第13回:浜松医科大学健康社会医学講座・尾島俊之教授
●日時:2020年8月4日(火)16時00分~17時00分(延長戦:~17時15分)
●場所:WEB会議(ZOOM)
●参加団体:29団体(運営9団体含む)
●参加人数:36名(運営スタッフ14団体含む)
1.課題提起
改めて、新型コロナウイルス感染症について学ぶ
■浜松医科大学健康社会医学講座・尾島俊之教授
公衆衛生全般を専門にしており、普段から介護予防含め人々の健康に関して、災害時の健康維持に関して取り組んでいる。JVOAD避難生活改善に関する専門委員会が作成した「新型コロナウイルス避難生活お役立ちサポートブック(http://jvoad.jp/guideline)」の監修もしている。
2018年1年間に、日本で感染症で亡くなった方は約12万人。肺炎での死亡が一番多く約9万人、次いでインフルエンザが約3千人、結核が約2千人である。新型コロナでの現状の死亡者は約千人であるが、実は毎年多くの方が感染症で亡くなっている。インフルエンザでの死亡数は、2019年1月に1日平均54人であったが、新型コロナで毎日54人亡くなっている状況ではまだなく、インフルエンザも怖いことがわかる。1年間の死因順位別構成割合をみると、癌が一番多く37万人、他には脳卒中11万人、不慮の事故4万人。また、1年間の新規要介護認定者は46万人あり、こういったことも大きな問題。感染症は特別な病気ではなく、様々ある病気の中の一つ。新型コロナが怖いのは事実である一方で、従来からの健康づくりや病気予防、介護予防も重要。新型コロナを恐れて介護予防活動等を止めることは意味がなく、両立が大切である。
静岡県の県民高齢者追跡調査によると、健康に全く注意していない人に比べて、運動や栄養に注意している人は、死亡率が3割減少する。加えて社会参加もしている人は、死亡率が半分程度になる。そして、趣味やスポーツ、ボランティアなどの活動種類が多い人ほど、死亡や要介護認定の発生リスクが少ないという日本老年学的評価研究の研究結果もある。高齢者の場合、通いの場やサロン活動が介護予防に非常に重要であり、参加していない人に比べて参加している人の要介護率や認知症発症率はかなり減るという結果もある。筑波大学大学院の久野教授による新潟県見附市での調査では、コロナ禍で外出自粛求められ、運動不足によって健康悪化したという方が自粛前に比べて5倍に増えたという結果もでている。接触機会や社会活動を全く気にせず行動すると、感染が広がり死亡リスクも増加するが、一方で心配しすぎて全く外出しなくなると、高齢者の場合はフレイル(虚弱状態)となり、社会的には失業者が増えて貧困になることで死亡リスクが増える。極端に活動を止めることによっても多くの人が亡くなるため、程度はまだわからないが、その中間で動くことが大切である。
コロナ禍において感染リスクから考えると、一番安心なのはオンラインなどITを使った交流である。高齢者へのIT推進の動きもあり、テレビ電話を活用したバーチャルの通いの場で介護予防や見守りの事例もある。60代では9割、80代でも半分以上の方がスマートフォンなどネット利用をしており、高齢者のIT活用の可能性はある。私の80代の父親も、友人からZoom参加の誘いがあり、一度やり方を教えた後は様々なオンライン会議に参加して楽しんでいる。一方でオンラインだけでなく、実際に集まる活動もしたいところ。厚労省から「通いの場を開催するための留意点(https://www.mhlw.go.jp/content/000636964.pdf)」資料もあり、参考にされるとよい。
感染予防対策のポイントとして、感染経路は「とぶ」「さわる」「ただよう」の3種類。一番リスクが高いのは「とぶ」こと。唾が飛んで、他人の口や目、食べ物に入ることで感染することが一番危険なパターンであるが、本人がマスクをすることでかなり予防可能。飲食時はマスクができないため、飲食物に飛ばさないため話さないようにとも言われている。しかし、全く話さないのも寂しく、少し話したいという場合には、飲食時の座り方が大きなポイント。向かい合って座ると唾が飛ぶ危険性があるため、横並びや互い違いに座るとよい。場合によっては、食べる時は話さず食事し、食べ終わってマスクをしてから話すなど、時間を区切って対応することも大切。二番目にリスクが高いのは「さわる」こと。唾が飛んで付いているところを触った手で、飲食したり、マスクや顔に触ることによって感染が発生する。特に手にウイルスが付着し様々なところに伝わることが多く、予防のためには手洗いや消毒が大切。三番目のリスクが「ただよう」こと。ウイルスが空気中に漂うことは多くはないとも言われている。しかし、換気が悪い場所に大勢でいるとウイルスを吸い込んでしまうこともあるため、換気は大切。
唾が直接「とぶ」ことは、マスク着用でおおよそ防げるが、感染原因で一番厄介なのは「さわる」こと。ドアノブや手すり、テーブルにウイルスが付き、そこを手で触ることでウイルスが身体に入るリスクとなる。身体への入り方は、「飲食で口から入る」「吸い込んで入る」「目から入る」の3種類であるが、身体に侵入する間際で止める水際作戦がある。重要ポイントは飲食の直前で手洗いや消毒することであり、手にウイルスが付いても身体に入ることを予防可能。特にテーブルを触ったりしながら手づかみで食べることが危険。自分のマスクに触ることで、ウイルスがマスクに練りつけられて吸い込む可能性もあり、場合によっては、テーブルを触ったら消毒する、マスクを触りたくなったら消毒後に触るなどできるとよい。自身が感染している可能性もあり、マスクを触ってから共有テーブルを触ることで、ウイルスを塗り付けることもあり得るため注意が必要。こまめに手洗いや消毒が、「さわる」ことでの感染を予防するポイントである。
新型コロナはわからないことが多い病気のため、不安を感じてしまう。不安があることで差別が生じ、差別が怖くて発熱症状等があっても受診をためらいそのまま行動することで、ウイルスも病気も広げてしまう悪循環が生まれる。過剰な不安や差別が生じることへの対応も必要である。有症状者が正直に症状があることを言える状況が大切。避難所の場合はゾーン分けし、有症状者には症状のある人のゾーンに入っていただく。新型コロナで厄介なのが、わかってる感染者と同数以上に無症状感染者がいる可能性があること。無症状でも自分は感染している可能性があると考え、広げない対策をすることが大切。万が一運営スタッフが感染している場合、スタッフは動き回るため感染拡大させやすい。避難所ではスタッフルームが密な場合があり要注意。病院の院内感染も、職員休憩室が密の状態で一緒に食事をし、職員間で感染が広がったという事例もある。
感染予防は車の運転と似ている。交通事故で毎年何千人も亡くなっているが、車がないと買い物や通院、社会生活ができないこともあり、一切使わないとうことにはならない。車の場合、スピード遵守や安全装置を付けるなど、ポイントをおさえて対策すれば事故が圧倒的に減る。感染予防も同じで、ポイントをおさえれば感染は圧倒的に減らせる。しかし、予想外の飛び出しなど、どんなに注意していても事故は起きることがある。そのため車に乗せてもらう場合、本人が事故が心配であれば断り、大丈夫と判断すれば乗るなど、どうするかを自分で決めてもらうといい。感染予防も徹底した対策は必要であるが、注意していても感染することはある。そのため、活動においても参加するかしないかは、参加者一人ひとりに決めていただくといいと思う。
感染発生を想定した対策も重要。様々な関係者に相談して運営することで、より安全の確保ができる。普段の地道な努力を情報発信することも大切で、万が一感染が発生しても周囲の理解が得られるのではと思う。個人やある団体だけに責任が集中しないように、対応と責任についてみんなで負担することも大切。それは「自助」「共助」「公助」の災害対応原則と同じ。一人ひとりが参加するしないを自分で決め、参加者それぞれが他人にうつさないように注意し、支援団体や住民組織、行政もそれぞれ注意し、みんなが分担しながら対応していくことが大切である。
□質問
・コーディネータ・萩原:避難所のゾーン分けについて、詳しく教えて欲しい。
→避難所生活サポートブックのチェックリストで症状を選んでいただき、ゾーン分けをする。発熱など有症状者が入るゾーンは、新型コロナやインフルエンザ、夏風邪などが混ざっている可能性がある。そのため、別々の病気がお互いに感染しないように、ゾーンの中でもパーティションで区切るなどして、感染が広がらないようにすることが大切。
・ボランタリーネイバーズ・青木氏:集合型研修でのロールプレイなど、接近して実施するワークがやりにくく、中止判断をした団体もある。接触を伴う研修の実施の可能性を聞きたい。
→念のため中止もありだが、感染症対策をして実施もあり。会場参加だけでなく、心配な人にはオンライン参加していただくことも工夫の一つ。飲食がある場合は話す時間と飲食時間をきっちり分けるなど、ポイントをおさえて対策をした上で、本人に参加判断をしていただくといい。・風の会・山口氏:おたがいさま会議を通じ、子どもNPO・根岸さんからオンラインのダンス交流企画に声掛けいただき参加した。奈良のダンサー、中川児童館、子どもNPO、風の会でZoomをつなぎ、好きな曲もリクエストして体を動かし、当会利用者も楽しく過ごすことができた。
2.各グループで何ができるかを検討
(ブレークアウトセッション。全7グループ)
・社会活動に参加しないリスクを社会に知らせていく必要あり。高齢者は会える場もすごく大切で、工夫して実施できるよう考える必要がある。感染防止対策や工夫の知見を集約し、様々なガイドライン作成に役立てていけるとよい。
・生協組合員の子育て支援や交流活動は全て中止。対策ポイントはわかったが、内部でも認識が異なり一歩踏み出すタイミングの判断が難しい。地域住民がもつコロナのイメージと、支援者側の対策をすれば大丈夫という認識のズレが大きいことも課題である。
・独居高齢者から家具固定の依頼があり防災ボランティアが訪問したところ、かなり寂しい想いを抱えていた。今の季節は熱中症対策でエアコンが推奨されており、コロナ対策での部屋の換気との関係や、乗合い乗車での換気についてアドバイスが欲しい。
→厚労省の指針では、1時間に2回空気が入れ替わる換気が推奨されている。教室程度の広さで、家庭台所用の換気扇が動いていれば同程度の換気になる計算となり、冷房しながら窓を全開にせずとも換気が可能。車は冷風を出しながら少し窓を開けて換気できるといいと思われる。
・まずは活動しなくてはと思っている人と始め、楽しそうに活動していることが周囲に見えることで、参加者も少しずつ増えていくといい。一方で怖がっている人に対しては、訪問や電話など、その人が受け入れてくれる方法で対応していけるといい。
3.次回の予定
2020年8月25日(火)16時00分~17時00分
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