第19回:子ども月間② 置き去りにされる中高生の困窮 学習支援の現場から

会議レポート

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  • 日時:2020年10月13日(火)16時00分~17時00分
  • 場所:WEB会議(ZOOM)
  • 参加団体:25団体(運営11団体含む)
  • 参加人数:33名(運営スタッフ15名含む)

1.中高生の今「置き去りにされる困窮 学習支援の現場から」

■コーディネーター・根岸

 前回は、スタッフが普段どのような姿勢で子ども達と関わっているのかの概要と、まちづくりを観点にお話させていただいた。今回は「中高生」の現場で奮闘し、コロナ禍においても学生とともに様々な工夫をこらして、子ども達をも巻き込んで1つの事業を作り上げていった当法人のスタッフから、お話をさせていただく。

特定非営利活動法人こどもNPO:学習支援事業責任者・副理事長 山田恭平氏

貧困家庭といわれる中高生と学習や遊びを通じて交流をしながら、自立の一助になるようお手伝いをしている。今回は、「コロナ以前からの困窮する中高生の現状」、「学習支援・居場所づくりとは?」、「コロナの影響」、「今後への危機感」の4つをお話する。

□困窮と中学生・高校生の現状

(冒頭、生活保護世帯の中学生からの動画を紹介)動画から見えてくるもの、まずは、整理整頓がされず物が散乱し、自分の部屋どころか勉強机もない状況にあり、実際に食卓テーブルを使ったり、押入れやランドセルの上で勉強したりする子どもたちもいる。汚れたまま放置されている物もあり、掃除や身だしなみの習慣もないため、体臭等から生活集団が難しくなる子どもたちもいる。また、親やきょうだいの声がうるさくて、勉強に集中できる環境(状況)がないこともある。そういった困窮する現状が、現代の日本にはある。

私たちが関わっているのは、生活保護やひとり親(母子・父子)家庭、生活困窮の方々で、不安定就労やDV・虐待、ゴミ屋敷、精神疾患などを抱えて暮らしている。その影響が子どもに対して、学力低下やいじめ、長期欠席・不登校、子どもから親への暴力などといった形で表れている。その要因は、金銭的な面だけでなく、環境的・文化的・経験的・社会的関係性がうまく築けない、親の様々な困窮が子どもへと繋がり、貧困連鎖を生んでいる。子どもの貧困という表現は正しくなく、親の貧困によって子どもが貧困になる。「子どもの頃から不平等じゃん」という中学生からの言葉にあるように、本人たちもどこかで不平等であることに気づいており、貧困の連鎖を起こさないようこの活動を続けている。現場で会う子どもたちは、汚い言葉をなげかけてくることもあるが、それは大人や社会への「期待の裏返し」だったり、周囲や自分への「不信・諦めの裏返し」だったり、いろいろな表現で大人に伝えている。それに対し聞く(受容)だけではなく、何か返答・行動していくことが重要。これらを子どもの権利条約・第12条で考えると、「views(自己の意見)」とあり、子どもの表現表出(意見)を全て受け止めることが大人には求められている。それほどに、子どもたちは語彙が少なく、表現方法が限られている(未熟)ため、全てを受け止めることが大切になる。それが出来ていかなければ、子ども達が貧困から抜け出せないと考える。活動の中では、「体験する→気づく→考える→試みる」のサイクルの中で、関わり・問い・働きかけをしていく役割を意識している。

□学習支援・居場所つくり

ユネスコ学習権宣言(1985年)の中にある学習権は、学習支援に通ずるものがある。学習は、受けさせるだけでなく、子ども自身が社会の中でいかに自分や周りの人の権利を守っていくのか、一個人としてどのように生きていくかを考える意味がある。当団体の方針としては「①子どもが学習を通じて自信をつけ、自らの意志で進路選択をできるようにサポートする」「②子どもや保護者からの相談に耳を傾け、必要な支援窓口につなぐ」「③子どもが抱えている困難を見つけて見守り、緊急性の高い事例については必要な支援機関と連携して問題解決を目指す」の3つを設け、様々な地域で活動している。中でも緑区では、学習支援や場づくり、児童館運営だけでなく、子ども食堂なども行っている。学習支援では、中学生100名、高校生50名の困窮家庭の受け入れを行い、週に12コマの授業や居場所つくりを行っている。名古屋市では、学習支援と居場所づくりを行政委託事業で行っており、受託して8年程になる。

□コロナと中高生

これまでを振り返ると、スタッフは大変だった。3月に突然の休校が相次ぎ、学習支援は学校と紐づく事業と厚労省が判断したため、名古屋市は全部中止になったが、愛知県は実施している事業所もあったので、行政によって対応が異なった。その後、厚労省が学習支援等は教育活動に当たらないので中止をしなくて良いと通達を出したが、名古屋市は中止の判断が早かったこともあり、中止が変更されることはなかった。子どもたちの反応はそれぞれで、中学3年生だと卒業式や受験に関する相談が多くあり、中学1~2年生だと休校を喜ぶ声が聞かれたが、ほとんどの子どもが自宅でおとなしく過ごすことができていた。しかし、週に1~2回会える場所がなくなった影響で、大学生になる子どもの学費納入が難しくなったり、家出をする子がいたり、緊急的な事案も発生していたため、個別に対応することもあった。

4月も緊急事態宣言が発令されたため、中止措置の延長が行われ、再開されるかどうか不安定な状況が続いた。そのため、オンラインの取り組みを始めたが、なかなかうまくいかなかった。また、親が家にいる状況が続き、親と一緒にいることが苦しいという子も見られるなど、子どもにとっても大変な時期で、こまめに電話や郵送物を送るなどの対応をした。5月も同様の状況が続き、対面するようなことが一切できず、毎日オンラインでYouTube配信を行ったり、再開に向けてマニュアルを作ったりした。この時期から、ゲームや自宅で過ごすことに飽き始め、勉強や学校にも無気力になり、週に一度の連絡も取れなくなってきて、児童相談所に保護される子どももいた。

6月に緊急事態宣言が解除され、再開の通達が出たものの、今回は近隣の学校で感染者がでた場合も継続するよう名古屋市から指示があった。しかし、貧困家庭は疾患を抱える保護者もおり、感染したら命に関わるため、市の担当部局に質問書を送ったりした。再開後に子どもたちからは、家に居続けるのは息が詰まる、早く学習支援を再開して欲しかったという声も聞こえた。一方で、学習支援に戻ってこない中高生も1割ほどいた。

7~8月には、感染者情報に注意していたものの、詳しい情報は子どもたちから得て、必要に応じて市へ状況確認した。質問書を提出した経緯もあり、少しずつ情報のやり取りが増えていった。当時、中学・高校に入学した子どもたちの間では、「マスク外し遊び」が流行った。進学後もずっとマスクをして、お互いの顔を知らないため、日替わりで順番に外していくゲーム。体験した子どもからは「変な顔って言われなくてよかった」や「担任の先生の顔が意外だった」など素直で残酷な一面を見た。また、マスクの未着用や換気などの対策が緩みはじめ、不安に思う子どももいたが、コロナに対する不安よりも、勉強や受験の不安が強く、言い出すこともできず、家にいるよりは良いと考えて学校に行く子どももいた。

9月は、感染者が出ても休校期間が短縮されたり、学級閉鎖程度になったりして、感染リスクに対して、緩やかさが出ていることに対して懸念を抱いている。特に、困窮家庭で疾患を持つ家庭に感染させたら、親を亡くしてしまった、感染させてしまったと自責の念に駆られる子どもが出てきてはいけない。しかし、場を求めている子どもたちのことを思うと継続する必要もあり、判断が難しい。

□今後の危機感~子どもたち、家庭に対して~

コロナ以前から困り感が強かった子どもは、より困った状況になり、特に困り感がなかった子どもや家庭でも、親が職を失うなど貧困が発生もしくは増大し、中には精神疾患を抱えてしまう親も増えるかもしれない。その影響で、学習支援に来る子どもが増えるが、キャパシティ(1会場12人×市内150)は、1,800人の受入れが限界。税収が減少することで委託費の減額、新たな事業の立ち上げも断念せざるを得ず、委託費の返還も必要になるかもしれない。となると、支援者が疲弊し、子どもたちにとっても支援が受けにくく、無視されることも考えられる。大人の貧困は住居がない、お金がないなど、今見える問題だが、おそらく子どもの問題は見えにくい上に、1年、2年経つとより深刻になり、支援が長期戦となることが予想される。

これまでの社会にコロナ禍を合わせて考えると、「何も起こらなかった、起こっていない」こと、例えば、感染者ゼロや成績の維持、非行に走らなかったことなどへの価値は認められることが少なく、予防的支援・早期発見の意味合いが強い。逆に起こったことへの対処は評価されることが多い。学習支援が子どもの居場所になっているという声を聞くと、大人は生活保護や児童扶養手当などを受けられるが、子ども自身が使える社会保障制度はほぼないため、学習支援や居場所づくりは重要。そこに関わるNPOや児童相談所などと役割分担し、エンパワーメントし合うことで、お互いが少しずつ補い合う関係性が強い取り組みでもあると感じている。

□質問・意見

・毎日新聞社・細川氏:家に親がいて、しんどい子どもの情報は、子どもと会えない中でどのように把握したのか?
→親と連絡を取ることが多いが、連絡がつきにくい家庭もあり、子どもの連絡先をもらい直接連絡をして情報を集めた。把握しているのは150名程。また、アンケートで情報を集めた。連絡ツールがあっても、大事なのは日ごろからの子どもたちとの信頼関係。連絡先だけ知っていても、子どもたちは話してくれなかったり、大人に合わせた意見しか言ってくれなかったりしたこともある。(山田氏)

・学習支援の場を開けない、オンラインで限界がある中、いかにつながり続けたのか?(細川氏)
→行政からの資料にはコロナに関する対策・方針が当然なく、何もしなければ過ぎていくだけだが、その間にも子どもたちは増々しんどくなる。委託費も返還となると、雇用も守れない状況になる。手紙や電話、SNS、オンライン配信、学習サポーターと手書きの新聞を作って毎週送るなど、疑似的に学習支援が感じられるよう工夫したが、新聞は150名中20名くらいが読んでくれたかどうか。そもそも家にいて自由でいることが難しい、ヤングケアラーや親の支配下にいるような子どもたちが多いため、週に1回学習支援の現場に連れてくる有用性に勝るものはなかった。また、行政からの委託事業で、地域コミュニティセンターや児童館などの施設を借りているため、地域がコロナで閉所する判断をした場合は借りられないのが現状で、委託費から借り上げることもできない。子どもたちが駆け込む「駆け込み寺」になれない。(山田氏)

・つなぐ子ども未来・小塚氏:昭和区で子ども食堂をしている。対象とする子どもは、どんな形で集まったのか?
→子ども食堂をやっていたが、学習支援を必要とする子どもにつながるのは非常に難しい。その中で各区役所、福祉事務所の生活保護ケースワーカーに必要な子どもを紹介してもらうよう依頼した。事業を行う場所も重要で、公営住宅の中で事業を行うなどしている。対象者は公営住宅の中にいることが多く、貧困層の近くで事業を行うことも重要。また、地域のキーパーソンが理解者になる必要性もある。(山田氏)

・コーディネーター・小池:スタッフの疲労・将来的なリスクへの不安・スタッフ人材の状況は?
→アルバイトの大学生の場合は、他のアルバイトがなくなってしまい収入が減ったので、こどもNPOでは様々な仕事を生み出して学生たちに払えるようにした。スタッフの場合は、リスク分散のため職員を2グループに分けている。在宅勤務+学習会のグループと現場+学習会のグループに分け接触を避けたが、職員同士のコミュニケーション不足、業務負荷はかかった。(山田氏)

・学習支援の場所がない、人件費がないとの話があったが、どのようなリソースがあれば現場がうまく回るか?(小池)
→子どもたちに配る通信デバイス(iPad・ノートPC・wi-fiルーター等)が20~30台は欲しい。コロナに合わせて支援の方法を変えていっているが、オンラインについてこられない子どもたちへの支援の幅を広げるためには必要。ただ、申し訳ないが、いらないものをもらっても、本当に苦しい。いらないものを施しのように子どもたちに渡すのはつらい。(山田氏)

2.グループセッションでの意見・感想等

・コーディネーター・濵野:NPOだけが頑張るのではなく、政策提言をして仕組み自体を変えていく必要があると考える。

・コーディネーター・小池:人は一人では何にもできない、子どもたちに接しているスタッフがいることで情報が得られたことはすごくありがたい。どこかでタブレット30個を寄付してくれるような企業を見つけていきたい。

・名古屋みなみ災害ボランティアネットワーク・伊藤氏:地域のコミュニティ力が減っている。自分の地域にどんな子どもが住んでいるかが分からない状況だが、子どもと声を掛け合うことが必要。

・弥富防災ゼロの会・佐藤氏:行政・大人の支援が必要と考える。

・NPO法人こどもNPO・菊池氏:子どもNPOで学生アルバイトをしている。子どもと関わるにあたっての見識、ノウハウを得ることは難しく、一人で3人の子どもを見るときなどは本当にしんどいが、NPO同士のつながりがこんなにあることが分かってよかった。

・中日新聞社・大森氏:おたがいさま会議をプラットフォームとするクラウドファンディングの検討はどうか。日本が子どもの問題を解決できる状況をまず作るべき。そのためにも。

□最後に(NPO法人こどもNPO・山田氏)

誰もが権利を行使できる社会を構築していく使命感はある。また、募金も募集しているので協力もお願いしたい。翌週以降も子ども月間なので、さまざまな現場の話を聞いていただきたい。

3.その他

■「SDGsのはじめかた」セミナーの案内(名古屋市市民活動センター・増田氏)

2020年10月23日(金)14:00~16:00 キックオフセミナーを開催予定。Zoom参加も可能。NPO法人子育て支援のNPOまめっこ・ブラザー工業株式会社・中日信用金庫がパネリストとして参加予定。
詳細:http://www.n-vnpo.city.nagoya.jp/sdgs/index.html
申込:https://sstory.jp/nagoya-sdgs-npo-2020

4.次回の予定

・日時:2020年10月20(火)16時00分~17時00分
・次回テーマ: コロナ禍 乳幼児親子への影響 ~生活・あそび・心とからだ~
・ゲスト:沢井 史恵氏(NPO法人てんぱくプレーパークの会・理事長)

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