地域と密着した医療・介護の現場(南医療生活協同組合)
■南医療生活協同組合 (介護部長・奥野氏)
医療生協は、地域の人々が、医療・介護・福祉・健康づくりの専門家との協同によって、いのちや暮らしに関わる問題を解決していく消費生活協同組合法にもとづく住民の自主的組織。その中でも主に介護部門の担当をしており、7つの指定居宅介護支援事業所があり、職員35名・扱っているケアプランは1025件となっている。今回は、新型コロナウィルスにより自粛する要介護高齢者のADL低下する事例をいくつか紹介していく。
最近、テレビで、「あなたのコロナ対策がみんなを救う」というようなフレーズをよく耳にするが、介護の視点から考えると、若干違和感があった。地域のためには我慢してほしいと訴えているが、コロナの状況下では仕方がないと思いつつ、一体どの程度まで我慢が必要なのか、要介護者がどこまで耐えられるのか、疑問に思っている。また、その程度を個人に任せてはいけないと感じている。ステイホームという考え方は重要だと感じているが、要介護高齢者にとっては長期化するステイホームは非常に危険でもある。政府批判をしたいわけではなく、会議に参加する皆さんにありのままの現状を知っていただき、今後のコロナ下での問題を考える材料にしていただきたい。
そもそもADLとは介護分野における専門用語で、日常生活動作のことを指す(例:階段の上り下り、入浴、移動、食事、排せつ等)。要介護高齢者の状態を把握するのに基準となる。現場のケアマネジャーに、ADLが低下した要介護高齢者を聞いたところ、合計31名が低下したと分かった(全体ケアプラン数の3%)。一見多くないように見えるが、コロナの第2波の前の人数であり、今後急速に増えると思われる。この人数は担当するケアマネジャーに聞き取りして拾い集めた。今回は、「ケアマネジャーから報告されたADL低下の事例」「ケアマネジャーによる積極的な訪問を行い、コロナ渦の状況把握に努める」の2つの視点から実践報告を行う。
事例の1つ目は、デイサービスの利用を拒否し、認知機能低下が顕著になった独居高齢者(80代・要介護2)。週4回通所していたデイサービスがコロナの影響で休止となり、もともとご近所付き合い等の社会的な繋がりもほとんどなかったことから、もっぱら犬と暮らすようになる。軽度だった認知症が、デイサービスを休止した頃から、記憶力(短期記憶)の低下がみられた。外出する機会が減少したため、身だしなみにも気を付けなくなり、短期間のうちに薬の管理までも出来なくなった。担当のケアマネジャーからは在宅サービスを提案するも、家族が感染を強く心配しており、現在もなおデイサービス再開には至っていない。
事例の2つ目は、コロナの影響により全ての介護サービスを中止した高齢女性(80代・要介護5)。入浴を主目的に週5回、デイサービスを利用していた。しかし家族の意向により、全ての利用を停止することとなった。また在宅で受けられる訪問看護・ヘルパーや配食サービス等も、感染への不安から全て中止された。ケアマネジャーが何度も家族を説得するも、サービスに繋がらなかった。その影響で生活リズムが崩れ、昼夜逆転の生活が続き、食事量も減ったことで、貧血を起こし入院することになった。このことを受け、専門の医師からは要介護高齢者のADL低下について、必要な介護サービスが継続できなくなるとADLは簡単に低下していき、いったん落ちてしまった介護度は、元に戻るのは非常に困難である。もともと寝たきりで嚥下機能の低下や摂食障害がある方ほど、介護サービスの休止は致命的である。
このことから、ケアマネジャーは要介護者の状況をきちんと把握していく必要があるのは、明らかであるにも関わらず、コロナ対応として厚労省からの通知は、それを困難にするものであった。1点目は、居宅介護支援サービスの担当者会議(月に1度、ケアマネジャーを中心とする関係者が利用者宅で行う会議)が、訪問ではなく電話やメールでも可とされた点。2点目は、モニタリング(月に1度、ケアマネジャーが利用者宅で本人の状態をレポートする)も、訪問でなくとも、電話で行えることとなった点である。専門家からは、電話でモニタリングを行うことにより、虐待や心身状態の見逃しに繋がるのではないかという指摘もある。そのため、南医療生協は電話ではなく、なるべく直接訪問をするよう努めているが、日々、利用者家族の理解を得て、介護サービスを継続する困難さに直面している。利用者本人は普段から家族への気兼ねを抱えているため、さらに迷惑をかけることは避けたいという心情がある。仮に本人が通所を希望しても、家族が引き留めるケースもある。訪問するお宅の中には、「もう来なくていい」と電話があったり、玄関先に「毒」と書かれた貼紙があったりと一歩も入室できない状況。お宅に入れても、フィジカルディスタンスをとると、本人の状態を近くで見聞きすることが出来ず、正しい把握が難しい。家族への感染症に対する正しい知識や支援者の感染症対策をきちんとお伝えしたり、入室が難しいなら家で出来る簡単な体操を紹介したりする等、あらゆる手を考え、提案している。
コロナの影響下で利用者とどう関わるのか。なかなか答えは見つけられていないが、法人内の医療・介護サービス事業所内で利用者の情報共有不足をなるべく減らすようにしている。
独自に地域の方の困りごとに対して「おたがいさまシート」を作成し、情報をキャッチできる仕組みにとり組んでいる。職員と組合員による地域訪問(ADLの低下がみられないがリスクを抱えている方が対象)の際には、コロナの影響がないか聞くように工夫している。おたがいさまシートの事例としては、マスクが不足した3月頃、職員から「マスクが足りません!」とおたがいさまシートで地域組合員に発信すると、数名が手作りマスクを800枚作成し届けられた。
Q:コーディネータ・萩原:コロナに関する情報はメディアの影響もあり、多くの方が間違った情報も得ている。ケアマネジャーの訪問での課題については、信頼できる形でのガイドラインを作成し、提示してみるのはどうか。介護分野の施設同士が連携し、業界全体で方針を示していくのはどうか。
A:家族・本人は、ただただ感染が怖いという想いが大きい。報道でもコロナへの恐怖や大変さに焦点を当てることが多く、それに対する向き合い方を伝えられることは少ない。正しい情報をシンプルに伝えようとしているが、恐怖感が先にたって、サービス提供までできない状況。
Q:名古屋みなみ災害ボランティアネットワーク・伊藤氏:本人が怖がっているとは思うが、家族の方がさらに不安が大きいのか。
A:身近な場所でクラスターが発生すると、本人も家族も特に恐怖感が高まる。
Q:つなぐ子ども未来・小塚氏:感染症への正しい知識の基準は。テレビでは感染者数だけで、恐怖を煽られる感じ。正しい情報を押さえるには、どこから情報を入手したらよいのか。
A:医療や介護のスタッフがお宅に上がること自体、恐怖感を与えてしまう。感染症対策をきちんと行っていること(ご家族の目の前で消毒をする)を見てもらうと、比較的受け入れてもらいやすくなる。
Q:コーディネータ・栗田:恐怖心をどうやって拭うのか、家族の理解が得られず、サービス提供できないのは危惧すべきことと理解した上で、南医療生協は地域に根差した取り組みをしていると聞いており、手作りマスクのような地域性を活かした取り組みが他にもあればご紹介いただきたい。また、さらに感染者が増加している現状があり、本部の医療現場の状況もご存じなら教えていただきたい。
A:組合員の活動としては、コロナの影響が出始めた頃から活動量は若干減少している。人と人とのつながりを大切にすると指針のもと取り組んでいるが、これまでどおりとはいかない状況である。8月より地域訪問を始めるが、コロナの感染拡大に伴い工夫がいる。感染予防を徹底しつつ、「おたがいさまシート」を活かして、地域の困りごとを吸い上げ、地域のボランティアに繋げたい。シートは組合員だけではなく、一般の方にも書いてもらっている。サロン活動や班(趣味等で繋がっているグループ)の活動もしている。ほか、ウォーキングや体操もしているが、活動量が減少しているため、今どういう支援が出来るのか、みなさんの知恵を貸してほしい。
Q:レスキューストックヤード・吉林:ケアマネジャーの訪問頻度は?
A:ケアマネジャーは毎月訪問を行なう。職員と地域の組合員で行なう訪問は、コロナの前は多い時で毎週、少ない時でも年に数回、予防接種や健康診断、お楽しみ企画のPRしながら、行っていた。コロナ禍の今は、訪問回数は減っても、月に1回は回っていきたい。
Q:瑞浪市議会議員・山下氏:本人を説得する・電話で聞き取りなど様子をきくと思うが、電話と訪問の違いは?
A:本人はまず電話に出られないことが多い。家族であっても情報把握しきれていない可能性もあり、放任や虐待の可能性も考えられるため、やはり電話は限界がある。実際に放任されていたケースもあり、介入してサービスに繋げた。
Q:防災ボラネット守山・鷲見氏:コロナは日本全国の問題だと思う。他地域と連携はしているのか?
A:他地域と連携はしていないが、情報収集は行っていきたい。
Q:名古屋みどり災害ボランティアネットワーク・岡田氏:コロナの影響下で家族も施設に入っていた。施設の方にすべて任せるしかなく、ご負担が多かったことと思う。感謝の気持ちしかない。
A:医療現場も心細いと感じながら、頑張っている状況。それぞれが創意工夫している。現時点で介護施設は制限をしながら面会を受け入れている。
Q:弥富防災ゼロの会・佐藤氏:おたがいさまシートは防災の視点からも活用できると感じた。要配慮者(介護では、要介護者)のいる世帯の情報は、行政で避難行動要支援者名簿として取りまとめられているが、おたがいさまシートのように、身近な支援者の有無や出来ることを伝える項目がない。
A:ぜひ活用してほしい、支援者としても気づきも多い。地域の力は無限だと感じることも多い。
Q:レスキューストックヤード・浜田:おたがいさまシートの仕組みを詳しく教えてほしい。
A:おたがいさまシートは、南医療生協の事業所に設置している。地域の組合員が持っている場合もある。支援してほしい内容が書かれた後は、南医療生協の本部にある地域ささえあいセンターに提出し、コーディネートが行われ、地域の組合員が動くという流れ。例えば、ゴミ屋敷の問題については、おたがいさまシートを通じ、ご近所など様々な方のサポートを受け、片付けることが出来た事例がある。
Q:CODE for AICHI・大川氏:テクノロジーを得意とする団体。何か出来ることがあればお手伝いしたい。
A:有難い。介護業界はITに弱い人が多い。ITも使いながら、コロナを乗り切りたい。
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