第90回:コロナ禍における障害者差別相談について
●日時:2022年8月23日(火)16時00分~17時00分
●場所:WEB 会議(Zoom)
●参加団体:20 団体(運営 6 団体含む)
●参加人数:25 名(運営スタッフ名9名含む)
■情報提供
〇種村氏(おたがいさま会議事務局:レスキューストックヤード)
・4 月~5 月のおたがいさま会議でウクライナ避難者の支援について取り上げてきた。その関連で皆様 にイベントのご案内 2 件とご協力のお願いを 1 件お伝えしたい。
・今週8月27日(土)に「Ukraine Day in Nagoya(ウクライナデー・イン・ナゴヤ)」と題したイ ベントを予定している。このイベントは、8 月 24 日のウクライナの独立記念日にちなんで同国の文化を 知ろうというイベントで、オンラインで参加申し込みできる。イベントのチラシをチャットで共有する ので、ぜひご参加いただきたい。
・ウクライナ避難者支援の情報共有会議を月に 1 回程度開催している。第 4 回を 9 月 5 日に開催するの で、多くの方にご参加いただき、意見交換しながら避難者の支援をしていきたい。
・日本ウクライナ文化協会がウクライナ本国の戦災孤児を支援するためのチャリティーイベントを企画 している。イベントは 9 月に実施予定だが、イベントの運営資金を集めるためにクラウドファンディン グを実施している。こちらの応援もお願いしたい。クラウドファンディングのサイトのリンクは下記。
https://camp-fire.jp/projects/view/615178
1.話題提供
■テーマ: 『コロナ禍における障害者差別相談について』
■スピーカー: 山田規貴氏(名古屋市障害者差別相談センター センター長)
〇(スピーカー紹介)名古屋市社会福祉協議会野川氏より
・本日登壇する山田センター長は、日頃は障害当事者の方や事業者側双方から様々な相談を受けている。また、障害者差別にフォーカスした啓発活動として、子どもたちや地域住民の方々に出前講座を日々行われており、今日はそうエピソードも交えながらお話しいただけると思う。
以下山田氏より
〇障害者差別相談センターについて
・最初に障害者差別相談センターについてお伝えする。私どものセンターは平成28年に開設された。名古屋市からの委託事業を法人として受諾している。営業日は月曜日から金曜日と第3土曜日にな る。営業時間は午前9時から午後5時までで、水曜日のみ夜8時まで相談を受けている。相談は電話、 面接、メールで受け付ける他、ホームページの相談フォームからも受付可能。
・業務内容としては、障害者差別に関する「相談対応」、「調査」、「トラブル等の調整」がメインの仕 事になる。
・その他の業務としては、今回のような講演や出前講座などの啓発活動を行っている。
〇障害者差別解消講座のご案内
・最初に「障がい者差別解消講座」を紹介したい。センターでは、「障がい者差別解消講座」という出 前型講座を実施している。障害者差別の解消をテーマに、事業者、地域、学校等に障害者差別相談セ ンター職員が出向いて行う講座であり、名古屋市内は原則無料(会場費と資料の印刷は依頼者が負 担)で行っている。オンラインでの開催も可能なので、ぜひ周りの方や企業等の方にもご紹介いただきたい。
〇「障害者差別解消法」について
・本日のテーマは「コロナ禍における障害者差別相談について」だが、前提の知識として、先ず平成28年に執行された「障害者差別解消法」について話をしたい。
・この法律の中で、私たちが目指す社会として規定しているものは以下のとおり。 「障害の有無によってわけ隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」
・また、この法律では「1不当な差別的取り扱いをすること」と、申し出があった場合に「2合理的 配慮の提供をしないこと」を「障害者差別」としている。
・国及び地方公共団体では、「1不当な差別的取り扱いをすること」、「2合理的配慮の提供をしないこ と」の両方に対して「法的義務」がある。民間事業者においては「2合理的配慮の提供をしないこ と」が「努力義務」であったが、昨年の法改正により令和6年から「義務化」となる。なおこの法 律でいう“民間事業者”には、ボランティア団体やサークル、町内会等も含まれる。
〇「1不当な差別的取り扱い」の禁止とは
・障害を理由として、正当な理由もなく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、障害のない人にはない条件をつけることが禁止されている。
・資料には、不当な差別的扱いの事例としてオストメイト(人口膀胱、人口肛門装着者)を理由に、プールの利用を拒否する事例、不動産取引において障害を理由に部屋を貸さない事例を掲載した。
・正当な理由がある場合は、その理由を説明しなければならないが、では、正当な理由とは何か?と いうと「客観的に見てやむを得ないと言える場合」である。例えば、タクシーの運転手が、障害の ある方からエレベーターの無い4階まで荷物を運んで欲しいという依頼を断ったとしても、本来業務とは異なるので、正当な理由となり、差別には当たらない。
・ただ、これはあくまで法律上の話であり、困っている人を助けるかどうかは別の問題である。
〇「2合理的配慮の提供」・・とは
・障害のある人から「手助けや心くばりをして欲しい」と言われた場合、負担にならない範囲で、社 会的障壁をなくすために必要で合理的な配慮をすることが求められる。
・具体例として、段差があって店に入れない障害者を店の職員が介助するとか、簡易スロープをかけ るなどして、サービスが利用できるようにすることなどが考えられる。
・障害のない人が受けられるサービス水準と障害を理由に受けられるサービス水準に差がある場合、 この差を「社会的障壁」(差別)といい、この差を埋めるものが、「合理的配慮」ということになる。
・ここでいう「合理的」には、3つのポイントがあり、1常識の範疇であること、2業務の範囲である こと、3無理のないことが判断の基準になる。ただし、障害の状況であったり、事業者のできる範囲によって個々のケースで考えていく必要がある。
〇差別解消には「建設的な対話」が必要
・こうした差別をどう解消していくのかという時に、キーワードになるのが「建設的な対話」であ る。
・なお、障害者差別解消を検討する時は、以下4つの視点で考えていく必要がある。
1「障害のない人」と比較して、異なる取り扱いをしていないか。
2その取扱いの根拠は「障害を理由」にしていないか。
3異なる取り扱いをする「正当な理由」があるか。
4どうしたら「同じ取り扱い」をすることができるか。
・また、サービス提供者と利用者(障害者)の関係性の前提として、以下の3点を抑える必要がある。
1障害の有無にかかわらずお客様であることは変わらない。
2人は一人ひとりちがう(個々に配慮して欲しいことが違う)。
3相手のことはわからない(お客さんのことは基本知らないし、見た目だけで障害のことはわから ない)。
・利用者(障害者)側も、サービス提供側にどんな事情があるのかわからないことから、お互いに理解することが必要であり、そのためには「建設的な対話」が極めて重要になる。
・「建設的な対話」とは、どちらか一方の主張を押し付け合うものではなく、できることを一緒に考え、 どこで折り合いをつけるかを考え合うこと。「できない」と簡単に言わずに代替えの手段を一緒に模 索することは、事業所の質を高めるとともにお互いの理解と差別の解消につながる。
〇コロナ禍における障害者差別相談の事例について
・コロナだからこういう相談が増えたとは言い切れないが、本日は 2 事例を報告する。ただし、実際の 差別相談では、その時々の条件によって差別に当たるかどうかが変わってくるので、それを前提に聞い て欲しい。
・コロナ禍で生活様式は大きく変化した。インターネットの普及とそれに伴うコミュニケーションの変化や購買方法の変化およびキャッシュレス化も進んだ。また、特にマスクでの生活は私たちに大きく 影響している。こうした変化の中で「技術の進歩」によって差別的な取り扱いがなされた事例を最初 に紹介する。
〇【事例 1】セミセルフレジでの対応
・セミセルフレジ(支払いを客が精算機で行うタイプ)を導入しているあるスーパーマーケットで、視 覚障害者の方からタッチパネルが見えず会計ができなので補助してほしい旨の申し出があったが、人員 が少ないので自分でやるように言われてしまった。何とか頼んで、手伝ってもらったが、次からは自分 でやるように言われた。
・この事例の場合「合理的配慮の提供」ということでは、1 台残してある普通のレジ(職員が清算)で 対応するか、スタッフの誰かが支払機での清算を補助すればよかった事例だと思う。現場で十分対処で きたはずだが、障害者への合理的配慮の提供が事業者の義務であることを知らないケースは多い。
・「技術の進歩」は私たちの生活に大きな恩恵をもたらすが、一部取り残されてしまう人もいるという 事実がある。欲を言えば開発段階で想定しておいて欲しいものだが、それができない場合は現場で柔軟 に対応するしかない。このように対処が「合理的配慮の提供」にあたる。
〇【事例 2】マスクの未着用による入店拒否
・もう一つ「社会的責任」というキーワードで事例を紹介する。
・発達障害のある女性で知覚過敏のため、マスクの着用が困難な方が、商業施設の入店を拒否された事 例だが、同様な相談事例は 5 件くらいあった。
・お客さんの言い分や思いとしては「マスクをしたくてもできない事情がある」、「代替え手段が思いつかない」、「理解してもらえないもどかしさ」、「差別解消法に基づく対応をして欲しい」があげら れた。
・一方、お店側の言い分としては「お客さんの中から感染者を出したくない」、「感染防止は企業とし ての社会的責任である」、「経済産業省の指導に基づき業種別ガイドライン」に沿って対応しており同 ガイドラインでは「お客さんにも感染防止対策への協力を求める」となっていることなどが聞き取りか ら判った。
・こうした相談事例の全てが「不当な差別的取り扱い」にあたるとか「合理的配慮の提供」をしていな いとは言い切れないが、双方の理解がされなかったことで、センターへの相談事案となった。
・改めて先ほどの「建設的な対話」について考えたい。どちらか一方の主張を押し付け合うのではなく、 “折り合いのつけ方”や“できること”を共に考えることが大事だ。できないと言ってしまうことは簡 単だが、代替え手段の提案について考えて欲しい。実際にマスク無しの入店を拒否した商業施設からは 今後もっと違うアイデアを出していきたいとのコメントをいただいている。
〇障害者差別解消に向けての課題
・最後に、障害者差別相談センターが現状、課題と思っている点を以下(3 点)紹介する。
1「合理的な配慮の提供」を要請した時の「過重な負担」の根拠が見えにくい。例えば経済的な面で言 えば 1 万円でも「過重な負担」と感じる事業者がいる反面、10 万円かかっても、お客さんのために改善 する事業者もいる。現状こうしたあいまいさの中で対応をせざるを得ない。
2罰則がない中で、企業が取り組むメリットが見えにくい。ただ、私たちが目指すところは共生社会な ので、罰則があれば良いと単純に考えているわけではない。
3差別はいけないと誰もが認識はしており、経営陣の認識としても“うちはお客さんを差別していない” と思っているとことが多い。差別の話は他人ごとであり、対岸の火事的な関心度で、当事者意識が薄い 場合が多い。
こうした課題を踏まえつつ、障害者差別相談センターでは、差別解消の啓発をさらにすすめて行きたい と考えている。 最後に、あらためて出前型講座「障害者差別解消講座」のお知らせをしたい。こうした講座があること をぜひ知り合いの企業、人事に関する方、経営に関する方に伝えて欲しい。多くの方に新しい社会常識 としての「障害者差別解消」を知っていただきたい。
2.質疑等
〇野川氏(名古屋市社会福祉協議会)
・我々のグループでは、「今日の話を聞いて身近に困っている方が多くいらっしゃることが判った。」という感想や「社会生活を送る中で、ご自身やご家族が差別を感じることがある。」という話であっ たり、居住支援業務を行っているという方からは、「部屋を探すときに、障害の有無を伝えるかどう かについて非常に悩む」ということなどが話された。
・障害を伝えた上で部屋をきちんと借りたいという当事者の方や、あえて言わずに部屋を借りた場合、 何故それを隠さなければいけないのかという本人の思いなどについて議論を深めた。
・この法律には罰則や明確な基準がないので、福祉意識の醸成というか、山田センター長が言うとこ ろの共生社会を進めるというような、ファジーな部分にはなるが、コツコツと出前講座などをして地 域住民や企業など、皆が差別に対する正しい理解を深めていけるようにしなければならないという意 見が話の中で出された。
〇宇野氏(コープあいち/レスキューストックヤードに出向中)
・登壇者の山田センター長と名古屋市の斎藤さんのグループで話し合った。斉藤さんは、仕事柄この法律のことはよくご存じで、その対応についての難しさも感じているとのことだった。難しい対応の中で、コミュニケーションがやはり大事だということを感じているとのことだった。
・私はコープあいちからレスキューストックヤードに出向しており、店舗にも応援に行くことがあった。実体験として障害と言ってもいろんな障害があり、それそれの方にいろんな思いがあると感じている。 障害者の雇用促進ということでは、一緒に働く中で、その方と時間を共にすることで、徐々にその方 のことが、障害の性質も含めて判ってくる。しかし、障害者差別解消法は、サービス提供時の法律な ので、最初に来た人については、全くわからない。不特定多数の方が来る店舗で、どう対応していけ ばいいのかは、なかなか難しい課題だ。やはり、斉藤さんがおっしゃったように「コミュニケーショ ン」が決め手だと思った。
〇関口氏(フリーライター)
・今日の 2 つの事例は、あくまで障害者の方がお客さんだということが前提の事例。セルフレジの問題だとか、マスクの問題というのは、障害者だけでなく障害者以外の人も迷うことがある問題。
・逆に障害者の方が働く立場の場合はどうなんだろうとも思ったが、今話が出たように、障害者雇用促進法という別の法律の中で考えることなんだろうと納得できたところはあった。
・また、企業やお店の側が困って相談するケースはどれくらいあるのか?あるとしても相談してくる企業はまだいい方で、普通はその場で終わってしまうか、現場だけの問題になってしまうのではないか。どれぐらい企業側から相談されて、それをセンターでどこまで受け止めているかをお尋ねしたい。
→山田氏(障害者差別相談センター)
・企業側からの相談はすごく少ない。昨年度、差別相談ではない相談も含めてセンターでは 2 百数十件件の相談を受けたが、企業からの相談は 1 件のみ。その相談事例は、商業施設で視覚障害の方の誘導 のサポートをしていたが、コロナで業績が悪化し、従業員が減ったので、サポートの申し出に対応で きない。やめていいか?という相談だった。
・この場合、正当な理由があるかをと考えると、実際にお困りの方がいるのに店として「許容できる範 囲」なのかをセンターとしては、問いかけることになる。その商業施設は様々なテナントが入ってい る複合施設だったので、管理をしている会社だけが合理的配慮を担う対象ではなくて、各テナントも 合理的配慮を提供しなければいけない立場にある。他の店舗さんにもお声がけしてアイデアを出し会うなどの対応ができないか?という助言をした。
・差別相談センターとしては、サポートをやめたいと言われても、ちょっと待って下さいというしかない。こちらもアイデアを出しながら一緒に考えていくというスタンスになる。
〇山田氏(障害者差別相談センター)
私たちは、本日話したように差別相談という少し変わった相談を受け付けている。差別問題は、社会の 問題として対応していかなければいけないと思っており、特に民間企業、事業所の「合理的配慮」が法 改正で義務になったことを受けて、周知・啓発をしっかり進めていきたい。皆様にもぜひ、ご協力をお 願いしたい。
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