第91回:災禍に対応する市民活動の可能性~コロナ禍におけるローカルネットワークの事例から~

会議レポート

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●日時:2022年9月13日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:11 団体(運営 9 団体含む)
●参加人数:21 名(運営スタッフ 11 名含む)

■情報提供(2 件)

〇野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・「今ナゴヤで起きていることを❝自分ごと❞として考える講演会・講座」開催案内

≪講演会≫ 「あなたがいれば、カタチ(まち)が変わる」ナゴヤのまちを楽しむ場
講 師:大ナゴヤ大学 理事長 大野 嵩明 氏
内 容:ナゴヤのまちをまるごとキャンパスに、先生も生徒もまちの人として、学びの場づくりを行う。 若い人たちの参加も多く、色々な人たちが参加しやすい取り組みや仕掛けなどについてお話を伺う。
日 時:令和4年10月9日(日) 13時30分~15時30分
受講料:無料 ※ 後日 YouTube での視聴可能

≪講座≫
日 時:令和4年11月14日(月)、11月22日(火)、25日(金)、12月14日(水)
13時~15時30分 受講料:500 円(資料代・保険料含む)

※ 第 2・3 回は後日 YouTube での視聴可能。YouTube 視聴のみは無料 定 員:25 名(抽選)
※ YouTube 視聴は制限なし 募集締切:11/2(水)
※ 締切後も定員に達するまで受付は続けます。
https://www.nagoya-shakyo.jp/post-9643/

〇種村(NPO おたがいさま会議事務局・レスキューストックヤード)
・マッチング報告 レスキューストックヤードが事務局を担う、あいち・なごやウクライナ避難者支援ネットワークでは、 この地域に暮らすウクライナからの避難者支援を行っている。NPO おたがいさま会議で縁ができた「つ なしょ」より、家具や食品等を提供いただいた。

1.話題提供

■テーマ: 『災禍に対応する市民活動の可能性~コロナ禍におけるローカルネットワークの事例から~』
■スピーカー:菅 磨志保氏
(関西大学 社会安全学部・社会安全研究科 准教授 / 特定非営利活動法人 神戸まちづくり研究所 理事)

〇自己紹介
・阪神淡路大震災をきっかけに、災害と市民活動の研究をはじめた。 東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)の災害担当専門員を3年勤めた後、東京都生協連で2年、 神戸にある「人と防災未来センター(DRI)」という防災研究・震災の記憶を発信するセンターで3年勤務、大阪大学のコミュニケーションデザインセンターで減災のコミュニケーションデザインに取り組んだ後、関西大学で働いている。

〇震災ボランティア
・災害時の助け合いは古くから行われてきたが、それに「ボランティア」という言葉があてはめられ るようになったのは1980年代後半から。国際化や高齢化に伴う社会課題への対応を担う主体として、 無償性が強調される「ボランティア」とは異なる概念が求められ、「市民活動」「市民公益活動」とい う言葉が使われるようになった。
・1990年には雲仙普賢岳や奥尻島の大きな災害が発生する一方、市民活動の基盤整備に関する議論が 高まった。そんな中、阪神淡路大震災が発生した。市民の自発的・主体的な社会参加への期待と注目 が集まり、その活動基盤を強化していく運動を後押しし、NPO法が制定された。
・阪神淡路大震災は従来の災害対策、防災体制にも修正を迫ることになった。震災をきっかけに、災 害対策基本法が改正され、地域防災計画の改正・改定が全国的に進められた。自主防災の活動・ボランティア(専門ボランティア・一般市民)など「ボランティア」が新たな災害対策の担い手として法 律に位置付けられていく。特にボランティアに関しては個人ボランティアのコーディネート機能を中 心に、災害ボランティアセンターという活動システムをベースに組み立てられていった。
・2000年前後、災害多発時代に突入し、市民セクターの形成も進んでいった。防災・減災に関わる社会 的領域(行政セクター)と、市民活動に関わる社会的領域(市民セクター)の中間に災害ボランティ アに関わる社会的領域が形成されていったと実感している。防災体制の市民参加も限定された中で進 められ、災害ボランティアセンターの活動システムも定着していった。災害時の民間支援はこのシス テムを前提として展開されていった。
・2004年に中越地震が起こり、災害ボランティアセンターの限界も見えてきた。中越地震は被災地域 に入り中長期の復興支援が課題となった災害だった。中越地震以降、官民連携や民民連携などセクタ ーを超えた連携やボランティアセンターの枠を超えた活動が動き出してきた矢先、2011年、東日本大 震災が発生した。
・日帰り個人ボランティアの活動システムでは対応できなくなり、企業や国際協力NGO等資源動員力を 持った組織が大きな役割を果たすようになる。これ以降、組織間・セクター間連携の議論が本格化し た。
・2010年から2020年、大規模災害が毎年のように発生する時代に突入し、東日本大震災からの復興支援も含め、社会問題に対し、多様な試みが行われていく(クラウドファンディング・社会的企業等)。 2008年の公益法人改革が公共性の定義の多様化をもたらしていった側面もある。
・2020年、コロナ禍で新しい生活様式、人とのふれあい等人との接触を通じて課題を解決してきた市 民活動にとっても新たな試練となった。これをどう乗り越えるかというところで様々な活動が展開さ れてきた。
『コロナ禍における日米のNPO』柏木宏著(2020.11)参照。

〇報告の背景
・自身が理事をしている、神戸まちづくり研究所は、阪神淡路大震災をきっかけに、復興まちづくり 支援を担っていく復興塾を母体に作られた研究所。コロナ禍での課題を共有するサロンを開催していたが、自治会支援やまちづくり支援では緊急性が高い問題は出てこなかった。しかし様々な動きを見 ているとかなり切実な問題を抱えている方々がクローズアップされてきたので、取り上げたいと感じ た。その中で「新型コロナウィルス」NPO支援組織社会連帯(CIS)の動きを知ることになり、中間支援の重要性を見ていった。さらにローカルな活動としてとちぎボランティアネットワークの杤木コミ ュニティ基金や愛知NPOおたがいさま会議の動きを参考にしながら、関西大学で出版することになった 書籍の執筆を行った。

〇コロナ禍がもたらした新たな現実:NPOが置かれた状況
・支援対象者が増加したが、活動自体がしにくくなり、事業収益が減少しているという三重苦の状況 の中、様々な工夫をしながら活動している。
・緊急事態宣言がだされ、学校が休校になった頃から様々な問題(教育・食事・雇用等の支援ニーズ の増加)が家庭内で起きていた時に、様々な動き(オンライン・フードバンク・子ども食堂・労働相談)が起こっていた。

〇中間支援組織による「政策アドボカシー」の展開
・NPOが活動できるよう、中間支援組織がNPOのサポートに動いた。
・3月にC’sが「新型コロナ対応に係るNPO法人支援に関する要望書」を提出。さらに4月には岡山NPO センターを中心に日本NPOセンターが47都道府県247団体の賛同者を得て「新型コロナの影響によるNPO の存続危機に対する支援に関する要望書」を提出するなど、市民活動の基盤を支える様々な提言が出されていく。このような中央の動きには各都道府県の中間支援組織や団体の動きも連動している。 要望書の根拠として多数の調査も実施された。
・その後CISが設立され、ポータルサイトで情報発信がされるようになった。
・NPOの財源で見ると委託事業が減ったり、人が集まる活動の中止による自主事業収益の減少があったりしたが、これに対し、助成金(休眠預金助成/持続化給付金/雇用調整助成金等)の活用や、クラウ ドファンディングも広く実施された。

〇ローカル・ネットワークによる「問題解決プログラム」
・調査をする中での気づきとしてCISの世話人の名簿を見ていると多くは自然災害を経験している中間 支援組織の代表者であった。コロナと自然災害は違うと言われるが、人々から新たに出てきた困りごとにどのように対応していくかということに関しては災害支援を経験しているNPOはイメージを持ちや すいのではないかと個人的に感じる。
・「とちぎボランティアネットワーク」と「とちぎコミュニティ基金」 「個人のSOSを支援する」をミッションに、困窮者・若者・薬物依存を支援。災害は個人のSOSが大量に発生した状態。とちぎコミュニティ基金(TVN運営)の「地域課題を解決するプログラム」を、コロナ をうけ、新たに立ち上げ。とちぎコミュニティ基金の機能は1助成、2合同ファンドレイジング、3 プロジェクト(大きなテーマを皆で調査・解決方法を考え目標設定・ファンドレイジング)の3つ。 今回はプロジェクト型だと、推測されるが、4月に緊急アンケートを実施、「がんばろう栃木!コロナ支 援基金」を立ち上げた。アンケート結果はホームページでも公開されていた。こちらの回答を見ながら プロジェクトを募集、合同審査を行い13事業に配分した。平時の仕組みを活用した事例である。 休眠預金等も活用し、ファンドレイジングを行い活動につなげている。
・とちぎボランティアネットワークの災害対応体制の紹介
災害時のシフトとチェンジ 災害時は「借りる、もらう、やってもらう」。平時はスタッフを中心に事業を行うが、災害時は助けた いという人がたくさん集まるので、彼らを中核として、職員がその流れをサポートする。仕組みが災害時にチェンジする。危機対応型の仕組みを持っている組織は日常の問題への対応もマネジメントを 行い解決していけるのではないか。
とちぎコミュニティ基金 https://tochigicomi.jimdo.com/aboutus/
・愛知県「NPOおたがいさま会議」 愛知県のイメージは災害に関わるNPOが活躍しているという印象。事務局にレスキューストックヤード も名前を連ねているが、災害支援で培ったネットワークや手法が生かされているという印象を持って いる。NPOおたがいさま会議では徹底した情報公開が行われているところがすごいと感じている。小さ くても資源のマッチングが大切にされている。会議冒頭に情報共有・マッチングの時間が設けられ、 その後、活動報告・意見交換を1時間で実施されている。 話を聞いていると緊急性が高い話題が出てくるが、様々な人が参加している事で、課題をどう解決できるか、意見交換がされ、解決につなげられている。互いに学びながら問題を共に考えていくという のが印象的だ。 参加者は組織の名前で参加しているが、グループワークの段階になると話す主体は個人となってい る。組織代表の側面と、個人としてどう感じているかの意見交換がされている。仕組みと情報公開 と、顔の見える関係の中でインフォーマルにやり取りできるというところをうまくつなげられている という印象を持った。 またコロナ禍だけでなくロシア・ウクライナ危機など、その後出てきた社会課題に対してもこの仕組みをあてはめ、取り上げられているのも興味深い。 会議の進め方も14回くらいで一度、全体の振り返りをされ、テーマごとに開催されるなど工夫されて おり、その時々の問題を後から振り返られる点も評価できる。
おたがいさま会議 http://otagaiaichi.starfree.jp

〇コロナ禍への対応からーNPOの可能性と
・コロナ禍における活動循環の創設 要望書をまとめるために実態調査をされているが、自らの活動を把握しながら要望する、経済資源や問題の可視化につながっていったと考えられる。
・活動循環に生かされた資源 NPO法を制定していく過程で、各地方間のネットワークが形成されたが、今回も中央-地方間、地域内 のネットワークが活かされていた。中間支援とNPOによる活動蓄積が活かされている、あるいは平時で きていないところが、出来ていなかった。
・危機対応によって生み出された可能性 マイナス面だけではなく、制約がある状況化で資源を有効活用しようとしていたことが、新しい工夫 を生み出していた。愛知NPOおたがいさま会議がそうだが、情報を共有し、個人も含めて組織間・セク ター間の連携を深めていた。 ・柏木氏の著書の中では差別や人権侵害、公権力に対する監視に関わる活動は不十分という評価もさ れているが、危機的な状況・制約がある条件下で様々な工夫がされていたことは今後の市民活動の参 考になると考える。

■質疑等
〇関口氏(フリーライター)
成功事例を2つ紹介いただいたが、自身の感覚ではうまくいかなかった事例のほうが多くあるのではないかと感じている。全体的な状況の中で事例紹介いただいた 2 つは他と平時の取り組みとしてうまくあ ったのでコロナ禍で機能したのか、どのような違いがあったのか詳しくお聞かせいただきたい。

→菅氏
・私も最初は政策アドボカシーの部分を見ており、災害支援に関わっているメンバーが多いというとこ ろから調査が始まった。各地の取り組みをもっと調査したかったが限りがあった。大阪・兵庫でも動き はあったが、提言は行っているが、ニーズに対し、単一の団体を超えた連携は見えにくかった。栃木、 愛知の活動は組織を超えてニーズを共有し、ターゲットを絞られていた。こちらが成功事例なのかどう かは私自身も答えはもっていない。注目すべき点としてはローカルの中で組織を超えて情報共有をしな がら、皆でターゲットを絞り支援活動を行っていく、そのやり方は災害支援と似ていると感じる。 平時の活動のインフラを杤木・愛知ともに活用されている。もう一点テーマごとにコロナで突出した課 題に対し、様々な方が連携した取り組みは調査していく必要があると感じている。もしこのような事例 を知っていたら、教えていただきたい。

〇野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・以下の意見がグループ内であった
・おたがいさま会議を含め、中間支援組織がもう少し身近に感じられるようになるとよい。また、菅先 生より、もっと中間組織がしっかりしていた時は良かったが、今はそのような組織の限界も見えてきて いるのでテーマ系の団体がサポートしていくことが必要な社会になってきたのではないかとコメント があった。
・NPO おたがいさま会議は被災地での情報共有会議の手法をとっている。皆が民主的に自由に意見を述 べられるのが良い点。
・中間支援組織の在り方について、政策アドボカシーを示していくためにはそれぞれの NPO の話をしっ かり聞いていかないとアドボカシーの提言につながらない。
・NPO おたがいさま会議に本当はもっと中間支援組織の参加があるとよい。

〇浜田氏(レスキューストックヤード)
・組織として参加されているが、ブレイクアウトルームに行くと個人の意見、個人としてできること、 組織としてできること等様々なレンジで情報共有・意見交換出来ていることは当たり前のようで当たり 前ではないかもしれないと気づかされた。徹底した情報公開についてもこれまで続けてきたことであま り意識したことがなかったが、NPO おたがいさま会議の特徴に改めて気づくことができた。

→菅氏
・なかなかできないことを実現されていると思う。今回参加してみて ZOOM の可能性にも気づかされた。 時間もきっちり区切れるので、だらだらしない。偶発性がないなどデメリットもあるが、ブレイクアウ トセッションに移ると、個人のレベルの話と組織のレベルの話を場面が変わると切り替えられる。自身も参加していて個人として話していると実感する場面があった。個人としてのつながり、組織としての つながり、様々なつながりを変えながらマッチングや意見交換ができていて貴重だし、可能性に気づか された。

〇大森氏(中日新聞)
・NPO おたがいさま会議の可能性を外から教えていただいたと感じる。
・中間支援組織が入っていないという指摘もあったが、現場を持っている人たちがおたがいに情報を持ち合い、中間支援的にやっていくやり方が、自治の精神があり、良いのではないかと感じている。今 後も NPO おたがいさま会議の可能性を広げていっていただきたい。

■情報提供(1 件)
〇土井氏(多文化共生リソースセンター東海)
・NPO おたがいさま会議でも 2 回ほど話題提供いただいた豊田市のエスコーラネクターというブラジル人学校がある。先日ボラみみ主催の NPO のチラシのコンクールに学校紹介のチラシを出品された。優 秀賞は別の団体だったが、一般投票で一番に選ばれた。多くの人からエスコーラネクターのことをし れて良かったとの声が届いている。引き続き頑張られているという経過報告をさせていただきます。

チラシコンテストの結果
https://blog.canpan.info/boramimi/archive/2274

〇菅氏(関西大学 社会安全学部・社会安全研究科 准教授 / 特定非営利活動法人 神戸まちづくり研究 所 理事)
「検証 COVID-19 災害」関西大学 社会安全学部 編を紹介させていただく。
・今回中央の政策アドボカシーや、NPO の財源構造については、ほとんどお話できなかったが、ブレイクアウトセッションの中で、中間支援が現場より偉いといった感じがどうしても出てきてしまうという 話があった。コロナで分かったことは、中間支援組織の政策アドボカシーを実態調査によって引き出していたところがある。それによって助成金や補助金が出るようになったが、実際に現場にどのように届 いていたかは検証する必要がある。自分たちの状態を調査によって明らかにし、それを提案につなげていく、中間支援組織だけでなく様々な組織が一緒になってやる、その循環が作られたことは市民社会と して大きな意味があったと感じる。どちらが偉いではなく、両方ないといけない。
・おたがいさま会議は中間支援の機能を果たした一つの場だと感じる。お互いに信頼し安心し発言がで きる場を運営していくには技術が必要だし、民度がないとできない事で、その点はとても重要。それを私は栃木、愛知の活動から感じた。中間支援の機能をもっと考えていく必要があるのではないか。

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