第33回:ガヤ記者が見てきたNPO~その可能性と課題
●日時:2021年2月16日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB会議(ZOOM)
●参加団体:25団体(運営8団体含む)
●参加人数:32名(運営スタッフ13名含む)
1.緊急報告「福島県沖地震について」
●認定NPO法人レスキューストックヤード(RSY)・代表理事、認定NPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)・代表理事、NPOおたがいさま会議コーディネーター・栗田暢之
2月13日深夜に福島県沖を震源とする地震が発生。最大震度は6強、津波は観測されなかった。2月15日現在、内閣府による災害規模の集計によると、宮城・福島県ともに一部損壊80棟と発表されているが、一部損壊は今後も増加傾向にあると予想している。(http://www.bousai.go.jp/updates/r3fukushima_eq_0213/index.html)JVOADは内閣府とタイアップ宣言を締結しており、14日未明に政府の災害対策チームが福島県に派遣された後、JVOADスタッフを派遣。15日から相馬市・国見町・新地町などで情報収集を行っている。ブロック塀や墓石の損傷など比較的軽微な被害の他に、ブルーシートを張っている住宅も見られ、一見被害がないようでも、地震によりずれた瓦屋根から雨漏りすることも少なくなく、「見えない災害」になることを懸念している。発災直後は多かったマスコミも引きつつある。
2019年台風15号の千葉県での事例から、半壊と一部損壊の間に「準半壊」という項目が追加され、10万円の補助が出るようになったが、もともと業者自体は少なく、千葉県では未だに修繕できていない住宅もある。同様の状況を繰り返さないために、まずはブルーシート張りのノウハウをもったNPOが対応にあたる準備をしているが、全体像が明るみになると対応しきれない。基本的には地元工務店に各自が依頼することになるが、自力での再建が難しい要配慮者はNPOが対応するなどの役割分担が必要になる。台風15号では、地元建設業者・消防・自衛隊・NPOの4者が連携し、NPOが講習会でノウハウ提供を行った実績もある。長期戦を見据え行政との連携を図るために、断続的に会議で協議を進めている。
2.「コロナ禍の企業とNPO」月間第3弾情報提供「ガヤ記者が見てきたNPO~その可能性と課題」
●株式会社中日新聞社 編集局編集委員・大森雅弥氏
編集委員とは、部下をもたない、管理職ではない、記者のこと。毎週月曜日の朝刊で言論ページに掲載される「考える広場」を担当している。長年交流のあるレスキューストックヤードの栗田氏からの紹介で、NPOおたがいさま会議を取材したことを機に、こまめに参加している。
タイトルにある「ガヤ」とはバラエティー番組でよく使われる言葉で、司会とゲストがやり取りする中で芸人が声を出すなどして場を盛り上げる役割のこと。記者としては30年以上、いくつものNPOと大変深く関わりをもってきた。三重・愛知県内の福祉や男女共同参画、まちづくり、災害などである。今回は、これまでNPOとどのように関り、希望を見てきたのかお話したい。
〇NPOで学んだこと、知ったこと
若い記者は、社会の中でどんな問題が起こっているのかを知らない。行政が発表する政策で問題のありかを知ることができるが、どうしても頭でっかちになりがちだ。そこに、問題を生きた形で教えてくれたのがNPO、当時の市民活動団体だった。井上陽水の「傘がない」には、都会で自殺する若者の増加を新聞が報じているが、自分にとっての問題は今日の雨つまり、今生きている自分の足元に社会的な問題があるということ。NPOそのものを指している。市民団体のリーダーには魅力的でカリスマ性のある人が多かったが、なぜ市民活動団体の考えや行動が広がっていかないのか。一方で、リーダーの影響力はあまりに大きく、周囲がリーダーの指示や思想に従うだけの個人商店と化している団体も少なくなかった。現に経済原理を無視した活動をする団体もあった。リサイクル問題に取り組む団体は、引き取るメリットがない不用品を業者に無理を言い回収してもらっていた。団体側もその現実を理解していたが、「でも、廃棄物の現状を理解してもらう価値はある」と語ったことに、当時は違和感があった。活動で飯が食えるわけでなく、儲からないのに何が彼らを突き動かすのか。それを支えるのが運動の正しさだとすると、独善的になる恐れをはらんでいると考えていた。その矢先、生活部で消費者問題を担当となり、悪質商法と欠陥商品の被害を中心に取材をすることとなった。
〇市民団体からNPOへ
日本では、消費者に身を守るための権利を与えるのではなく、行政が企業を指導して被害を防ぐシステムで、パターナリズム・父権主義(お父さんが悪いことから守ってあげるから、息子は何もしなくていいと言っているようなもの)に陥っていた。この問題を突破するには、消費者団体はあまりに非力だった。米国には消費者の権利を守るべく、商品テストや潜入取材、発行部数200万部にもなる雑誌を出す消費者団体がある。この団体に留まらず、米国は財政力と情報発信力を持った活動をしている様々な団体があることを知った。1994年、日本でも市民団体の自立を求め、NPO法を制定しようという動きがあり、シーズの松原氏に取材した。NPOという言葉すら使われていない時代だったが、印象としてはあれよあれよという間に1998年NPO法が制定された。
〇NPO法ができて良かったが…
今やなくてはならない法律となったが、ガヤ記者として深堀させていただきたい。NPOは新自由主義を前提とした活動であるのではないか。先ほどの消費者雑誌も裏を返せば、雑誌を買う=自分の身を守る必要があることの表れであり、助ける物がなき荒野が生んだ市民運動であったと言える。ある人は、米国の2大政党には大きな違いはないと話す。市民がある主張のもとに集まり、主張を広めていくしか対抗する手立てがない、だからNPOが盛んなのだと。NPOを支える「共助」も公助なき荒野を前提としたものと言える。
これまで記者として、批判ばかりする団体には、提案をと伝えてきた。しかし、NPOが批判の矛を下げた時、権力の補完に繋がる可能性もわずかにあるのではないか。その象徴に「運動」の喪失がある。NPOおたがいさま会議で、運動歴の長いNPOから「昔は運動だったが、今は支援に変化している」という話を聞き、衝撃を受けた。当事者の状況を改善するために、第3者の立場から当事者に変わり具体的な施策・政策を提案するアドボカシーは重要な活動であるが、当事者性が薄れてしまっているように感じる。1977年に起きた、車いすではバスに乗車できないことに抗議する障がい者団体の抗議行動があった。現代ではこういった過激な行動・運動は、逆に理解を広げないと批判される。でも、私は彼らの側に立ちたい、スタンド・バイしたい。実際にやってほしいわけでなく、皆さんの心のどこかにも「この不条理は許せない、嫌だ」という運動の精神を忘れず、もっててほしい。
〇NPOおたがいさま会議の意義
多様なNPOが集まり、互いの活動を報告し合うケースはこれまでなかった。これまで取材させていただいたように、会議自体が皆さんの活動(問題)を外に広げる道筋をつけ始めている。この会議で話を聞いた、こどもNPOの山田氏に先日、「自助・共助・公助」というテーマで取材をしたところ、別の記事でも取り上げられる反響があった。筆者である映画館シネマスコーレの木全氏は、「困窮度が高い人ほど人に頼りたくないという傾向が強い」という山田氏の言葉にはっとしたと書いている。皆さんが現場で直面している問題や感覚は、多くの人に届く力をもっているということだ。
〇ワンストップへの可能性について
現在、医学では総合医療という分野が注目されており、臓器別の縦割り体制ではなく、あらゆる患者をワンストップで診療するため窓口となる部門で、テレビ番組にもなった。様々な問題を抱えた人が、ここ、NPOおたがいさま会議に相談すれば何とかなると思える場所にならないかと夢を抱いている。ドクターGならぬ「セクターC」に。その際には、ゆるやかな連携が重要になる。プラットフォームは、GAFA(米国のIT分野をけん引する企業「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」の頭文字を集めた呼称)のように、全てを奪っていく恐れもある。そのため、コワーキングスペース(共同オフィスで各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、助け合う場)のようなイメージが理想だ。連絡担当が窓口となり、各専門に回していくような場になってほしい。
〇マスコミに出来ること
報道機関では、記者クラブのように行政にそれぞれ担当を置くのが基本。NPO担当はいないが、記者一人ひとりはライフワークとなるようなテーマを持った問題担当でもある。共通のテーマをもとにその人たちを集めて、勉強会を開いてみてはどうか。実際に名古屋大学が主催となり、南海トラフ巨大地震に関する記者の勉強会を開いている。
消費者問題の部署だった頃、平日は毎日、相談電話を開設し、市民から消費者センターで聞かれるような数々の被害が寄せられた。市民の声が問題の発見に繋がり、生きた情報を新聞で発信することができた。この部署はなくなってしまったが、現在では「Your Scoop(ユースク)みんなの取材班」という方式が取り入れられている。九州の西日本新聞が始めた「あなたの特命取材班」に倣い、読者から暮らしや仕事の中で「おかしい」「どうして」と感じたものを情報として寄せてもらい、それを受けて記者が取材し記事にしている。新聞でも行政を主にした記事だけでなく、市民の声から社会問題を発信する報道に変わりつつある。この動きをぜひ市民の、皆さんの手で加速させてほしい。ユースク(https://www.chunichi.co.jp/feature_pages/yourscoop)に連絡いただければ、記者が取材に伺うことができるため、活用していただきたい。
3.グループセッションでの意見・感想等(ブレークアウトセッション:全4グループ)
・レスキューストックヤード・浦野:コワーキングスペースについて詳しく聞きたい。
→中日新聞・大森氏:いちNPOが会議を牛耳るような雰囲気になってはいけない。あくまでも主役はそれぞれの団体であるというスタンスと、これまでの会議の様子から、連絡役が各団体に一人いる状況が作れるとよい。
・なごや防災ボランティアネットワーク昭和・神野氏:草の根的な小さなエリアで活動している。今回のような規模の大きな話は、自分たちの活動にどのように結び付けたら良いのか掴めなかった。
→日本福祉大学・菊池氏:自助・共助・公助から派生して、第1セクター=行政、第2セクター=企業、第3セクター=NPOと表現される。しかし、近年その境目が分からなくなっており、本来行政がするべきことをNPOが対応していることも少なくない。社会の中で自分たちの活動がどの位置づけにあるのか意識することも大切。活動を継続する中で行政や企業のような観点も必要になってくる。NPOおたがいさま会議のような、様々なセクター・団体との関わり方を学んでいく場が重要になる。
・つなぐ子ども未来・小塚氏:第3セクターの活動は非常に小規模で、各セクターと関係を構築していくには、時間も労力もかかる大変な作業。新聞に掲載されることで、各セクターとの話題のきっかけ、テコになっていると感じている。
→中日新聞・大森氏:なるべく記事にできるよう今後も頑張りたい。一方で、皆さんにはかつての個人商店からの脱却も少しずつ目指してほしい。
・コーディネーター・小池:数年前から、NPOが本来持つ力について学び直している。コミュニティ・オーガナイジングという手法は、NPOがメディアや行政などと結びつきながら、目標を達成していくための考え方や戦略で、学びが多かった。今後もNPOならではの活動の仕方を勉強していきたい。
「社会はこうやって変える!コミュニティ・オーガナイジング入門」(https://www.amazon.co.jp//dp/4589041049)
・豊田青年会議所・鈴木氏:社会に貢献できるような事業を取り組みたいと考えているが、アプローチ方法に悩んでいる。
→中日新聞・大森氏:新人記者だった頃は、市民団体のチラシを見て、問題を知ることが多かった。現場のNPOに学ぶのがよいのではないか。
→豊田青年会議所・鈴木氏:行政を訪ねて情報を集めることが多い。NPOおたがいさま会議では、さらに細かな情報を得ることが出来るため、各地にこの取り組みが広がってほしい。
→中日新聞・大森氏:おたがいさま会議とよたの取り組みもぜひ取材させてほしい。
・防災ボラネット守山・鷲見氏:活動の中で、今後も繋がりたいと思った記者の方がいても、人事異動があり、一歩踏み込むのに躊躇することがある。
→中日新聞・大森氏:ライフワークとなるようなテーマを持ち、勉強したいという記者がほとんどのため、積極的に声をかけてほしい。また、チラシを作成する際には、活動の背景も加えてもらいたい。
・コーディネーター・栗田:個人商店からの脱却と、「運動の心を忘れてはならない」には全く同感。ただ、運動臭が強いと社会からの理解を得にくい状況があり、時代の変化に合わせた手法をNPO側で考えていく必要がある。また、被災地のブルーシート張りのような細かなニーズは行政が把握しきれない。いち早く見つけ対処することが重要であり、出来る人(今回はNPO)が動いている状況。行政がやらないからNPOがやるという対立姿勢ではなく、今後も連携していきたい。そこには、不条理には闘う心を忘れずにいたい。
・中日新聞・大森氏:NPOおたがいさま会議の今後は?
→レスキューストックヤード・浜田:小さい会議体で、まだまだこれから。ゆくゆくは、個々の問題解決とネットワーク拡大を両立させていく必要がある。ただ、相反するもののようにも感じている。
→中日新聞・大森氏:個々を大切にするスタンスを今後も守りながら、政策提言や勉強会などにも取り組めるとさらに広がっていくと思う。様々な可能性を秘めているが、急ぐ必要はない。
→コーディネーター・栗田:前回の会議でも企業側の準備は整っているが、肝心の情報が届いていないという話だった。このようなシーズとNPO側から聞かれるニーズの情報を積み重ね明確にし、さらに多くの方が参画しやすい会議にしていきたい。
・NPO法人ゆめはーと・木全氏:大学時代、企業にインタビューした際、当時は芸術文化を支援する(メセナ)時代で、ボランティア活動で企業と繋がることはなかった。今月の企画を通じて、第1・2セクターとも繋がる場がこの会議で出来つつあり、時代の変化を感じた。自身の現場では、目の前の人を何とかしたいと思う反面、同じ分野の団体同士でも格差がでているように思う。私たちの取り組む問題は、近所の人とも考えていくべきもので、一緒に語られていない現実がある。社会資源は本来、市民のためのものであると今一度共有する機会が必要だと感じた。
・コーディネーター・関口:今回は、健全な批判は非常に重要だと感じた刺激的な話だった。NPOの活動は美化された報道が多く、いち団体の不祥事が業界全体のイメージダウンに繋がることもある。その中間で、悪い面も含めて本音で話し合えるような場にNPOおたがいさま会議がなっていけたらと思う。
□ゲストから一言/中日新聞・大森氏
長年、日本の希望はNPOだと感じている。新聞がもつ影響力を皆さんの活動に少しでも役立ててもらいたい。今後も記者として勉強し続けていきたい。
4.次回の予定
【日時】2021年3月2日(火)16時00分~17時00分
■緊急小口資金特例貸付と総合支援資金特例貸付の(その後の)状況
/名古屋市社協地域福祉推進部・染野氏
■仕事・暮らし自立サポートセンターの(その後の)状況(住居確保給付金の状況も併せて)
/名古屋市仕事・暮らし自立サポートセンター・伊藤氏
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