びをきちんと支援できないと気付いた。そのため一念発起をし、日本語教師の資格を取るために、専門 学校に通うことにした。1年半かけて、420 時間の講習を終え、日本語教育能力検定試験を受けた。日本語教育のアプローチの仕方と国語科のアプローチの仕方は全く異なっている。日本語教師として学ん だことを目の前の外国人の子どもたちに教えたいと思った。

・夜間中学をはじめたきっかけは、外国人の子どもたちに対して高校全体として支援が行き届かない、 進学してもこぼれてしまう生徒がたくさんいる。高校入学の前にしっかりとした日本語をきちんと身に 着けてから高校を進学してほしいと考えていた。そんな中、高校進学する前の子どもたちの支援をする ことで、高校でしっかり学べるように、学びのセーフティーネットをきちんと立ち上げたいと考え、夜 間中学を語る会を組織した。

・コロナは学びのセーフティーネットが必要なんだと気付かせてくれるきっかけになった。コロナが始 まる前から、夜間中学を知ってもらいたいと思い「こんばんはII」という夜間中学のドキュメンタリー 映画を上映する予定だったが、準備中にコロナの感染拡大が広がり、昨年 3/29 に予定をしていた上映 会は直前で中止になった。また、学校は突然休校、大人は自粛を強いられる状況になった。そんな中で も支援を必要としている方は多くおられた。ある一人の方と ZOOM で支援をすることが出来たが、ZOOM ではかゆいところに支援が届かなかったり、そもそも家庭に Wi-Fi が用意できない環境にある子どもが 多かった。何とか対面の支援を立ち上げたいと思った。

・昨年 5 月に「語る会」を立ち上げ、地域の子育てネットワークに参加をした。またそこから、北区社 会福祉協議会、ホーネットという弁護士の方々、貧困ネット、子ども食堂、保育園、福祉団体等の地域 とつながることが出来た。 ・上記の方々と一緒に「だれも取りこぼさない」支援を目標に活動が展開できるようになった。

・昨年 8 月 8 日に「はじめの一歩教室」をスタート。このときは 5 名の参加者。現在は 45 名(9 倍)の 参加者がいる。

・目標は愛知県にも「市民目線の公立の夜間中学」の設立。市民目線、ということが大事で、ただ箱をつくるのではなく、だれも取りこぼさない教育を実施することが重要。

・支援者も 5~6 名からスタートしたが、現在は 20 名ほど。大学生院生、現役教員、退職教員、地域の 方が参加している。子どもたちの多くは、周辺の上飯田の団地のネパール人の方が多い。フィリピンル ーツ、中国ルーツ、ウズベキスタン、マレーシア、バングラデッシュ、ムスリム、ベトナム、日本人も いる。

・日本人では社会福祉協議会からの紹介の 75 歳のおばあさんもいる。このおばあさんはコロナ禍で孤 立感を高めたため参加をしている。貧困で家族の世話をしていて、満足に勉強をしてこられなかった。 おばあさんは子どもたちと一緒に、ひらがな、カタカナ、漢字の読み書きを学んでいる。

・また、不登校の日本人のお子さんも通っている。ワイワイするのは苦手な方もおられるので、ここは 「みんなが来ていいところだよ」と伝えている。そんなわけで、人数がどんどん増えていった。当初は 午後のみだったが、現在は朝 8 時から夜 20 時まで運営している。

・夜間中学を必要とする人々 1.日本語指導を必要とする児童生徒・大人の増加 2.少子化にかかわらず、増加する不登校児童生徒
→学ぶ機会が持てなかったために、学び直しもできない状態 3.地域にも家庭にも居場所のない人々
→孤独な高齢者、障がい者など 様々な背景がある

・事例紹介(取り残された子ども達)
A 君・・・2020 年 1 月ネパールから来日。故郷での中学校を終えていないため中学3年生のクラスに 編入し高校受験を目指す。3 月にコロナ感染拡大し、学校一斉休校、適応支援も休校。偶然支援者とつながり ZOOM での支援を受ける。その後、一歩教室で学び高校を合格した。
B 君・・・2019 年 10 月ネパールから来日。中学 3 年生に編入。適応教室支援を受けたが学習が止ま っていた。休校中も支援が受けられず、日本人とのやり取りもない状態で、ほとんど話せなかった。 学校再開後に A 君との初顔合わせ。一歩教室に参加し、高校に合格をした。
→コロナ禍が子どもの心身に与えた影響は人間観家の分断や発達の危機を感じた。

・学校はフル回転(コロナ禍では特に)で、休校中の課題・積み残しの教科書も多く、その中で漢字や 表現が理解できない子どもたちも多くいる。そのため「形式卒業者」がたくさん出てきている。その子 たちが進路をどうするか、保護者も理解できない。中学 3 年時の保護者面談時には、内申点もオール 1 で行けるところがなく、必然的に全日制ではなく夜間定時制の高校に行かざるを得ない状態。その中で 高校の授業は難しい日本語を使っての授業があるので、ついていけない教科があるなど、こぼれる子が 出てきている。

・参考データ 1 日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の学校種別在籍状況(文科省「外国人児童生徒教育の現状と課 題」より抜粋)
愛知県:2176 名
岐阜県:207 名
三重県:353 名
愛知県は他県に比べ、情けない進学率。進学してもこぼれてしまう児童が多い。今後学校教育自体 を変えていく必要があると、文科省も躍起になっている。

・参考データ 2 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒の推移(文科省「日本語指導が必要な児童生徒の受け 入れ状況に関する調査」より抜粋)
・平成18年 26281名→平成28年 43947名
・10 年間で 1.7 倍に増加し、今後も増えていくと推測される。

・参考データ 3 高校生等の中退状況に関する調査(文科省平成 30 年度日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況 に関する調査」より抜粋)
・日本語指導が必要な生徒のうち 52%が定時制に来るが、定時制でもこぼれてしまう子どもが多く、日本人の約 7 倍の子どもが中退をしている。

・参考データ 4
高校生道の進路状況に関する調査文科省平成 30 年度日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況に 関する調査」より抜粋) ・高校に入ったはいいが進学できるのは日本人の半分、就職できたはいいが非正規労働者になるのが日本人の 10 倍の人数。進学も就職もできない子どもたちが、日本人に比べ約 3 倍とういう状態。

・また、大人の状態も厳しい。取り残されたおとなたち→学びが生活力直結する。 突然のリストラ→コロナかで仕事がなくなる 給料が上がらない→読み書きが出来なければ仕事が選べない 孤立→家庭内でも人間関係に悩む高齢者・地域での子育ての情報網からこぼれる外国人家族

・行政の動きと各術会議の提言 1「義務教育の段階における普通教育に相当する教育機会の確保に関する法律」(略称 教育機会確 保法 2016 年)中学校の形式卒業生や学齢から外れてしまい中学に通えない人たちの基礎学力を保 証し、普通教育としての義務教育の受ける事を保証する法律。公立夜間中学設立の後押しをすること に寄与 2日本学術会議提言「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障―公立高校の「入口」から「出 口」まで」後期中等教育における外国製とに関する施策は、義務教育段階に比べ大幅に遅れている。 とりわけ、高校進学率や中退率をめぐる全国平均と日本語教育が必要な外国人生徒の間の著しい格差 は、早急に解消に向けた施策がなされるべきである。

・上記 2 点に即して、現在夜間中学の設立が議論されている。 ・ところが、愛知県は先ほどのデータで示した通り日本語支援の必要な子どもたちが多いにも関わら ず、文科省が認める公立の夜間中学が設置されていない。

・教室の理念「ウエルフェア・リングィスティンクス」(社会の福利に資する言語・コミュニケーション)に基づく言葉の支援。 ・言葉は人権であり、生きる力そのもの→学ぶことは生きる事→弱者のエンパワメント(本来持っているものを引き出す、顕在化へのお手伝い)
➡ 我々自身が当事者、それぞれの立場で出来るこ とを実践し「学びの質の底上げ」を図る。また、地域とのつながり(例:多機関との連携・協働) 「生活の質の底上げ」を図る。

・「はじめの一歩教室」の案内
毎週土曜日 10 時~20 時
平安通りから徒歩 8 分 名古屋市北区上飯田南長 2-6-2「憩いの家」

・また、こんな支援があると助かります。
かごつき自転車/ムスリムの人たちの食材(米・豆など) /教材や感染予防グッズが買える資金/工業など専門科目の指導が出来る支援者/数学・理科の指導者

2. ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など

■濵野氏(日本福祉協議機構)
〇笹山氏と同じグループで、男性が来てくれると嬉しいとあったが、女性は支援者が来てくれている。男性のかかわる方が少なかったので男性が来てほしいと応募をしたとの事。日本福祉の関連組織で財 団法人があるので、教員含め外国人スタッフを含め、近々に訪問をさせて頂く。 また、自転車については日本福祉協議機構から寄付をさせて頂く。

■浦野氏(レスキュースックヤード)
〇今後出来る具体的な支援として、食料に関しては、コープ愛知としてセカンドハーベスト等を仲介できるのでは?また、県内で夜間中学設置に向けた具体的な動きはあるのか?

→笹山氏
・県内で夜間中学設置に向けた具体的な動きとしはニーズ調査もされていない。2019 年 6 月に愛知淑徳 大学の小島祥美先生が夜間中学のシンポジウム開催。その時に県会議員、自治体の担当に向け情報発 信をした。シンポジウムの情報を受け、名古屋市議会や愛知県議会で「なぜ夜間中学が少ないのか」 という質問があった。2019 年の名古屋市議会では、教育委員会に向けて夜間中学の質問があった。教 育委員会の回答は、「ニーズが無い」と一刀両断された。それがきっかけで、ドキュメンタリー映画の 上映会を企画した。また、西区の県会議員が議会で質問をしたが、県は「資金が無い」との回答をし た。

■安藤氏(香川県)
〇外国の子どもたちの学習支援をしている。若者たちの支援をどのようにしたらいいかと検討をしている。愛知県の教育委員会では、必要が無いと判断している。 調査をしても、3年間来てくれる生徒がどれだけいるかを判断することが難しい。教育委員会からす ると学校を運営するための人数が集まらないと判断しているのでは?香川県も同じ状態で、公的なところにお願いをしても難しいので、民間と関係団体で共同でやるしか ないのではと考えている。支援者、教員とつながらない。どういう形で支援の輪が広がっていったのか、教えてほしい。

→笹山氏
・高校の教職員組合に所属をしていたので、そこの人間関係から輪が広がった。

■土井氏(多文化共生リソースセンター東海)
〇子どもたちの学習の支援のモチベーションをどのように保ったのか?子どもたち同士はどのようにコミュニケーションをとっているのか?「市民目線の学校」とはどういった事がポイントとなってくるか?

→笹山氏
・モチベーション:友達が頑張っていると自分も頑張る。集中力が持つ 30 分の中で一番やらなければ いけない学校の勉強、言葉のカードゲームを使っていた。また、親も一緒に来るので、親が頑張って いる姿をみて子どもたちも頑張っている。
・市民目線:人数が少ないからできない、運営にお金がかかりすぎるからダメだといった考えではなく、 教育にはお金がかかるものだ、未来に投資することは悪くないとのいった視点。教育にもっとお金を かけてほしい。

■鈴木氏(デンソー)
〇日本の義務教育自体が外国籍の子どもたち優しくないので夜間中学に必要性を感じた。東日本の被災者の外国籍方々が一般の方に比べ、復興が遅れている。震災でもつまずいて、学習でも つまずいてしまうと、生活の気力が落ちてしまう。そういった中で、笹山さんは学習意欲、生活意欲 が落ちている方に対してのどんな風にしているのか、アドバイスをいただきたい。

→笹山氏
・とにかく徹底的に寄り添うこと。先日、親の都合で 6 回もフィリピンと日本を行き来しているご家庭のお子さんにあった。3 カ月したら、フィリピンに戻り、また 3 カ月したら日本に来たりを繰り返し ていた。そういった中で、子どものアイデンティティが育たない状態で、フィリンピンの言葉も英語 も日本語もうまく話せない状態。その人たちに必要なのは支援者と場所。夜間中学は、その人たちの 心の拠り所として、特別な場所として必要だと考えている。公立にこだわるのは、国が支援している 場所で学んだということが、その人たちにとっての誇りになる。彼らのプライドを育てるためには、 やはり公立の夜間中学が必要だと考えるので、ご支援をお願いしたい。

■栗田氏(コーディネーター)
〇夜間学校に通うことに抵抗がある子に対して、どのようなアドバイスをすればいいのか?
→笹山氏
・15~16 歳だと友達の力が大きい。ちょっとした世間話やゲームをしたりして、友達になる。そういったきっかけを作っていくといいかも。もし、同世代とかかわることが苦手なのであれば、小さい子と 遊んで、それをきっかけに輪の中に入れるようにしていくといいかもしれない。よかったら、夕方遊 びに来ていただいきたい。

■情報共有
青木氏:NPO 法人ボランタリーネイバーズ
東海労金 愛💛未来応援寄付金のご案内です。こどもの健全育成、就労支援のテーマに関わる取り組みが対象となります。寄付金額1件あたり上限 15 万円、2 テーマで計 4 件/総額 60 万円。ぜひ、ご応募 をご検討ください。

■まとめ
〇笹山氏
・皆さんとつながることが出来て本当にうれしかったです。またどこかお会いできることを楽しみにし ています。

3. 次回の予定

■日時:2021年8月2日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:働くを変える、地域を変える―労働者協同組合法法制化の意義と可能性
■ゲスト:朝倉美江氏(金城学院大学人間科学部コミュニティ福祉学科)

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