第36回:中学生、高校生の今 ~置き去りにされる困窮 学習支援の現場から その後~

会議レポート

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●日時:2021年3月16日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB会議(ZOOM)
●参加団体:23団体(運営9団体含む)
●参加人数:32名(運営スタッフ14団体含む)

1. 情報提供

NPO おたがいさま会議コーディネーター・小池
日経新聞でコロナに関する孤立支援NPOへの財政支援の記事があり、今後注目していただけるといい。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE160J80W1A310C2000000/

名古屋市社会福祉協議会・野川氏
特例貸付について、緊急小口資金と総合支援資金の期限が3月末までとなっていたが、6月末までの3ヶ月の延長が決まった。社会状況からみても延長になってよかったと感じる。

2. 中学生、高校生の今 ~置き去りにされる困窮 学習支援の現場から その後~

○NPO法人こどもNPO副理事長 山田恭平氏

こどもNPOで生活困窮家庭の支援をする部署を担当しており、生活保護世帯やひとり親家庭の中高生との居場所づくりや学習支援、相談対応などを実施している。今回は、10月のおたがいさま会議「子ども月間」時に話題提供したその後の報告をさせていただく。

こどもNPOは、子どもの権利条約を重要視しており、子どもたちを保護する対象としてだけではなく、子ども自身も社会に意見していける一市民として共に活動している。おたがいさま会議を通して、中日新聞の大森氏にもお世話になったが、県内で学校とNPOが初めて連携した高校内で居場所づくりの取り組みがスタートし、次年度から名古屋市の予算化も現実的になってきたことなど、新聞やテレビなどのメディアに取り上げていただいている。コロナ禍の中で活動について深く考えるよい機会になったと思っている。(中日・東京新聞「自助・共助・公助」https://www.tokyo-np.co.jp/article/80517 中日新聞「高校内 居場所カフェ各地に」https://www.chunichi.co.jp/article/194948

こどもNPOで行っている生活困窮家庭の学習支援・居場所づくりは、コロナ禍以前は地域の祭りへの参加や、子どもたちとご飯を作って食べるなどしていた。今年度は子ども達となかなか会えない状況に加え、イベント等もなく、子ども達の育ちにとってよい時期ではなかった。我々は子ども自身の意見形成を手伝っていくと共に、View(表現・表出)を全て受けとめることが重要である。コロナ禍で我慢しなければならない状況に追い込まれた子どもたちから、言葉によって意見してくることはなかなかない。表情や身体の動きなど、全ての表現・表出を受けとめていくことが子ども達にとって非常に大切であることが「子どもの権利条約」にも書かれている。「ユネスコ学習権宣言(1985年)」にも、単なる読み書きだけでなく、自分の世界を自分で読み取り、自分や社会の歴史を自分で綴り、教育の手立てを得ていき、自分だけでなく集団的力量も発揮させていくことが学習支援であると言われている。学習支援では、こういったことを肝に置いて活動している。

〇学習支援事業チーム:感染拡大を防ぐための対処策

名古屋市だけでなく、知立市などでも学習支援・居場所づくり活動をしている。中高生あわせて約150人と関わっているが、3割が生活保護世帯、9割が母子家庭、1割が外国ルーツの子ども達である。公営住宅の近くや中で活動することが多く、支援者にとっては遠かったり交通の便が悪かったりするが、困窮世帯の子ども達にとっては、会場が近いほど参加しやすく非常にメリットである。コロナ感染症対策としては、3密対策だけなく「広域・多世代・意識」の視点を持って行っている。行政と仕事をする際は、緊急事態宣言の発出有無を重要視されることが多かったが、安全の判断を誰かに任せるのではなく、自分達で主体的に考えて実施可否を判断してきた。具体的な対処策として「グループ制」「接触回避・横断不可」「オンライン」を実施。様々な職員が関わると他地域に感染を広げる可能性があるため、スタッフ間でも接触を防ぐよう、11会場での支援を3~4会場ずつ完全にグループ分けをして活動した。生活困窮家庭は元々体調を崩しやすい家庭が多い。狭い住環境に多人数が暮らしているため隔離も難しく、誰かが崩すと家族全体に蔓延する。そもそも風邪を治したり、風邪にかからない対策を意識的に行えない家庭も多い。食事環境もよくないため免疫力が低く、コロナ禍以前から体調が優れない子ども達がコロナに罹患した場合、悪化する懸念もある。困窮世帯には癌や糖尿病など基礎疾患を抱える家庭が一般より多く、そういった方に感染を広げることがどんな不幸を生むか。もしコロナで親が亡くなってしまえば、子どもは独りぼっちになって施設へ行くことになったり、「なぜ親にコロナをうつしてしまったのか」と人生をかけて後悔することになる可能性もある。そんな状況を生まないように慎重に活動をしてきた。

〇コロナ禍での子どもたちの状況と学習支援・居場所づくり活動

ちょうど1年前の頃は、突然の休校と緊急事態宣言によって学費の納入や入学試験のフォローが一切できなくなった。休校をラッキーに感じた子もいたが、一方でご飯が1食しか食べられない子や無気力になる子もいた。4~5月には自宅に親がいる状況で、家庭不和の子どもにとっては非常に辛い状況が続いた。支援者側としては、委託費の返還を求められることもあった。学習支援は3月から中止していたが、学習サポーターをしている大学生の中には、自身も困窮状態であるが子ども支援に関わりたいという学生も多い。そのような学生にとって、活動がないことは給料がなくなることと直結するため、代替的に活動を作って少しでも給料を支払っていた。オンライン配信も実施したが、全員ができるわけではないため、連絡できない子もいた。6月に学習支援を再開すると、「家では息がつまって早く再開して欲しかった」など、オンラインや電話連絡ではでてこなかった、子どもだけの場所だからこそ聞かれる声もあった。一方、3ヶ月の中止によって学習支援の場に来る習慣がなくなり、そのまま戻りづらい子どももいた。10~11月には、大学での感染が多発したこともあり、サポーターの大学生に休んでいただくことも多かった。1月に再び緊急事態宣言発出された時の対応には地域差があり、会場によってはそのまま使えるところや、一方で閉鎖されて使用不可となるところもあった。20時までの時間制限となる場合も多かったが、活動を20時までに縮小することは非常に手間取った。

〇子どもたちと振り返ってみて

子ども達と振り返ってみると、「慣れた」としか言うことができない。子ども達に慣れさせてしまっており、もやもやを誰にも言えず我慢させている状況。活動の中でもう少しよくできないかと常に感じる。

10月に紹介した中学3年の女子生徒から送られてきた動画を再度見ていただきたい。動画に映っている自宅の様子は、物が散乱し、汚れたままの物が放置され、兄弟の声もうるさい。動画を送ってくれた子は、自宅にいたくなく、体臭もすごくするような子であった。その子がこのコロナ禍でどういう状況になったか。学習支援の場に中学1年の時から来るようになって、こちらも一生懸命関わってきた。お菓子やご飯を一緒に作って食べると、お腹がいっぱいに食べて無邪気に笑って、子どもらしい時間を過ごせるようになってきていた。生活困窮家庭では子ども期を子どもらしく過ごすのは難しい。親に甘えられず、弟妹の面倒をみたり、家事手伝いをしたり、大人以上にできてしまっている子どもいる。発達のデコボコがある中で生きてくるしかなく、中学生くらいになると異性にも関心がでてくる。コロナ禍で毎日家にいなければいけないとなった時、自宅は両親が喧嘩をするなどでいたくなく、彼氏の家に入り浸って帰って来なくなることもあった。過去には児童相談所や中学校と連携してきたが、連携機関もコロナによってアウトリーチが難しく、手放していた時期があった。結果的に11~12月頃に彼氏の家に入り浸った15才の女の子は、妊娠して年末に中絶をしていた。しかもその情報をこちらが把握したのは2月であった。子どもが持っていた携帯電話は、親に解約されてしまっており、直接連絡をとる手段が11月以降なかったことから、私自身も彼女を手放してしまっていたことを非常に悔いている。先週、久しぶりに顔を合わせたが、外から見る限りでは彼女は今までと変わらず会話もするし、この間の状況を聞いても妊娠や中絶の話は一切でてこず、会話の中だけでは彼女自身の傷つきを感じるとることができなかった。若い子の妊娠や中絶がコロナ禍で増えているというニュースがあるが、それは誰かの話ではなく自分の話だと痛感した。同時にその子自身が傷ついていると勝手に思っていたが、実際に彼女と話してみると、傷つくとかそれ自体が大きい出来事だったということを自認することさえしていないかもしれないと感じ、その怖さを感じた。彼女は今も19才の彼氏との付き合いを続けているが、彼氏の家に入り浸るのは児童相談所等がセーブしているため自宅にいる。しかし、その状況でいたくない自宅に居続けるのはどういうことかとも考える。

〇コロナ禍のこれから

現在起こっている問題は、今は見え切っておらず、ここから半年から数年レベルででてくる。この時期に学校行事など経験できなかったことが、今後どのように子どもに影響を及ぼすか危惧している。今回の話は誰かの話ということではなく、自分の身近で起こることである。コロナに感染するかしないかだけでなく、コロナでやれなかったことの裏で起こることへのリスクにも対応していく必要がある。同時に感染症対策も重要。感染が発生してしまうことを前提に事業運営する必要があり、発生時にどのように社会に公表できるかもイメージしている。組織運営も考えつつ、子ども達の現状をどのように捉え、個別にだけでなく、いかに社会化していき、我が事として具体的に考えていけるかが重要である。

3.グループセッションでの意見・感想等(ブレークアウトセッション)

〇中高生の子ども達の受け皿や、向き合えるスキルを持った大人も少なく、難しい状況が続く印象。山田さんのような支援者が本人といい関係を築いていても、親が連絡手段を奪ったりすることでやりきれなかった責任を感じるといったことも初めて知った。現状が多くの人に理解されることが大切。

〇こどもNPOで家庭訪問型の相談支援をしているかどうかを知りたい。
→山田氏:こどもNPOはアウトリーチできる団体ではなく、(株)トライグループや(一社)愛知PFS協会が行っている。アウトリーチ支援ができる支援者がいないため、支援者育成が課題。お酒を飲んでいたり、たばこ持っている中高生と一緒に過ごせる大人がどれくらいいるか。子ども支援への思いを持っている学生は多くいるが、現場が複雑すぎて教えることが難しいな状況。子どもの状況は、コロナ禍によって前よりいっそう悪くなるリスクが上がっており、スタッフも疲労困ぱいしている。その子自身が許容される場所や時間がどれだけあるかが大切で、そういった活動へのバックアップや人材育成の仕組みがあるといい。

〇女子中学生の妊娠事例に驚いた。我々自身が正しい性の知識を得たうえで、子ども達への支援をしていくことが大切。風俗に入ってしまった若者のケア団体もあるため、おたがいさま会議で話題提供いただいてもいいのでは。

〇コロナ禍が子どもの今後の人生にどう影響していくかを今後もおたがいさま会議で深堀していき、どうすればいいか考えていけるといいのでは。

〇10月時点でタブレットが手に入れば、それを活用した支援の可能性の話もあったが、現状はどうか。
→山田氏:タブレットはあれば試せるが、WiFiがないなど家庭環境的に難しい場合もあるため、実際に活用できる子は少ないと思う。パソコン機器等をもらっても、アップロードやOfficeソフト購入など手間やコストが必要になることも。直接的に物をいただくよりは、知識や人脈、悩みを聞いてもらえるおたがいさま会議のような外部とのつながりがありがたい。どちらかというと人の支援が嬉しい。

〇地域のおじさんがゲームセンターで出会った子どもの支援者になっているケースもある。子どものViewを拾ってくれる大人の一人に皆さんにもなっていただきたい。

〇おたがいさま会議に初めて参加した。こどもNPOで学生サポーターとして働いているが、子ども達の状況を深くは知らず、子どもと話す時にそこまで考えることは難しいが認識していくことが必要だと感じた。皆でディスカッションして改善点や問題点を新しく発見していくことへの意義を感じた。

〇グループディスカッションでは、「私の地域には該当者はいない」と言う人もいて、改めて見えない難しい課題であると感じた。

〇小学校の子ども達の見守り活動をしている。最近、性教育の時間があったようで、その話をお母さんにはなかなか言えないけど、活動で会う私のようなおばあちゃんには話しやすいと話してくれている。

〇子どもを見守る活動をもっと制度的に実施することはできないのか。今回の国会で、自殺防止支援のNPOに予算がついており、こどもNPOの活動もその予算が使えるのでは。
→山田氏:お金をいただいて使うには、運営能力も必要となる。そこが上手いNPOは多くはなく、地域や任意団体にお金がつくことで何を生むか、運営者側の道徳観や能力、過重な責任を負わせないかといったことは考える必要があると感じる。

4. その他・お知らせ等

豊田青年会議所・鈴木氏:3月17日(水)19時~、豊田青年会議所にておたがいさま会議と似た形式の会議を開催予定。豊田市内の課題を豊田JCが集めてきてディスカッションする。関心がある方はどなたでも参加可能。http://www.toyotajc.jp/future/#2786

こどもNPO・山田氏:3月17日(水)19時~、こどもNPOのコロナ禍での運営に関して気軽に話をするオンライン会議を開催予定。関心のある方はどなたでも参加可能。

5. 次回の予定

【過去の課題提起者の「その後」 第4弾】
2021年3月23日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:コロナ禍における介護・福祉事業所運営(2度目の緊急事態宣言を受けて)
■ゲスト:竹上勝氏/有限会社トーキン

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