第24回:見えない壁への挑戦-ランドセルとマスクと子ども達-
●日時:2020年11月24日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB会議(ZOOM)
●参加団体:30団体(運営10団体含む)
●参加人数:40名(運営スタッフ15名含む)
1.「多文化共生月間」第3弾情報提供
見えない壁への挑戦-ランドセルとマスクと子ども達-
合同会社スタートアイズ業務執行役員/NPO法人東海ファシリティー理事長・鈴木勇雄氏
合同会社スタートアイズ代表/NPO法人東海ファシリティー理事・ミウラ・ダ・シルバ・クミコ氏
○団体紹介
合同会社スタートアイズでは、地域住民からの相談業務や、外国人向けに定額給付金の申請手続きのサポート(延べ200人以上)などを行っている。最近では、地域の子どもが立ち寄ったり、繋がりのある方から定額給付金を活用してほしいとPOCKETALK(ポケトーク・音声翻訳機)を寄贈していただいたりした。NPO法人東海ファシリティーは2016年に立ち上げ、地域交流や次世代の育成を行っている。いずれの活動でも、相互理解・多文化共生を主に活動しており、基本方針に「愛‐Amor‐」を掲げている。
NPO法人東海ファシリティーは設立当初、2011年東日本大震災の支援や地域資源を活かした活動に取り組んでいた。2018年には、福島の子ども達を刈谷に招いて、知立団地に住む子どもとサッカーを通じて、交流イベントも開催した。テーマを自給自足とし、サッカーだけでなく、自分たちの知らない文化圏で働き、その日の食事・活動に必要なものを準備し、子どもたちの生きる力を育む。また、宿泊はお寺とし、お勤め・掃除を子どもたちで行うことを対価と位置づけて、宿泊させていただいた。知立団地に住む大人たち(日本人・外国人共に)のバンドは、お寺のお堂でハードロックを披露し、お寺の方にも喜んでいただいた。
○ランドセルプロジェクトについて
ランドセルプロジェクトとは、使わなくなったランドセルを日本で暮らす外国人に寄付する活動。きっかけは、知立団地にある「カフェテリア ファミリー」に来る外国人の方々との出会い。最初は販売されているプリンに魅了され通っていたが、外国人の方々と関係を深める中で日本での暮らしに困りごとを抱えていることが見えてきた。そんな時、活動を知る知人からランドセルを寄付したいという申し出があり、ミウラに相談したところ、来日した姪がランドセルの購入費用がなくて困っているとの話だった。他の外国人も自国に借金をして来日するため、経済的に不安定な方が多いことが分かり、プロジェクトを開始した。
活動をする中で、とある男の子が小学校を卒業するため、自分のランドセルを寄付したいとの申し出があった。さらに自身でも呼びかけ、約20個のランドセルが集まった。全体では、2019年に250個、同年11月には500個を達成、これまで1,200個以上のランドセルを届けてきた。
集まったランドセルには番号を付け、誰から誰に渡ったのか分かるよう管理している。お渡しするのは、ただの物質ではなく愛、ランドセルをもらった子どもが、「私は愛されている」と感じられることが重要。外国人の親たちは、ランドセルを使った経験がないため、取り組みを通じて、日本の文化や考え方も知ることができている。当初は、あげる人ともらう人が直接会い、ランドセルを肩にかけてあげることが大切だとして、知立団地に来られる人を対象としていたが、様々な地域から要望を受け、徐々に対象地域を広げ、現在は全国的に展開している。2019年11月に朝日新聞(全国版)に掲載され、全国からランドセルが集まるようになった。後日、東京に住む保護者からランドセルを送りたいとの申し出があり、話を聞くと亡くなった息子の持ち物で、ランドセル本来の役目を果たしてほしいとの思いだった。
一方、プロジェクト拡大で、物をやり取りするだけの無機質な取り組みにならないか懸念していたが、寄付者からランドセルに手紙が添えられていたことを機に、会えなくても思いが伝わる仕掛けができた。手紙は、ひらがなで書いてもらっており、もらった子どもが小学校の勉強を頑張り、自分で読めるようになってほしいという願いがある。なお、文房具や玩具を送ってくれる方もおられるが、新品・未使用品をお願いしている。ランドセルを希望する家庭には、送料負担をお願いしている。
2020年4月、送料負担が難しいと連絡のあった家庭へ、近場だったため直接届けたところ、マスクをせずに咳をしている子どもの姿や、経済的に困っている状況が見受けられた。当時は、マスクの買い占め・転売屋の暗躍があり品薄状態で、本当に必要な人に届いていない状態が続いていた。「あんじょうまざりん」に相談したところ、手作りマスクを作っていただき、届けるマスクプロジェクトが始まった。4月にランドセルを届けた家庭にも再訪問し、手作りマスクと食料を届けると、涙を流されていた。現在は、商店街とコラボするなどして様々な方にお渡ししている。
○ブラジル人学校に通う女の子との出会い
ブラジル人学校に通う10代の女の子が、学校で日本語を学ぶ機会がなく、日本語を覚えたいと事務所を訪れた。内職作業(チュロスケース作り)を通して、日本語でコミュニケーションを取ることで、楽しみながら学んでいる。
○知立南中学校国際支援団体リアライズ
授業やクラブ活動外で、国際支援をしたいという生徒が集まり活動している団体。外国にルーツを持つ生徒も多い。東海ファシリティーと連携をとり、放課後にランドセル・文房具を集める活動、ミーティングを行っている。先ほど紹介した20個のランドセルを集めた男の子は、リアライズのメンバーの憧れの的だったことから、学校の垣根を越えて交流を行うことができた。
〇ランドセルプロジェクトin Philippines
ボホール島は、フィリピンにあるリゾート地。インフラが整備されていない地域もあり、スタッフの出身地だ。現地の子どもたちは橋のない、川を渡って通学している。教科書はレジ袋に入れているが、移動中に水浸しになってしまうため、ランドセルプロジェクトを海外の子どもたちにも活かせないかと考えた。
9月頃リアライズは、ランドセルの輸送費を確保するため、地元の土地を活用して米作りをする「農事組合法人アグリ知立」に米の提供を打診した。アグリ知立は、コロナ禍で失職した外国人の再雇用も行っていることもあり、非常に協力的だった。提供するための条件として、脱穀・精米・袋詰めはリアライズのメンバーで行い、140㎏もの米を寄付いただいた。慣れないメンバーが作業するよりも、プロに任せた方が効率よく早いが、取り組みを通じて、お互いの活動を知り、さらに広がってほしいという思いもあり提案した。アグリ知立の米はリアライズに寄付され、リアライズの活動を応援してくれる人たちに販売。その売上げでフィリピンにランドセルを送ることができた。
この活動は、ミニクラウドファンディングという仕組みで回っている。国内のランドセルプロジェクトにかかる送料を預かり(実際はスタッフが引き取りに伺う)、リアライズが作ったバウチャー(活動依頼のチケット)を東海ファシリティーが購入する。その購入代金で、リアライズが海外にランドセルを送るという仕組みだ。
〇私たちが目指すもの「相互理解からはじめる多文化共生」
手作りマスクで繋がった、あんじょうまざりん代表・本多さんは「今まで気づかなかった人が気づき、その人たちが繋がることに意味がある。いろんな世代を巻き込む多様性。気づきの連鎖が地域の愛に繋がっている。」とおっしゃっていた。私の場合、カフェテリア ファミリーのプリンが、まさにその「きっかけ」だった。これまでの活動で、外国人の方々の家族、コミュニティー、苦労、涙、笑顔、様々な思いと愛が感じられた。ただ物質のやり取りではない、これまで繋げた1800個は本当の絆の数だと思う。これからも絆の数を深めていきたい。
○困りごと
様々な世代を巻き込む多様性が不足している。もっと若い世代、特に大学生に参加してもらい、アイディアを出し合いながら問題解決していきたい。ご興味のある方は是非とも知立団地に来てほしい。話だけでなく実際に肌で感じてもらうことが一番大切だと感じている。
2.グループセッションでの意見・感想等(ブレークアウトセッション:全8グループ)
〇レスキューストックヤード・浦野:ゲストの鈴木氏から、ランドセルをストックしておく場所がなく困っていると話があった。ブラジルの休みが4・8・12月のため、その時にランドセルをコンスタントにストックして渡せる仕組みがあればよいという意見や、提供者・受取者の写真と管理システムとを連携させた効率的な仕組みが考えられることから、DENSO・鈴木氏も現場に行ってみたいと話があった。
〇名古屋市社協・野川氏:保見団地などで、日本人と外国人のトラブルがあったと聞いたことがあるが、実際に外国人の方々から悩みを聞いたことはあるか。コロナの影響下で外国人の方々の生活状況に触れる場面はあったか。(名古屋市社協・野川氏)
→ゲスト・鈴木氏:4人に1人は仕事をしていない。5~6月アンケートをしたところ「1~3カ月以内に失業をした」という方がほとんど。コロナ禍でかなりの方が困っていることから、フードドライブの利用率が急増したのだと分かった。
→トヨタボランティアセンター・窪田氏:保見団地の外国人を対象とした官民学連携のプロジェクトを発足させた。今後3年かけてビジョンや進め方を検討していくが、個別の課題が少し見えてきている。例えば、ブラジルの方々は入れ替わりが激しく、引っ越し時に処分方法が分からない粗大ごみを放置してしまう。放置された物の商品化や、修理して価値のある物にできないか、そのための人手が必要といった点である。今回は、具体的な課題をお話してくださり、外からの関わり方が見えやすく、大変ありがたかった。→ゲスト・鈴木氏:粗大ごみの問題は大きな問題となっている。物をいらない人といる人のマッチングは日々やっているが、いらない物は処分が必要で苦労している。修理して使うという発想は魅力的。
〇リリオの会・今枝氏:以前、岩倉団地に住んでいたが、外国人の方の高齢化があり、自治会で「お助け会」を作り、片付けを手伝う活動があった。粗大ごみの日は、ブラジル人の方々がごみ置き場から持ち出し売っているようだった。また、外国人の方々と一緒に働くことも多く、建設現場付近に住むご高齢の方から差し入れがあり、熱心に働く姿を見てきている。建設業では、外国人の方々との関係は良好だ。
〇あんじょうまざりん・本多氏:活動を始めたばかりだが、鈴木氏と活動をすることによって、自分たちも気づけなかったことを気づかせてもらったり、一緒にできることを考えたり。彼らの笑顔があるからやりたい、またその笑顔が見たいという気持ちで、マスクの寄付者はリピーターが多い。鈴木氏の活動で、地域との繋がりが見いだせた。今後もその繋がりがどんどん広がってほしい。
〇コーディネーター・土井:鈴木さんか関わっている介護人材育成の話を聞かせていただきたい。
→ゲスト・鈴木氏:コロナの影響で仕事を失った方が増加したため、介護業界で働くのはどうかと提案があった。知立団地のアンケートで、外国人の高齢化が進んでいる問題も書かれていた。話を聞くと、日本の介護施設には入りたくないとの意見が多かった。介護を受ける権利はあるが、外国人の文化を理解し、介護してほしい。仕事がない外国人が多いため、介護の資格を取得し、介護現場で働いている事例もある。今年7~8月まで勉強し、9月から8名の雇用があった。現在、知立団地をはじめ様々な団地で、多くの外国人が暮らしている。資格取得には日本語が必須だが、それ以上に外国人の文化を理解した、外国語を話せる介護士が必要だと思う。そういった人材がいなれば、これからの団地は崩壊していく危険性がある。興味がある方がおられたら、意見交換をさせてほしい。
〇愛知県重度障害者団体協議会・入谷氏:刈谷市に住んでいたことがあり、ブラジル人で障害のある方に出会った。日本語が分からないことで、長い間引きこもり状態。在学中も周囲から話しかけてもらえなかったと話していた。体の動く健常者の方々は勇気を出して、その場に行けるが、当事者はなかなか外に出られない。知立団地にもそういった方はおられるか。
→ゲスト・鈴木氏:寝たきり等の外国人の方には、まだお会いしたことがない。知立団地は、70代近い方もおられるため、5年後にはそういうケースも出てくると思う。数年前にハンセン病の方が来られ、病院の付き添いなどお手伝いしたことがある。理解されてきている病気だが、まだまだ偏見や差別が残っていると感じた。無くなってほしい。
○愛知県重度障害者団体協議会・入谷氏:鈴木さんの活動は「笑顔」がキーワードだと感じたが、私たちも「アジア障がい者プロジェクト」という活動で、アジアに車いすを送っている。私も自分が整備した車いすをタイに直接届けた。渡した方の溢れんばかりの笑顔を見て、送る側の納得だけでなく、相手がどう思うのかが大切と感じた。
□ゲストから一言(鈴木氏)
これまで外国人に活動を知ってもらう機会はあっても、日本人に説明する機会がなかった。知り合いの神父様から「壁を壊すには、まず子どもから」と言われたことがあり、ランドセル・マスクを通じ子どもたちと出会い、壁を壊すことができた。日本人にあまり説明してこなかったのは、自分自身も壁を作っていたからかもしれない。会議でお話できたことを大変嬉しく思う。知立団地にもぜひ来ていただきたい。
3.お知らせ・次回の予定
〇コーディネーター・小池:金城学院大学の授業で、コロナ就活をテーマに、学生版おたがいさま会議を12月上旬開催予定。この会議にも学生さんが増えてほしいと考えている。いろんな人と繋がる場になればと思う。
【次回案内】12月より「貧困を考える」月間がスタートします。
・日時:2020年12月8日(火)16時00分~17時00分
・ゲスト:ボランティア オアシス/山田彩乃氏
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