第23回:今、ブラジル人学校で起きていること~エスコーラ・ネクターの取り組み~

会議レポート

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●日時:2020年11月17日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB会議(ZOOM)
●参加団体:32団体(運営10団体含む)
●参加人数:38名(運営スタッフ15名含む)

1.「多文化共生月間」第2回
今、ブラジル人学校で起きていること~エスコーラ・ネクターの取り組み~

●ゲスト紹介/NPOおたがいさま会議コーディネーター・土井
第2回目となる今回は、豊田市で「エスコーラ・ネクター(以下、「ネクター」)」というブラジル人学校を運営されている山家氏がゲスト。以前は愛知県内にブラジル人学校や朝鮮学校等の外国人学校が20数校あったが、リーマンショック時に運営が厳しくなり、現在の把握では、ブラジル人学校が11校、朝鮮学校が4校、その他にインターナショナルスクール等がいくつかあるという状況である。

●ゲスト:山家ヤスエ氏ブラジル人学校エスコーラ・ネクター 日本語教育コーディネーター/NPO法人希望の光 ファウンダー

〇ブラジル学校の現状について

1990年に改正入管法が施行され、多くの外国人労働者が家族を連れて来日した。私がブラジルから日本に来たのも同じ時期、1993年で当時3才だった。来日した多くのブラジル人は、当初は帰国を前提にしており、帰国後の子どもたち教育のため、地域に母語保持教室が続々とでき、母語であるポルトガル語教室に通う子どもたちが増えていった。母語保持教室で学んだことが帰国後の学校で引き継げるようにと、ブラジル政府に働きかけて学校の認可が下りたのが1990年代後半~2000年代前半頃。基本的にブラジルの教育課程と同じカリキュラムだが、ブラジル人学校として認可を受けるには現地言語を週1回入れる必要があるため、認可を受けている学校には日本語教育がある。殆どの保護者は日本語が話せず、親が子どもとポルトガル語で話せるようにとブラジル人学校に入れる人もいる。日本の小学校の教育費は月6~11万円(その多くは税金から補填)だが、ブラジル人学校は3~6万円の月謝で運営されており、経営的に非常に厳しい状況。

愛知県の調査によると、県内にブラジル人学校は11校、在席人数は1284人。各種学校4校のうち、3校が一つの団体、もう1校は別団体が運営しており、各種学校の認可を得ているのは2団体のみ。2019年度報告書にブラジル人学校を出た子がどこに行くかという興味深い報告があり、163人が卒業、97人が公立校へ転校、89人が帰国している。卒業のうち111人が高校卒業生で、その中の100人が日本で就職。就職先は工場などの単純労働や、派遣で働くことが殆どだと思う。公立校への転校は殆どが経済的な問題。月謝が毎月何万とかかるため、両親の収入が減って経済的に厳しくなった場合、最初に検討されることが学校を変えること。帰国者89人のうち高校生だった24人については、大学進学に向けてステップアップした可能性があるが、その他は小中学生や未就学児であるため進路状況は不明。文科省が毎年実施している日本の学校に通う外国人児童の全体調査によると、コミュニケーションや学習等への支援を必要としている子どもたちは約43%。その中で最も多い25%を占めるのが、ブラジル人の子どもたち。自分と同じブラジル人の子どもたちがおかれている教育環境は、非常に厳しい状態が続いている。

〇ブラジル人学校「エスコーラ・ネクター」について

ネクターは、私が5~6才の時に始まった活動で、私もここに通って学校と共に成長し、今は卒業生として支援に関わっている。当初はアフタースクールとして始まり、日本の学校に通っている子どもたちが、校長の家に集まってブラジルから取り寄せた教材を使ってポルトガル語の勉強をしていた。その後、人数増加に伴い、場所を変えてクラスや先生を増やすなど拡大していき、現在に至る。もともとは帰国に備えた母語保持のためにスタートしているが、現在では殆どが帰国予定はなく、公立校に通ったが合わなかった子どもたちが集まっている。ネクターは10年程前から日本語教育に力を入れており、週5日取り入れている。中高生以外の全学年が参加する読み聞かせも週1回行っており、今年はコロナの影響で開催できない時期もあったが、日本人の読み聞かせの先生が学校に来てくれたり、近くの交流館に子どもたちと一緒に行くなど、大切にしている活動である。

ネクターで最も力を入れて取り組んでいる課題がダブルリミテッドである。例えば、日本の学校で不登校となり中学1~2年生でネクターに転校してきた子の場合、低学年からずっと日本の学校に通っていたものの、転校当時は小学3年生の漢字がわからない状態。そこから日本語をもう一度勉強しなおし、ブラジル教育課程では中学卒業、日本語能力試験でN3レベル(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)まで頑張って勉強しステップアップした。ダブルリミテッドの子どもへの学習支援は非常に難しい。理由としては、ポルトガル語は勉強したことがないため、読み書きができるかできないか程度、日本語の会話はできるが、年齢相応の文章問題が解けなかったり、漢字が習得できていなかったりもする。そして日本の学校で全然駄目だった経験を経て転校してくるため、モチベーションが低く、自己評価もとても低い。そこから長く丁寧に支援していくことで、少しずつ学校に来ることが当たり前で楽しみになり、その先にやっと進学希望やもっと勉強したい気持ちが生まれる。しかし、家庭内や周囲の環境にもかなり左右されるため、学校でベストを尽くしても、来なくなって止めてしまう子もいる。ネクターは学齢超過で来日した子たちの受け皿にもなっている。15才で来日した子の場合、日本の高校には行けないため、ブラジル人学校で日本語の初期指導を受け、現在は地域の工場で仕事をしている。

〇ダブルリミテッドについて

ダブルリミテッドは学術的にもまだまだ議論されている概念であるが、その子の母語の読み書きのレベルがあまり高くなく、日常会話はできるが込み入ったことは難しく、日本語も同じような状態といった、自分を表現する言葉をあまり持たない子どもたちのこと。小学3~4年生から中学生で顕著になってくるが、保護者や先生が気づくのは中学3年生くらいで進学先が見つからない、テストの点数が伸びないことから、もしかしてとつながるケースが多い。来日年齢や家庭内での言語によっても異なるが、私たちはダブルリミテッドの子に対しては、基本的に母語に基づいた学習を勧めている。家庭内の母語を大切にして欲しく、日本の学校に通っていても、ちゃんと母語を沢山使って伸ばしていきましょうと一生懸命伝えている。

〇コロナの影響

コロナの影響が大きくなってきた3~5月は、情報にアクセスすることが大変だった。多少日本語がわかる人が口頭で伝えたり、簡易翻訳が出回ることで、デマにつながることもある。ネクターと同じ学区にある日本の小学校の先生が感染した時には、その数時間後に「ブラジル人学校の校長が感染している」とフェイスブック上でデマが流れ、慌てて対応したりもした。様々な情報がある中、どういう行動をとるべきか参考にするところがなく、休校等に関して市教委に問い合わせても「ご自身の判断で」と言われるばかり。起きている間はずっとコロナの情報を追いかけ、翻訳してスタッフに伝えることをひたすらしていた時期があった。休校の判断をしても、保護者からは「仕事があるから子どもを預かって欲しい」というニーズもあり、同意を得ることがすごく難しかった。月謝が入らないと存続できないことも考慮すると、判断しづらい時期があった。保護者から「休業手当がもらえない」といった相談を受けることもあり、子ども以外のことでの対応も増えた。子どもたちは、親の仕事の都合での引っ越しによる転校や、今後の仕事の見通しが不透明で月謝を払い続ける自信がなくなり公立校へ転校した子もいた。公立校が休校中に転校しているため、その後の日本語支援がどうなったか非常に心配ではあったが、どうしようもできなかった。ネクターではクラウドファンディングにも挑戦して無事達成でき、今は毎日無償で給食を提供している。予算に限りがあるため、いつまで継続できるかという課題はあるが、資金調達できたことにより、これまで寄付いただいていたお米などの食糧を各家庭に配布でき、保護者からとても喜ばれた。

〇今、どんなサポートがあるといい?

・母語で学ぶ子どもの権利を社会全体で理解いただきたい。「日本に住み続けるなら日本語が必要だから、ブラジル人学校でなく日本の学校に行きなよ」と長年主張されてきているが、日本の学校に行っても学べない、合わないという子も当然いるため、そういった子の受け皿はなくしてはいけない。私たちの活動が長年継続しているのもニーズがあるからであり、外国人学校もちゃんと教育の場として認識いただきたい。行政にもそういった目線を向けて欲しい。20~30年活動を続けているが、未だに輪に入れてくれない感覚がとても強い。豊田市内にはブラジル人学校が3校あるが、学校同士で連携することもなければ情報交換もなく、連絡は年に1~2回、不就学児調査の確認電話や訪問がある程度である。

・広報の協力を得られたらいいと思っている。クラウドファンディングでは、自分たちの存在を知らない人が大勢いることがわかった。これまでは地域の風当たりだけを感じてきたが、外国人学校を温かく受け止めてくれる人がたくさんいることに驚いた。私たちの活動や存在を知っていただき、母語教育の大切さや子どもが自分の学べる言語で学ぶ権利を発信したく、広報に協力いただけるととても助かる。

・日本語教育の人手がかなり不足しており、ボランティアもとても助かる。私は日本語教師ではないが、教える人がいないため、自分でも一生懸命勉強しながらやっている状況。ブラジル人学校で日本語教育を進める上で参考となる資料も少なく、日本語を教えている教師同士の情報交換もなく、自分の視点だけでは足りていないと実感している。また、不登校や不就学の子が来られる場にしているため、特例校として認めて欲しいという想いがとても強くあるが、愛知県は各種学校の認可が本当に大変なため、準備を手伝ってくれる人がいると助かる。

・寄付も大変助かる。10~20人の小規模の学校であるが、給食費として年間120万円かかっている。給食の無償提供は続けたい。ブラジルから教材を持ってくるにも一人当たり年間4万円ほどかかっており、学校側でだす予算は全くないため、保護者の負担となっている。自分の給料の半分程度を月謝として支払っている人もいるため、更に教材費もとなると保護者の負担がとても大きい。寄付をいただくことで、外国人労働者が自分の子どもにかかる教育負担を軽減できると思う。

〇いま取り組んでいる事業、来年から取り組む事業

現在、愛知県からの委託で多文化子育てサロンを来年2月まで実施している。母語に基づいた多言語教育について簡単にまとめてブラジル人学校の先生に届ける準備もしている。日本の先生は、日本語を話せる日本人に教育するための勉強をしてきており、外国人児童のニーズやバイリンガルについてはあまり知らないため、そこにも情報を届けたい。オンラインの国語補習授業も現在整えている。来年から準備に取り組もうと考えていることが、全寮制のフリースクール。ネクターの校長主体で動いている事業で、外国人である校長自身が多くの困難を乗り越えてきたからこそ、若い世代が自分の夢や達成したいことを自分で計画してステップアップしていくための教材を作成し、子どもたちに配る準備している。

2.グループセッション

〇株式会社デンソー・鈴木氏:民間企業の社員が身近にボランティアでお手伝いできることはあるか。
→ネクターを応援してくれる地元企業もあり、学校の車両に求人広告をだすことで寄付をくださっていたりしている。会社員の方がお一人でもできることに関しては、また考えておきたい。

〇名古屋市社協・野川氏:グループ内で3つ質問がでた。
①地域の日本人との関わりがあるか。
②コロナの影響で親御さんの仕事状況がどうなっているか。
③日本の学校には親が仕事に行っている間、放課後にはトワイライトがあるが、ブラジル人学校にも同様の仕組みはあるか。

→①ブラジル人学校に通っていると、家でも日常でもブラジル人にしか会わないため、地域の日本人との接点は課題。少しでもよくするための取組みが絵本の読み聞かせであり、日本人ボランティア団体との接点をつくってる。高校生は名古屋での高校生多文化共生ディスカッション会に参加するなど、少しずつ接点を増やしているところ。来年挑戦したいこととして、週1回、交流館で地元老人会と遊ぶ時間を設けたいとも考えている。

②失業した保護者が1名あり、その子どもは日本の学校へ転校した。その他、休業や仕事数が減った保護者はいたが、生活困窮までには至らず、豊田市ではそこまでひどい状態にはなっていない。

③ネクターのカリキュラムは、3時まで又は5時までとなっている。3時までの場合はブラジル教育課程のみ、5時までの場合は日本語教育も行っている。

〇愛知工業大学・久島氏:母語教育を大切にしている理由を伺いたい。
→私の解釈として、日本語を話さない保護者が母語をないがしろにして子どもを育ててしまうと、子どもの幼少期の発達に影響してしまう。語彙数が少ない日本語で子どもを育てようとすると、子どもに様々な因果関係や、自分の気持ちを伝えるのにも限界がある。そうなると子どもが吸収できる言葉も少なくなり、そのまま発達するとリソースが少ない状態になってしまう。例えば、保育園に通っているブラジル人の子が母語を忘れてほぼ日本語しか話せなくなると、お母さんに「ブランコ」と言っても伝わらない。コミュニケーションが成り立たない親子がいていいかという問題。語彙数が限られ、親との関わりも乏しい状態で子どもが育ち、学校に入ってしまうと、文字習得や学校での勉強に非常に困難を感じることになる。「どうしていつまでも日本語が覚えられないのか」という状態なる子が、日本の学校に多くいる。4~9才くらいまでのある一定の年齢、抽象的に物事を考える力がしっかり育つ年齢までは、母語でしっかりコミュニケーションをとり、母語で本を読んだり、ディスカッションするなどの取組みをしていくと、物事を抽象的に考える力が育まれる。それと同時に日本語を学ぶと、より日本語も習得しやすくなり、日本語で物事を考える力も育つ。

〇名古屋NGOセンター・八木氏:各種学校の資格を取得したい理由を教えて欲しい。
→学校が運営を続けるための最低限の資金を得られ、保護者の負担を減らせる。高校生への補助金が得られると、負担が殆どなく学校に通えるため、とても重要だと思っている。ブラジル人の場合、家庭内に工場で働ける人が一人増えると、月々プラス20万円程度の収入になるため、親御さんとしては高校進学をあまり重要視していない。その子どもが学校であまり成績がよくないと、なおさら進学が無駄だと思ってしまう。そのような子たちがどんどん教育の機会をなくしていってしまう。家庭内での経済的な負担が大きく、モチベーションも低い子どもたちにどのように教育にアクセスしてもらうか考えた時、各種学校として認めてもらい、教育場を提供することが一番の近道であり最も重要だと思っている。

〇JICA中部・小川氏:日本語を学ぶ環境があれば学びに来るものなのか。環境があっても学びに来ないのであれば、その前に何か手助けが必要では。
→豊田市にも無料の日本語教室はたくさんあるが、外国人への広がりはみられない。豊田市はある意味支援が手厚く、どこにでも通訳がいて困らないため、そこまで必要性を感じない。また労働環境的にも長時間働いて疲弊している中、日本語を学ぶ意欲がなかなか芽生えないのではと感じている。そこに対して何ができるかの答えはみつかっていない。私が日本語を教えている高校生には、自分がこの社会でのステップアップや楽しく生きるためには日本語が必要だと丁寧にしつこく伝えている。

〇JICA中部・小川氏:青年海外協力隊でブラジルにも日系社会ボランティアを派遣しており、現地で日本語を教育している隊員も多くいる。帰国した隊員や、コロナで一時待機中の隊員に日本語教師ボランティアの呼びかけ協力が可能。
→そういった人材がブラジル人学校とつながっていただけると本当に助かる。子どもたちもポルトガル語が少しでもできる人や、自分たちの背景のカルチャーを理解してくれる日本語教師がいてくれると、とても安心するので、ぜひお願いしたい。

〇なごや防災ボラネット昭和・神野氏:本会議で以前報告された食糧支援団体とつながるといいのでは。
→セカンドハーベストさんからは毎月ご支援いただいており、学校で人数分に配分して子どもたちに配布している。可能であれば、野菜やお米など昼食の食材になる食糧をいただけると大変助かる。

〇レスキューストックヤード・浦野:トヨタ自動車の窪田氏より、社内インターネットで社員向けに情報発信ができるとのと話があった。例えば、お米など保存ができてある程度の量が必要なものについて発信いただけると集まりやすいのでは。

〇トヨタ自動車株式会社・窪田氏:本日のプレゼン資料に掲載されていた「お願いしたいこと」のページを提供いただきたい。例えば日本語教室はリモートが可能かなど、社内募集のためにもう少し詳しい情報をいただき、マッチングできるかどうか探りたい。

〇コーディネーター・濱野:JAから不揃いの野菜があるため11月後半頃からだせるとの話がきているため、いただけたらネクターにも提供させていただきたい。

〇コーディネーター・関口:クラウドファンディングの支援者66人はどのような方か。
→外国人コニュニティとあまり関わったことがない方が積極的に支援してくれたように思う。私たちの存在を知らなかった方が現状に驚き、動いてくださったような感覚がある。関東地域の方が多かった。

□ゲストから一言(山家氏)

このように話を聴いていただけるだけでも本当に嬉しく、この機会をつくってくださったことがありがたい。更に質問や支援の提案もいただき、すごく助かっている。引き続きよろしくお願いします。

2.次回の予定

【多文化共生月間 第3弾】2020年11月24日(火)16時00分~17時00分

■テーマ:見えない壁への挑戦~ランドセルとマスクと子ども達~

■ゲスト:
鈴木勇雄氏/合同会社スタートアイズ業務執行役員・NPO法人東海ファシリティー理事長
ミウラ・ダ・シルバ・クミコ氏/合同会社スタートアイズ代表・NPO法人東海ファシリティー理事

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