第93回:中高生のキャリアデザインを社会全体で応援するには?

会議レポート

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●日時:2022年10月11日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:22 団体(運営 8 団体含む)
●参加人数:29 人(運営スタッフ 11 名含む)

1.情報提供

〇種村氏(RSY)
・4~5 月のおたがいさま会議で話題提供があったウクライナ避難民支援に関して、月1回実施している情報共有会議の第 5 回目を 10 月 14 日(金)に開催する。興味ある方は参加いただきたい。
※あいち・なごやウクライナ避難者支援ネットワーク:https://www.facebook.com/borsch.net

2.話題提供

■テーマ『中高生のキャリアデザインを社会全体で応援するには?』
倉田佳代子氏:キャリア教育 NPO法人 Grow&Leap 代表理事/
松隈快氏:キャリア教育 NPO 法人 Grow&Leap 常務理事

〇話題提供者紹介:関口氏(おたがいさま会議コーディネーター/フリーライター)
・今回、話題提供お願いした NPO 法人 Grow&Leap は、共通の知人を介して話を伺ったことをきっかけに、おたがいさま会議にお誘いした。中高生のキャリア教育活動を行っているが、倉田さんも松隈さんも 2 人とも若く、NPO としても昨年 5 月に法人化したばかりで、団体としても若い。おたがいさま会議 に参加している経験豊富な皆さんから、様々な助言をしてもらえればと思う。

〇自己紹介
・「中高生のキャリアデザインを社会全体で応援するには?」についてお話ししていくが、NPO 法人Grow&Leap(以下「GL」)を知らない方が多いと思うため、今日はまず知っていただきたいと思う。
・倉田氏自己紹介:昨年まで働いていた総合型選抜(旧 AO 入試)の専門塾を退職し、今年新しく個人事業主として開業した。キャリア教育をする GL の代表理事も務めている。GL は、2018 年に任意団体と してスタートし、昨年度に NPO 法人化した。これまでに、一般社団法人の活動などにも関わっており、 県内50校程度の進路指導の先生を訪問するなどもしてきている。個人的には、イラストレーターでもあり、GL や自分の事業のホームページデザインなども行っている。
・松隈氏自己紹介:GL での活動と、総合型選抜専門塾も一緒にやっており、講師も務めている。個人的には、名古屋大学院生として臨床心理学を専攻しており、カウンセラーの勉強をしている。学んだことを受講生のキャリア教育に上手く活かせるように勉強しつつ活動している。

〇Grow&Leap のミッション
・これまで 3,000 人以上の学生との出会いの中で、「やりたいことがわからない」「やりたいことがあっても、何から始めていいかわからない」という悩みを抱える中高生に多く出会ってきた。しかし、こ の悩みを家庭や学校の中だけで解決することは難しい。そこで、私たちは「個性教育プログラム」と して、キャリア教育を通して、自分らしいキャリアデザインができるようになることをサポートして いる。「将来、やりたいことがわからない」という 10 代の悩みは、自己肯定感の低下や社会を変えら れると思わないことにつながったり、スマホなどの一時的な楽しみに時間を奪われたり、将来への漠然とした不安につながっている。10 代は目の前の勉強や部活に忙しく、将来に向けて深く掘り下げる機会がなかったと、自分自身を振り返っても感じている。
・中高生が「やりたいことがわかならい」という問題を抱えていることを認知している人は、結構いるのではと思う。実際に中高生と接点のある学校や塾、家族、知り合いに中高生がいる人たちは、「どん なふうに将来を描いたらいいかわからない」と、漠然と悩んでいる中高生の声を聞いたこともあるの ではと思う。公的機関の学校では、集団生活という側面が強く、先生 1 人に対し生徒 40 人という状 況で、個々に特化したその子らしい将来像を一緒に描くサポートは難しい。学習塾は、大学受験合格 をめざすためのものであるため、科目学習に特化せざるを得ない。身近な人が無償のボランティアと して、スポット的に相談にのることに関しては、一時的には力になるが、持続的に将来を描いていく サポートは困難であると思う。
・公的機関や営利企業、ボランティアなどでも解決できない社会課題を、組織的に解決していくこをミ ッションに掲げて活動する人たちが NPO 法人である。私たちキャリア教育 NPO 法人 Grow&Leap は、 「将来やりたいことがわからない」という中高生に対して、キャリア教育に特化し、個々に寄り添っ た支援をしている。社会的企業という立場で、持続的に社会全体でこの問題を解決していくような仕 組みを生み出していく。
・私たちのミッションを一言でいうと、「個性を活かす、世界が輝く」である。「個性」というと、様々 な意味やイメージが沸くと思うが、私たちがいう「個性」は、その子自身が感じたり考えたりしたこ とそのものである。そこを社会探求のスタートとしながら、一人ひとりの自分らしいキャリアを共に 描けるように伴走していく。ミッションの中には、「足を踏み入れたことのない地まで輝かせる」とい う言葉もある。私たちの個性教育の中には、自分だけなく相手の個性まで活かすマインドセットとい うものがある。GL で成長した中高生が、社会に出た後、それぞれの属するコミュニティの中ですぐそ ばの人を輝かせていくという、そんな人材を育成するキャリアデザインをめざしている。今の社会が 求める人材の素地は、10 代の時に形成されると考えている。
・GL が中高生に提供している個性教育は、一コマ 90 分で構成している。大きく 3 つの場にわかれてお り、それらを 1 周して一コマとなる。3 つの場の 1 つ目が「テーマ設定の場」、2つ目が「実践の場」、 3つ目が「振り返りの場」である。3 つの場を 1 周する一コマを、6 ヶ月かけて 24 回繰り返していく ことで、自己肯定感や自己管理能力をアップさせていきながら、自分自身の将来を設計していく。「テ ーマ設定の場」では、31 個のテーマの中から一人ひとりの受講生にあったテーマを、メンターがカス タマイズして設定する。テーマの時間の過程で、自分と相手の個性を活かすマインドセットを少しず つしていくようにしている。自分のことだけでなく、相手のことも考えて行動する力、協力して行っ ていく力が今後非常に求められる力であると考えている。

〇2021 年度の成果と課題
・先ほど説明したようなミッションを掲げて個性教育プログラムを提供してきた。2021 年度の達成度合いについては、3 月に集大成となるフェスティバルを開催しており、その報告映像をご覧いただきた い。
※第 1 回 My Story Project(以下「MSP」)フェスティバルのダイジェストニュース(YouTube)

・3 月のフェスティバルの参加者は 103 名、共感率は 82.5%であった。2021 年度の成果としては、GL メンバーだけでなく、受講生の保護者や社会人の視点から個性教育の必要性を発信する方々が現れたこ とである。寄付体制という不安定な中でも、6 ヶ月間やり遂げたことで、多くの方から共感を得られることができた。
・今年度は第 2 期がスタートしており、来年 3 月にも 2 期生の集大成としてのフェスティバルを開催予定である。昨年度は 7 名の中高生が受講していたが、今年度は東京から長崎までの 16 名が 2 期生と して集まっている。16 名がどこからアクセスしたかというと、イベントサイトからのアクセスが一番 多かった。今年度、MSP に興味を持った中高生は 30 名以上いて、1 期生の保護者からのつながりで問 合せがあったり、イベントサイトを介せずホームページにたどり着いた人もいる。今年度の参加者の 内訳は、高校2年生が一番多く、次に中学 2 年生が多い。学校としては、私立中高一貫が 7 人と一番 多い。中高一貫が多い理由としては、6 年間の教育で受験のタイミングが少ないことが影響している と思う。GL に自らアクセスしてくれている中高生は、殆ど中高一貫である。私立の中高生が多いのは、 新しい教育を柔軟に取り入れているところが多く、課外活動にも意欲的であるからである。
・GL の事業は、上手く進んでいるように見えるかもしれないが、課題も様々ある。各事業において、社 会人や大学生への関わりしろの提示が不十分となっている。また、マネタイズが不安定であり、MSP に おいて赤字経営になってしまっている。こういった課題を解決していきたいと試行錯誤しており、皆 さんにも一緒に考えてもらえると嬉しい。
・昨年度の MSP の運営状況としては、3万円程度の赤字になっている。3 万円の赤字というと少ないよ うに思えるが、実は見えにくい問題が含まれている。昨年の MSP の財源の出所は、4 名の受講生の保 護者と3名の GL メンバーである。私たち自身、中高生を応援したいという気持ちから、1 万円のマン スリーサポーターになっている。3 年前に GL を立ち上げた時のメンバーの熱意に、法人格をもった今 でも依存してしまっている状況でもあり、社会性や持続可能性の観点から見直しが必要であると思っ ている。GL の任意団体時代では、個性教育を一ヶ月 16,000 円、一コマ 4,000 円として、受益者負担 でキャリア教育を受ける受講生の保護者から受講料を受け取っていた。しかし、教育の恩恵は家庭だ けが受けるものではないと考え、昨年 10 月に寄付体制に移行した。寄付体制に移行したことから、赤 字が事前に予想されたこともあり、これまで一コマ 2,000 円としていた個性教育の人件費を、1,500 円に設定して提供した。それ以外に、MSP の告知や個性教育開発に関わる費用、受講生の受講時間以 外にかかるコストは、ボランタリー運営になることを理解いただき寄付体制がスタートしており、そ の結果、先ほどの赤字 3 万円ということになっている。もし寄付体制前のように、個性教育講師への 人件費を一コマ 2,000 円とした場合は、赤字額が 10 万円を超え、赤字率は 44.4%となる。さらに任 意団体時代の一コマ 4,000 円として、受講以外にかかるプログラムの告知や開発コストも含めて計算 した場合には、赤字率は 68.3%となる。改めて昨年度の MSP の収支状況をみると、3 万円程度であれ ば大きな赤字には見えないが、財源が GL メンバーや保護者に偏っていること、人件費も本来より安 く設定していること、ボランタリー運営で行っていることなどから、かなり不安定な状況である。

〇2022 年度の Grow&Leap の方向
・任意団体を立ち上げた 2018 年からの 3 年間は、中高生向けのキャリア教育プログラム設計強化をしていた。2021 年に法人化し、MSP もスタートし、これからの 3 年間は、支援者の拡大を強めていくタ イミングであると考えている。法人化までの 3 年間は情熱で勝負してきたが、このパッションを失う ことなく、今度は協力で勝負する時がきたと思っている。
・これまでは GL メンバーと呼ばれる個性教育発展のために実働で動く人たちがいたが、これからは GL の取り組みに共感し、GL や中高生を支援したいという気持ちのある全ての人たちを「GL 中高生サポ ーター」と呼び、一緒に協力して問題解決していきたいと考えている。

〇今後のビジョン、めざしていきたい世界について
・「個性社会 1000 年先まで」ということで、果てしない未来にまで、個性が互いに活かしあえる社会を届けていきたいと考えている。GL メンバーや GL 中高生サポーターと一緒に協力し、自分と相手の個 性を活かしあう幸せな社会を、次世代リーダーがバトンをつなぎ、まだ見ぬ未来にまで届けることを めざしていきたい。中高生のキャリアデザインを社会全体で支援していくために、皆さんからもご意 見を伺いたい。

3.ブレイクアウトルームでのディスカッションを終えての質問・感想など

〇鈴木氏(デンソー):
MSP 受講生の保護者からの「娘に寄り添って、家族でできないサポートが嬉しかった」という声が印象に残った。今後世界がどうなっていくかわからないブーカの時代で、会社も 30 ~40 代の職員に改めてキャリア教育をしないといけない。それを中高生の時からやっているのは、素 晴らしいと思う。資金面の課題では、例えばクラウドファンディングをやってみたり、いい活動であ るため、月謝制ではなくカリキュラム全体でいくらという受益者負担も必要なのではという意見もあ った。質問としては、寄り添ったサポートについて、具体的にどんなことをしているか教えて欲しい。 また、自分自身に向き合うより、もっと社会を捉えた上で自分のスタンスを見ていった方が安全なの ではという声もあり、そこをどう考えているかお聞きしたい。

→倉田氏:
寄り添い方法は、6ヶ月の中にフェーズがある。最初の1ヶ月は、自分がどういう人間かを アウトプットする。アウトプットの経験が中高生にはないため、幼稚園や小中学校の時にどんなこと が印象に残っているかを表現したり、何が得意で不得意かをエピソードと一緒にだして自己分析して いく。受講生からは、「ただ表現するだけでもすっきりしたし、認められた気がした」という声もあり、 まずはそういった経験をし、それぞれの感性や思考をアウトプットすることで、違いも自覚する。第 2 ステージは、社会を知るということ。一人ひとりの関心のあることについて、例えば、すごくきれ いな場所に行って「こんな場所を作りたくて、建築に興味がある」という話から、私の知り合いの建 築に関わる 70 代の人と高校生をつないだ。70 代の方ならではの建築の歴史を話してくださり、建築 に携わっていることが町づくりにもつながっているという話にもなり、それを聞いた高校生の視野も 広がった。プロジェクトの中には、5人の社会人にインタビューするというプログラムがあり、社会 関係の機会も設けている。また、中高生が自分の感性に基づいてイベントを設計して開催するプログ ラムもあり、幅広い年代の方と同じテーマについて議論したりもする。例えば今月は、菜食や生命倫 理について、多世代を集めて話し合うイベントを開催予定である。最後の 2 ヶ月では、どのような未 来を望むかをデザインして発表する。その反応を皆からもらって6ヶ月のプログラムが終了する。ま た、MSP を経た後、キャリアデザインが持続的に変容していく部分のサポートも、ポストアクティビ ティとして作っていっているところである。

〇関口氏(フリーライター):
塾で働いた経験のある方からは、個性を伸ばしたり、人生設計をする教育 ができるといいという感想があった。おじさん世代からは、なかなか厳しい見方もあった。一つの答 えを見つけようというプログラムだと思うが、人生はそんなに簡単に答えが見つかるものではなく、 学校や大学で学ぶべきものではないかという意見や、突き詰めること自体が難しいのではという意見 もあった。運営の部分では、どのように皆に共感してもらい資金を集めるかという部分が漠然として いるようにも感じた。名古屋に限らず東京や大阪など全国からの参加者も多く、オンライン中心でや っているということであるが、コミュニケーションの仕方でどんな工夫をしているか教えて欲しい。

→倉田氏:
基本的にはオンラインでの実施となり、講師は6ヶ月のうちに1回変わるのみで、一人のメンターが3ヶ月はマンツーマンで入る。しかし、ディスカッションが必要な時は、ボランティアスタ ッフも一緒に入ってもらったりもする。イベントを企画する場合には大勢が集まったりもするが、自 己分析やその子に寄り添ったイベント設計は、個別対応でしかできないため、個別で長期間関わって いく。一人に対して接する期間を長く持つことで、しっかり関係を構築して進めていくことが、オン ラインでやっていく中でのポイントである。基本的には個別対応であるが、月1回は皆で集まる機会 もあり、メリハリをつけながら効果を最大限に引き出せるように進めている。6ヶ月の期間のうち1 回は、自然体験をするオフライン交流の機会も提示しており、全国から任意参加してもらっている。

〇浜田氏(RSY):
松隈さんから、参加するにあたって本人の意思は確認するが、親御さんの理解がない と本人も苦しくなるため、親とも面接して理解も得ると伺った。詳しく伺いたい。

→倉田氏:
プロジェクトの目的として、将来について漠然としていることを少しでもアクションに踏み 出すことで、悩みの呪縛から解放されていくということがある。そういった意思のある中高生を第一 に考えており、親の意思だと進まないため、まずは本人に意思があるかを確認する。その次のステッ プとして、親御さんが個性教育の必要性を感じてくれる方かどうかを確認する。親御さんの理解がな いと、本人も苦しくなるし、寄付金で進めているものであるため、双方にプラスがあるように確認と 了承を得ている。私たちは社会全体がこの教育の恩恵を被るものであると思っている。そのため、 5,000 円のマンスリーサポーターになってもらうことを保護者面談の時に保護者にお願いしていて、 了承をいただいた上で、個性教育を提供している。個性教育を受ける本人たちに意思があるため、一 人のメンターが関わることで、回を経るごとに関係性ができていくと思う。

→松隈氏:
人生の答えは簡単には見つからないというのはその通りだと思う。私たちも決め込んだもの をやっていくんだということを描くことに執着しているのではなく、一つ土台になるものを描くこと から始めていって、その都度、その子自身がキャリアデザインをしなおしていけるようになっていけ ればと思っている。土台修正を随時していくための素地が、6 ヶ月の中でできるといいなと思い活動 している。その後も続けて中高生の間は支えていく。大学生や社会人になっても関わりのある子には、 その都度キャリアデザインについて話したりもしている。

〇浜田氏(RSY):
今後、大きな災害などによって GL の活動が断ち切られる状況になった場合、どうして いくかなどあれば教えて欲しい。

→倉田氏:
受講生は全国に散らばっているが、GL 運営メンバーは愛知に偏っている。そんな時にこそ、 自分たちの日頃からのネットワークや信頼関係が重要になってくると思うため、愛知のメンバーが災 害時にどうするのかをお互いに考える機会から始めたい。お互いがどんな状況になっても、その時の 状況にあわせて相応しいアクションを皆で模索しながら踏み出せるようにしていきたい。

〇まとめ(倉田氏):
・様々なご意見をいただき、ありがとうございました。中高生たちには、おたがいさま会議に集う方々の様々な人生経験が非常に参考になると思う。いろんな社会人をつなげているが、その度に彼らがすごく感動していて、彼らの人生設計に社会人の声が大きく影響すると実感している。皆さんにも、中 高生のキャリアデザインに協力いただきたい。皆さんが関わる分野に関心がある中高生がいた場合に は、ぜひつなげさせていただきたいと思っている。

4.次回の予定

■日時:2022年10月25日(火)16時00分~17時00分
■テーマ:『カタリバからLivEQualityまで ~NPOの立上げから急成長する組織づくりまで~』
■ゲスト:岡本拓也氏(NPO 法人 LivEQuality HUB 代表理事)

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