第49回:特例貸付による支援の限界など

会議レポート

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●日時:2021年7月13日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:31 団体(運営 14 団体含む)
●参加人数:39 名(運営スタッフ 21 団体含む)

1. 情報提供

〇鈴木氏(豊田青年会議所)
7 月 15 日(木)18:00~19:00、おたがいさま会議 in とよたを開催予定。ホームページから申込み可能。豊田市は山が多いため、今回のテーマは「中山間地域」として課題を共 有する。興味のある方はぜひご参加ください。
※おたがいさま会議 in とよたホームページ:https://www.otagaisama-toyota.com

2. 話題提供『特例貸付による支援に限界と地域福祉の新たな取り組みに向けて 特例貸付社協職員アンケートからみえること』

●角崎洋平氏/日本福祉大学 社会福祉学部 准教授

・生活困窮者向けの貸付事業について調査研究してきた。関西の社協と一緒に、社協職員に対するアンケートを実施しており、そこから見えた課題を皆さんと共有して一緒に考えていきたい。

〇生活福祉資金のこれまで

・生活福祉資金貸付は公的福祉貸付に位置付けられている。対象は低所得者、障害者または高齢者であり、単なる資金貸付ではなく相談支援も行うことが生活困窮者支援目的の貸付の大きな特徴。そもそも 特例貸付は、伊勢湾台風の時から始まり、東日本大震災や熊本地震などでも実施されており、コロナ禍 以前にも生活福祉資金貸付の本則とは別の形で展開されてきていた歴史がある。

・生活福祉資金貸付は今回のコロナ禍で注目されたが、これまであまり評価されてこなかった制度。そも そも貸付制度として機能しているかという点でみてみると、返還の割合が予定と比べて非常に低い。2 年以上返済がない債権も非常に多く、貸付として上手く機能していない。そもそもニーズがあるのかと いう厳しい指摘もある。生活福祉資金貸付の前身である世帯更生資金貸付時代からの貸付件数推移を みると、リーマンショック(6 万件)や東日本大震災(12 万件)、熊本地震(4 万件)で利用が急増し ているが、それ以外での利用は低迷しており、近年では年間 2 万件弱程度。普段はあまり利用されな い制度である一方で、大規模災害時や大不況時にはニーズがあり利用されてきた制度である。

・今回のコロナ禍で特例貸付利用件数が伸びている背景として、生活福祉資金貸付が大災害や大不況時 に臨時で使われる制度としてあったということもあるが、その一方で、給付制度の不備もある。以前か ら生活保護制度と社会保険制度の間の低所得者支援制度の不備が問題となっている。それに対し、生活 困窮者自立支援制度がスタートしているが、資金交付に関する制度は住宅確保給付金に限定されてい るという問題があり、他に低所得者向けの現金交付の制度は生活福祉資金貸付のみである。給付制度が 足りないが故に、急な低所得者の増加に対して、生活福祉資金貸付が利用されるような構造がもともと あった。他国(アメリカ、イギリス、フランス、カナダ等)では、給付付き税額控除制度があるが、日 本ではそういった制度が存在しない。

〇特例貸付の現状

・新型コロナ特例貸付の特徴は 3 点ある。
1 つ目は、住民税非課税世帯への償還免除が最初から予告されており、貸付の給付化を事実上承認している。
2 つ目は、貸付時のニーズ把握を大幅簡素化(特に緊急 小口)しており、簡単な書面チェックのみで貸付された。これは、十分にチェックしないことによって 他の制度につなげる可能性がある方を見逃していないかという疑問は残るが、必要な世帯に迅速に資 金交付できたことは評価できる。
3 つ目は、今後の生活福祉資金貸付の在り方を考えるうえで大切なポ イントでもあるが、郵便局や労働金庫など社協以外への業務委託の拡大も行ったことである。

・緊急小口資金の件数は、1 回目の緊急事態宣言が発出された頃に大幅に急増した。総合支援資金もコン スタントに利用件数が多く、2021 年 2 月に新たに「再貸付」制度が発足した時には急激に件数が伸び ている。貸付金額は総額 1 兆円を超えており、件数もこれまでの年間件数の 20 倍を超えており、それ ほど急激に社協の窓口に特例貸付の相談が押し寄せたことがわかる。

・貸付の経緯としては、2020 年 3 月に特例貸付受付が開始し、7 月に特例延長、2 月に改めて再貸付が 開始し、2021 年 3 月に償還免除の要件が決定、5 月には特例貸付を借り切った世帯を対象とした「生 活困窮者自立支援金」給付制度がスタートした。現状 8 月末までの利用となっているが、期限がどん どん後ろ倒しになっているため、社協現場からすると、いつ終わるのかと思っている状態と思われる。

・特例貸付の効果としては、間口が広いためアクセスしやすく、償還免除も予定されていたため、生活保 護や生活困窮者自立支援制度より心理的ハードルが低く利用でき、緊急な世帯に迅速に資金提供でき たことはよかった。一方で、他施策への斡旋や連携が十分であったかは今後の要検討課題である。ま た、愛知県社協と関西圏社協の対応は少し異なるなど、地方によって対応の違いが多少あり、引っ越し した時などにその違いに困惑する人もいる。そして、社協職員の疲弊は大きな問題となっており、今後 この制度を運用していくにあたっての要検討課題である。生活困窮者支援の具体的な制度を考えるの も大切だが、オペレーションも考えていく必要がある。

〇社協職員 1000 人アンケートからみえるもの

・関西圏を中心とした社協職員の自主的ネットワークである関西社協コミュニティワーカー協会のメンバーが中心となり「社協現場の声をつむぐ 1000 人プロジェクト」が立ち上げられた。社協職員 8 人と 私を含む 2 人の研究者で会議を重ね、昨年 12 月からアンケート調査企画を実施し、最近やっと報告書 が完成したところである。アンケートは 2021 年 1 月 15 日から 2 月 20 日まで、グルーグルフォーム を利用して実施し、SNS やメンバーの口コミで周知を行った。1184 人から回答いただき、主体は関西 社協コミュニティワーカーであったが、全国から回答をいただいている。所属社協としては、多くは市社協であるが、都道府県社協や政令指定都市社協、町村社協からも回答をいただいている。

・生活福祉資金貸付の従事状況:コロナ以前からの貸付担当が半分、それ以外が半分。多くが兼任で貸付 業務を行っており、特に地域福祉部門との兼任で携わっている方が多い。地域福祉を専門とし、相談支 援もするという生活福祉資金貸付の特徴がでていると理解している。

・働き方の変化:「残業が増えた」という回答は全体でみると 54%であるが、社協区分別にみると都道府 県社協が圧倒的に多く 80%、大都市の区社協も 73%となっている。社協区分別に結果をみると違いが 大きく、都道府県社協や大都市社協で仕事が大変だったことがわかった。

・職場環境の変化:「部署間の業務量の差を感じた」60%、「組織内の貸付制度への理解が深まった」56% であった。また、全体としては、「メンタル含め体調不良になった職員がいる」21%、「離職した職員がいる」6%であったが、社協区分別にみると、都道府県社協や政令指定都市社協、市社協のうちの人口の多い社協で離職職員や体調不良職員の割合が高くなっているという深刻な状況がみられた。

・特例貸付業務で感じたこと:「ストレスを感じている」86%、「感染リスクの不安」78%、「業務量の過 度な増加」72%、「相談支援が丁寧にできないジレンマ」76%であった。また、メディアでも取り上げ られたが、貸付担当者の 91%が「制度の有効性への疑問があった」と応えている。社協区分別にみる と、区社協の職員からは「相談支援が丁寧にできないジレンマ」や「相談者からの罵声や暴言を受けた」という回答が多かった。

・「離職を考えた」「心身の不調」が「非常にあった」と回答している人の多くは、「業務量の増加が非常にあった」と応えている人であることから、業務量の増加の影響は非常に大きかったと考えられる。

・貸付が適切と思われないケース:「生活再建の見込みが立たない世帯」「生活保護が妥当と思われるが、 車や持ち家など資産要件で受給に至らない世帯」など、「貸付ではないのでは」と思いながら貸付担当していた職員も多かった。

・連携機関:自立支援相談機関は 85%であったが、要件化しているため連携は当然多くある。フードバンクが 60%と、思っていた以上に多かった。一方で、就業支援関係は 20~30%と少し少ない印象。

・相談者の生活課題に対応するための社協の取り組み:「フードドライブ等を展開した」という回答が 56% と多く、「行政との共有」が 49%あった。「特になにもない」という回答も 18%あったが、生活課題に 対応するために一部既存の事業を活かしながら新しい支援を展開したという回答もあり、今後の希望としてみえてくるものがある。

〇アンケート報告を受けての考察・提言、今後の地域福祉に向けて

・アンケートから 2 つのことがわかった。一つ目が「社協職員の過重労働の実態」である。部署間や社協間でばらつきがあるものの、過重労働が発生しており、都道府県社協や大都市社協でその傾向が強い。 職員の心身の不調や離職者の増加といった負の影響が生じている。二つ目が「貸付による支援の限界」 である。多くの職員が丁寧に相談できないジレンマや制度の有効性への疑問を感じている。こうしたな かで食料支援を実施したところは多いものの、一方で就労支援は低調という現状。

・特例貸付をしながら様々な実践も展開されている。細かい内容については報告書にも記載している。
→もぐもぐお届け便(茨木健東海村社協):児童扶養手当受給世帯に配食し、食品は農家の規格外野菜や 賞味期限の迫った食品を企業から集め、配達はボランティア。かごに詰める作業は、引きこもりがちな方の協力で行っている。
→選べるカタログギフト(滋賀県大津市社協):地元企業協力によって、特例貸付利用の子育て世帯に無料で選べる商品のカタログギフトを配布。
→他にも、就労支援と食料支援の結合(大阪府寝屋川市社協)、外国人のための情報交換のつどい(大阪府泉佐野市社協)、制服ゆずりあいマッチング制度導入(大阪府阪南市社協)などの報告がある。お金を貸すだけでなく、そこから困窮者の課題や問題を把握し、地域にある資源を活かしながら新たな生活 困窮者支援の仕組みや動きを作りだされていることも確認できている。このようにどのような実践があるかを集積していくことにより、特例貸付の課題や今後のあるべき姿がみえてくると思う。

・生活困窮者自立支援金がスタートしているが、貸付利用しないともらえず、所得要件や資産要件もとても厳しい。また、支給期間は 3 ヶ月となっているが、本当にその期間で経済が回復するかは難しい問題である。

・プロジェクトチームからの提言として、「相談支援付き貸付制度」としての生活福祉資金貸付の体制強 化をあげており、相談や支援の入り口としての貸付窓口、それによっての早期支援の体制の強化、相談業務に従事する者の安定雇用と財政措置、長期にわたる債権管理を見据えた体制構築が必要であると まとめている。提言についても報告書に記載しているため、ご確認いただければと思う。

・アンケート結果はネットから見ていただける。長期的に大切な結果であるため、図書館や各社協におい ていただくことで、この経験を活かしていきたいこともあり、冊子版も作成している。1 冊 1000 円で 販売しているため、申込専用サイトを確認いただきたい。 ※アンケート報告書および冊子注文について:https://blog.canpan.info/kancomi/archive/176

3. ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など

〇野川(名古屋市社協)
仕事・暮らし自立サポートセンター(くらさぽ)大曽根では、2500 人に電話をかけて貸付サポートをしてくれている。生活困窮者自立支援金の事務も社協で請け負っているが、その 申請もくらさぽがサポートしてくれており、連携について意見交換した。社協としては、大切な市民の ピンチであるため、ジレンマを抱えつつもやりがいをもって相談対応している側面もある。

〇齋藤(名古屋市市民活動推進センター)
市民側からすると、コロナ禍におけるワンストップ相談の場 という感覚で貸付窓口に来ている方も多かったのでは。貸付担当者側が貸付制度対応のみで窓口にい た場合、そこで生活相談をされても拾い上げられたものは少なく、対応できなかったことで心労にもつ ながっているのではと想像する。ワンストップの相談受付場所があり、つなぎ先の一つとして貸付もあ るということができれば、やりがいを持ちやすかったのではという意見があった。

〇小塚氏(こどもつなぐ未来)
フードバンクの取り組みについて、実情をもう少し知りたい。
→角崎氏:貸付利用をされた方でひとり親家庭のところへ食料を届ける事業や、生活困窮世帯へ食料を 届ける事業もある。社協窓口に相談してから貸付実行まで早くて 2 週間から 1 ヶ月かかるため、それまでのつなぎとして食料を渡すケースでの利用が一番多かったと聞いている。

〇浦野(レスキューストックヤード)
規格外の野菜を提供するという事例が印象的で、豊田でも展開で きるかもしれないという感想があった。今回報告されたマッチング事例のコーディネートは誰がしていたか教えてほしい。
→角崎氏:今回の調査は、社協の職員にどんな取り組みをしているか尋ねているため、全て社協職員が中心となってやっていることである。マッチング事例は報告書にも掲載している。それぞれの社協に聞いていただけるとよいとも思う。

〇小池:今回の貸付制度が現場を圧迫している状況がある中、調査に関わったメンバーからはどのような解決策の提案や展望があるのか知りたい。
→角崎氏:報告書の最後にプロジェクトチームからの提言が書いてある。短期的には今回の生活困窮者支援金が 3 ヶ月で済むとは思えないため、延長を考える必要があること。中期的には生活保護制度の 資産要件を緩和するかたちでの弾力的な運用が必要。長期的には、給付付き税額控除といったかたち で、低所得者であれば給付がもらえるという所得保障をするような制度が必要であると考える。急激な 所得変動に対応できるような社会福祉や保障制度が必要と考えている。

〇浜田(レスキューストックヤード)
社協によって対応が違うことの具体例を知りたい。また、貸付対応に労働金庫や郵便局が関わったことについて、貸付はできても相談対応ができないのでは。
→角崎氏:地域ごとの違いで相談者が一番困惑したのは、相談時間の違い。書類だけで通してしまう社協 があれば、面談を 1 時間くらいする社協もある。面談する場合は資料を求められるケースもあるため、 入り口対応ですんなりいくか、時間がかかるかの差があった。貸付のスピードも違ったと思われる。丁 寧に話を聞いてスクリーニングした方が生活改善につながったのか、それともとりあえず貸すとした方が改善につながったのかは、今後の要調査案件であると思っている。 労働金庫と郵便局は、貸付申込みの窓口になったというだけであり、具体的な支援はしていなかったと 聞いている。間口を広げて国民向けにアクセスしやすくしたというアピールは大きかったが、それほどには機能せず、件数も集まらなかったようで、それほどの効果はなかった。

〇鈴木氏(デンソー株式会社)
民間企業と社協の連携事例を教えてほしい。地元社協との連携を今後強 めていきたいため、今後もアドバイスをいただけるとありがたい。
→角崎氏:本日紹介した大津市社協の事例以外は把握していないが、普段から地域と民間企業と社協のつながりがあることが大切であり、それが企業にとっても強みになるといい。社協が地域資源に目配りできているかどうかが、地域の災害時の力強さに影響してくると思う。

4. 次回の予定

■日時:2021年7月20日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:Viva おかざき!!の食糧支援活動報告
■ゲスト:長尾晴香氏/Viva おかざき!!代表

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